行こうぜ!性別の向こうへ

「カミングアウトした後のほうが幸せ」歌人・鈴掛真さんからのエール

歌人として活躍する鈴掛真さんは、書籍『好きと言えたらよかったのに。』(大和出版)で自身がゲイであることを公表。周囲の「男はこうあるべき」という言葉に惑わされずに自分らしく生きる鈴掛さんに、幸せに暮らす秘訣をお聞きしました。

●行こうぜ!性別の向こうへ

「女性はこうあるべき」に悩む人へ

僕の周りには30代の女性の友人が多くて、恋愛やこれからの暮らしについて相談されることも多いんですが、往往にして思うのは「もうちょっと自分勝手に生きてもいいんじゃない?」ということ。

何歳までに結婚しなければいけないとか、女性だからこう振る舞わないといけないとか、男性より女性のほうが「こうしなきゃいけない」という周囲のプレッシャーが多いと思うし大変だとは思うんですが、もっと自分本位でいいんじゃないかって思ったりします。

失礼なレッテルを貼ってくる人も、きちんと向き合えばわかり合えるかも

ゲイだというだけで、男性に警戒されることもあります。「ゲイだから」とか「アラサーだから」とかレッテルを貼ってくる人に対しては、なるべく付き合わないというのも1つの手です。僕はなにか言いたいことがあったら文章で発信する機会があるからいいけど、会社や友人関係で嫌なことがあった時に何かアクションを起こすのってすごく難しいと思うんです。訴えを起こした側が悪者に見えてしまうこともある。

でも、理解してもらいたいなら、それを伝える方法もあります。実は、ある男性の友人に対してアクションを起こしたことがあるんです。その友人は「ゲイ=女性的な男性」という考えを持っていて、それを聞いた時にすごく嫌な気持ちになって。一般的にもそう考えている人が多いと思いますが、同性愛者だから中性的っていうのは実は誤解で、多くのゲイは自分のことを男性として自覚しながら生活しています。肉体と精神の性別が一致しない性同一性障害が意外と知られているのでよく混同されるんですが、同性愛と性同一性障害はまったく別の話なんです。

でも飲みの席でそういう話を急に切り出すのもなぁと思っていました。だからブログの記事に思いを書いて、「本当はすごく嫌だと思ってたことがあって、でも直接は言いづらいから記事を読んで」と伝えました。そしたら、ちゃんと記事を読んで理解してくれたんです。

友人に面と向かって嫌なことを伝えるのってすごく勇気がいるから、記事とか本をおすすめしてみたりするのもいいかもしれないですね。LGBTのことをうまく説明できなくて困っている方に、僕の書籍をそういう風に使ってくれたらすごく嬉しいなと思います。

楽しく生きていても、落ち込むこともある

会社員を辞めて作家活動を始めた当初は「いろんなことをできる」というワクワクの方が大きくて、あまりネガティブな考えは浮かびませんでした。

そんな僕でも年に1度くらいすごく気分が落ちることもあります。今の仕事のやり方に迷ったり、「結局自分って一人だよな」って思ったり。そういう時は、周りに相談。どうにか乗り越えた時には、以前よりもっといいモチベーションになっていることが多いです。だからネガティブになっても、その都度考えればいいかなって。「どうにかなるさ」という気持ちでやっています。

でもいまだに自分は前向きな性格だ!とは思っていません。周りからは「鈴掛は物書きにしては明るいよね!」とか言われることが多いけれど、昔はそうじゃなかった気がします。

箱入り息子だったから無理に前に出る必要もなかったし、人前に立つと明るいけど家に帰ると暗くなるタイプでした。学生時代は自分のセクシャリティについて、どう解決したらいいんだろうとひたすら自分の部屋で考えて、自分の気持ちを文章に起こしたりしていて。カミングアウトした後ですね、こんなに前向きになれたのは。

家族からの期待が辛くても焦らずに

一番近い人間関係ともいえる、家族からの期待やプレッシャーを感じる時は、感情的ではなく論理的に考えて解決していくといいと思います。例えば「結婚しないの?」ってよく聞かれたりしますよね。でも今じゃない、と自分では思っていたりする時。

家族に自分の考えが受け入れられないと、諦めて従ってしまったり感情的に訴えてしまったりしたくなりますが、そこで諦めずに「自分の望むライフスタイルを家族にも理解してもらうためにはどうしたらいいか」を具体的に考えることが大事です。

血が近いからこそいがみ合うし、毎日顔を合わせてるからこそストレスを抱えることもある。親兄弟だからこそ距離をとってみるというのも一つの方法です。また、家族との関係が険悪な時に、勢い余って大事な話をしようとする人が多い気がするけれど、それはダメ。何かを人に打ち明けるときは、まず場の空気を温めることが大切だと思います。

僕の場合は親元を離れてからも、年末年始に顔を合わせたり、母の日や父の日に贈り物を送ったりと自然と適度な距離を保てていたことがいい方向に働きました。

両親には、書籍の出版とともにゲイであることをカミングアウトしたのですが、父親に「いい仕事だと思うから君は自信をもってね」と言ってもらえて。きっと僕の覚悟を感じてくれたんだと思います。

telling,読者のみなさまも、家族からの期待に押しつぶされそうになった時は「どうせ分かり合えない」と諦めずに、ゆっくりと関係を温めてみたらいいんじゃないかなと思います。

ゲイだけど質問ある?

鈴掛 真

1990年生まれ。東京都目黒区出身のライター・編集者。「明日を楽しく生きられるように!」をテーマに、旅行、グルメ、ライフスタイルなどに関する文章を執筆しています。
写真家。1982年東京生まれ。東京造形大学卒業後、新聞社などでのアシスタントを経て2009年よりフリーランス。 コマーシャルフォトグラファーとしての仕事のかたわら、都市を主題とした写真作品の制作を続けている。
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