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LGBTの生きづらさ、フィリピンでは?「ゲイは誇り」と語る英語教師の夢

フィリピンのセブ島で語学学校の教師として働くJouie Renart(ジョウイ・レナート・21歳)。毎朝、私は彼にオンラインで英会話を教えてもらっています。先日、ふとした会話から彼がゲイだという話になりました。日本はまだまだLGBTの方々が生きやすい社会とは言えませんが、フィリピンではどうなのでしょうか?詳しく聞いてみました。

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自分自身の人間性を否定されているように感じる

ジョウイは語学学校の教師で、毎日たくさんの生徒に英語を教えています。ゲイであることについて、こんな話をしてくれました。

「以前、日本人のゲイの生徒に会いました。彼は、自分がゲイであることを家族や友達にも打ち明けられず、ずっと隠していました。私もゲイだから気持ちはわかります。日本ではまだゲイのことをオープンにするのは難しいかもしれない。でも、自分を偽らなくてもいいと思う」

ジョウイが言うように、今の日本社会はゲイの人たちにとってはまだまだ生きづらさを感じる障壁が多そうです。では、フィリピンではどうなのか。そんな疑問をぶつけると、彼はこう答えました。

「まったく差別されないかといったら、そうでもありません。私も、男性用トイレに行くと『ゲイなんだから女性用に行けば?』と言われたり、『ゲイはバカだ』とからかわれたりしたこともあります。いいなと思う人ができても、声をかけることすらできない。彼の態度を見たら、自分のことを嫌っていることがわかるんです。友達になれたらって思うけど、それすらできない……。

そんなときは『いつものこと。もう慣れてる』って自分に言い聞かせています。だけど、本当はすごく傷つきます。自分の性よりも、自分自身の人間性を否定されているように感じるから」

ゲイであることで嫌な思いもたくさんしたけれど、それをバネに「見返してやろう」と勉強も仕事も頑張ってきたと語るジョウイ。今の生活には満足しているのでしょうか。

「今働いている語学学校では、私は自分がゲイであることを隠していません。私は、語学学校の教師としてきちんと生徒たちに英語を教えられる。セクシャリティは自分の一部でしかない。私はゲイである自分に誇りを持っています。

ここでは、同僚や友人はみんな私のことを尊重してくれる。ゲイだからといって、誰かから差別されることはないです。たまに、軽いジョークで『私たちゲイだからね~』なんて話をすることもあるけど、それくらい」

周囲の人に対してオープンな気持ちで生きているからこそ、ジョウイはゲイである自分自身に誇りを持てるのかもしれないと感じました。ところで、家族はそんなジョウイをどう思っているのでしょうか。そんな質問にも、彼は躊躇なく答えてくれました。

新しい父親なんて欲しくなかった

ジョウイの両親は、彼が5歳くらいのときにはゲイだと気づいていたけれど、ありのまま受け入れてくれたといいます。状況が変わったのは、彼の父親が亡くなってから。

「私が6歳の時に父が亡くなり、その1年後、母が再婚しました。母の再婚相手とは、長いことうまくいっていません。私は亡くなった父のことが大好きだったから、新しい父親なんて欲しくなかった。それに母の再婚相手は私のことを嫌っている。理由は、私が彼の本当の子どもじゃないし……たぶん私がゲイだから」

ステップファミリーとはいえ、義理の父親から自分を否定されるのはとても悲しいこと。ジョウイは6人きょうだいの一番上で、下3人は異母きょうだいになります。

「母の再婚相手は、私たち血のつながりのない3人と彼自身の子どもを同じようには扱ってくれなった。自分たちは召使いのように見られている。彼の人生にはいない方がよかったのでしょうね。

私は義理の父が妹たちの悪口を言うのが嫌だったし、彼とはいつもぶつかりました。彼は学費も出してくれなかった。だから、私は結婚式で歌を歌う仕事やダンスやボイストレーニングのコーチなど、様々な仕事をして自分でお金を稼ぎ、進学しました。社会人になった今は、母やきょうだいのために毎月仕送りをしています」

「それでも……」と彼は言葉を続けました。

「義理の父には感謝しています。きょうだいが増えたことは本当に嬉しいし、彼は私の母のことを愛してくれるから。だから私もいつか彼を受け入れようと思います」

歌っているときが一番自分らしくいられる

現在21歳のジョウイ。将来、彼がやりたいことについて聞いてみました。

「やりたいことはたくさんあります。タイや日本など、いろんな国に行ってみたい。それからフィリピンのストリートチルドレンたちが教育を受けられるようにサポートしたい。彼らに英語を教えたら、いろんな可能性が広がると思うんです」

彼のもう一つの夢は、アーティストとして活躍すること。

「アーティストになりたい。昔から歌うのも踊るのも大好き。歌っているときは自分自身を解放できるし、気持ちが楽になるから。歌うことで、自分が感じたことを素直に表現できるんです。ダンスも同じ。自分が男か女かなんて関係ない。自分らしくいられる瞬間なんです。

それに、音楽は人を癒すことができるから。私の歌を聴くことで、同じように自分自身を解放できる人がいたら、その人たちに歌を届けたい」

私はジョウイに英語を習ったことで、彼をはじめたくさんの外国の人と知り合うことができたし、インタビューもできるようになりました。彼がこれからどんなふうに自分自身の道を切り開いていくのか、とても楽しみです。

明治大学サービス創新研究所客員研究員。ミリオネアとの偶然の出会いをキッカケに、お金と時間、行動について真剣に考え直すことに。オンライン学習講座Schooにて『文章アレルギーのあなたに贈るライティングテクニック』講座を開講中。
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