角田光代ら直木賞作家3人がコラボした絵本に学ぶ「伝え方」の極意
●telling,編集部コラム
この本は名エッセイストとしても知られていた向田邦子さんの生誕90周年を記念してつくられました。1981年に起きた旅客機の墜落事故でこの世を去った向田邦子さんは、さりげない日常生活をスケッチした、深くて味わいぶかい文章を多く遺しています。
絵本は、原作となったのは向田邦子さんが書いた戦時下の暮らしを描いたエッセイをもとに、向田邦子さんの大ファンの角田光代さんが絵本用に文章を書き、画家としても活躍している西加奈子さんがクレヨンで絵を描きました。
物語は戦時下の日本。両親と4人のこどもたちの平凡な家族に、時代の波が押しよせてきます。空襲が始まり、子どもたちは疎開に出されます。お父さん、お母さんはまだ小さい末っ子の娘を手元に置いておきたかったけど、戦況が厳しくなると、それもかなわなくなります。
遠足にでも出かける気分なのか、末っ子の娘は疎開に行くにもどこかうれしそう。一方、厳しくて怒ると怖いお父さんは、娘のことが心配で、心配でたまらない。ハガキをたくさん準備し、1枚1枚、宛名に自宅の住所を書きました。「毎日、元気だったらハガキに○を書いて、元気がなかったら×を書いて送りなさい」といって、ハガキの束を渡します。そう、末っ子の娘はまだ字が書けなかったのです。1週間後、お父さんの言いつけを守った娘からハガキが届きます。大きな○が書いてありました。でも、次の日から○はどんどん小さくなっていく。そしてある日、×と書かれたハガキが届いて--。
不思議な空気感が漂う絵本でした。角田光代さんの文章はそぎ落とされて、情緒的な記述は一つもありません。たんたんとつづられています。西さんの絵には爆弾も兵士も描かれていません。それどころか人の顔がいっさいでてこないのです。そもそも、戦争の話なのに、この本にはどこにも「戦争は悲しい」とか「戦争は許せない」といったメッセージは出てきません。静かな絵本だからこそ、いろいろな思いが胸にこみあげてきます。
個人的には、小さな娘がうれしそうに疎開に出かけたり、ハガキに大きな○を書いてきたシーンに揺さぶられました。この世の中に親孝行でない子どもはいません。小さいなりに、お父さん、お母さんに心配をかけたくないと元気にふるまっていたのかもしれない。そう思うとぐっときて……おっと、いけない。目にゴミが入ってしまった。やっぱり、私、読書は苦手です。
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