LGBTの団体をつくった24歳「生きづらさは、社会の構造の中で起きている」
●行こうぜ!性別の向こうへ
自分の経験していないことは人にアドバイスできない
――昨年3月に大学を卒業後、就職せずに一般社団法人fairを立ち上げました。これも一般的に「こうあるべき」という枠から外れる選択でしたね。迷いもあったのですか?
迷いはすごくありました。「3年くらいは会社員やったほうがいいよ」って周りから言われることも多かったですけど、自分のしたことがない経験って、想像でしか話せないからアドバイスするのって難しいじゃないですか。だから、会社員の人が「やめたほうがいい」って言うのは当然だよなと思って、あまり気にしませんでした。
ただ、実は卒業前に1年間休学していて、LGBT関連のNPOスタッフを経験したり、就活して内定ももらったりしました。でも、最終的にはやっぱり自分の団体を作ろうって決めました。自分がやりたいのはLGBT関連の法制度の改革につながる情報発信で、それをメインでやっている団体が他になかったのが理由です。
人生が「運命」にゆだねられないために制度が必要
――なぜ「法制度」なのですか?
自分はたまたまラッキーが積み重なって、あまり苦しい思いを経験せず、今に至ることができたと思っています。一方でLGBTであることを理由につらい状況に追いやられている人もいるのが現実で、自分もいつそうなるかわからない。その状況を作っているのは社会の構造だと思うんです。
自分の生きづらさや周りの人の抱えている困難は一見、個人的なことだけれど、実は社会や制度の仕組みの中で起きていることなんだって気づき始めてから、法律や政治を意識するようになりました。
その人の人生が、例えば生まれた場所や時代、家族、学校の先生、職場の人間関係などの「たまたま」っていう運命にゆだねられないように、最低限のセーフティネットがほしいなと思っていて、そのためには制度が整えられないといけないと考えています。
自分の「普通」は誰かの普通じゃないかもしれない
――「らしさ」とか、こうあるべき、というものにとらわれすぎないために、意識していることはありますか?
偏見がない人はいないっていうか、自分にも偏見があるっていうことを前提にしていますね。だから、人と話すときに「普通こうだよね」とか「みんなこうだよね」っていう言い方をしないっていうのを自分のルールにしています。
――女性についていうと、最近、問題になった「週刊SPA!」の女子大ランキングの記事や医学部入試の女性差別には、女性の一人として私は怒りを覚えるし、こういう状況を変えようと声を上げる人の原動力も、やっぱり怒りだと思います。その点、松岡さんの、柔らかさを持ちながら社会を変えようとしている姿勢がなんだか新鮮で、印象的でした。
そうですね、あまり怒りが原動力にはなっていません。もちろん怒っている人は怒っていいし、私も怒ることはあります。傷ついた人が「傷ついた」とちゃんと言える社会であってほしいとも思います。でも一方で、世の中を変える方法はそれ一つだけではないと思うんです。
あえて相手の懐に入り込んだり、対抗する言説をぶつけたり、いろいろ方法はあると思うので、そのなかで自分にしかできないことをやりたいって思っています。自分はたまたまそれが怒りをもとにしたものではなかったんだという感覚です。
たしかにときどき、上の世代の人から「新しい世代っぽさがある」って言われることもありますが、先に道をつくってくれた人がいるから、より軽やかに歩けるのかもしれません。次の世代はもっと軽やかに進んでいけるようバトンを繋いでいきたいです。
続きの記事<「同性パートナー」制度に尽力の上川区議「役所は市民の声を無視できない」>はこちら
- ●松岡宗嗣さんプロフィール
- 1994年生まれ。一般社団法人fair代表理事。明治大学政治経済学部卒。2018年に一般社団法人fairを設立。政策や法制度を中心としたLGBTに関する情報発信やキャンペーン等を行う。教育機関や企業、自治体等での研修や講演多数。2015年、LGBTを理解・支援したいと思う「ALLY(アライ)」を増やす日本初のキャンペーンMEIJI ALLY WEEK発起人となる。
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