行こうぜ!性別の向こうへ

「同性パートナー」制度に尽力の上川区議「役所は市民の声を無視できない」

2015年に渋谷区と世田谷区に誕生した同性パートナーシップ制度は、同性のカップルの存在が全国に先駆けて公的に認められた画期的な出来事でした。世田谷区議の上川あやさんは、同区での制度導入の立役者。自らも性同一性障害を公表して議員となり、その後、性別適合手術を受けて戸籍を男性から女性に変えています。少数者が生きづらい社会を変えるにはどうすればいいのか、お話を聞きました。

●行こうぜ!性別の向こうへ

それまで誰も区に要望してこなかった

――2015年11月に始まった世田谷区の同性パートナーシップ制度は、同性のカップルが区の定めた「パートナーシップ宣誓書」に署名すると、区が受領証を交付し、結婚に準じる関係と認める仕組みですね。今までにどれくらいの方が申請していますか?

上川議員(以下、上川): 2019年1月1日までで81組(162人)です。

――区内で81組というのはかなり多いと感じますが、制度を検討し始めるまでは区に対して要望が来たことはなかったとか。上川議員が自ら区内の当事者を探して、勉強会を重ねるところから始めたんですよね。

上川: はい。多くの市民は困っていても、個人的な課題を自分の住んでいる街の社会制度に結び付けて変えてこうという発想になかなかならないのではないかと思います。

私はトランスジェンダーの異性愛者なので、同性カップルの当事者ではありません。議員として、同性パートナーの権利を認める制度の必要性を主張することはできても、それだけではリアリティがないんですね。役所からすると、そこに本当に市民のニーズがあるかないかわからない、ということになってしまう。それでは制度はできません。困っている当事者たちの声を、行政に届ける必要があったんです。

――当事者たちと意見交換の末、上川さんは2015年3月、同性カップルら16人と世田谷区役所を訪れて、同性パートナーを公的に認める制度の実現を求める要望書を提出しました。この行動の狙いは何だったんですか。

上川: 多くの役人にとって、同性カップルは彼らの日常の中では見たことも聞いたこともないから、その悩みに関して切実さがないんですね。だから当事者である区民の声を直接役所の皆さんに聞いてもらう必要があったんです。

たとえば、同性カップルは2人で家を借りようと思っても不動産業者や大家に理解されず断られたり、急病の時の相手への付き添いや手術の同意書へのサインが病院から認められなかったりという困難を抱えていました。要望書の提出をきっかけとしたヒアリングでこうした問題が明るみに出たことが、制度が成立する足がかりとなりました。

理想を語るだけでは制度はつくれない

――現在は同性カップルのみが対象になっていますが、異性カップルからもパートナーシップ制度を望む声があります。上川議員も最初は異性も含めた制度を計画していましたよね。

上川: 性別を問わずに、というのがこちらの希望でした。でも役所から検討案として出された条文にあったのは「同性カップル」という文言だったんですね。

でも、物事にはプラスとマイナスの面がある。条文に「同性カップル」という言葉を入れるということは、同性を愛することを正面から認めてこなかったこの社会のなかで、初めて社会制度として同性同士の性愛を認めることです。つまり、その正当性を認めことになる。これはすごいことなんじゃないかって思ったんですね。

それと、男女で事実婚をする方には基本的な権利がある程度認められています。相続時の財産分与や税の優遇はないけれど、健康保険、年金、公的住宅などで婚姻同様のの扱いが認められているんですね。ところが同性愛者においてはそれらがまったく認められていない。何もかも欠けている同性カップルの扱いに進展があるだけでも大きな成果だと思いました。

市民としての賢さとは、社会制度を変える方法を身につけること

――誰でもふとした機会に生きづらさを感じることがあります。しかし、そこから社会を変えるための行動に出る人は少ない。私1人ではどうせ変えられない、と思っている方も多いように感じます。

上川: でも、当事者である市民が声をあげることには、とても大きな意味があるんですよ。なぜかというと、役所というのは、「あるかないか分からない」ニーズに対しては手当てできない一方で、「あること」は「ないこと」にできないんですね。

たとえば世田谷区では返答を求める区民の意見に対して、原則として1週間以内に返答するとルールで決まっています。はがき1枚、メール1通にも返答します。そこで問題があることが明らかになれば、何ら検討もしないとはもう言えないんです。だから、当事者が声をあげることにはとても大きな効果があります。

それに、請願(市民が国や地方公共団体に苦情や要望などを申し立てること)は未成年でも外国人でもできます。未成年にも社会を変える基盤はあるんです。

――役所のルール上も、市民の声を無視はできないようになっているんですね。

上川: あとは、相手も人ですから。たとえば、集団で役所に訴えるためにひな型を用意して、同じものをコピーしてみんなで送るとします。それで役人がどう対応するか、までの想像をしてほしいんです。

同じものが何百通来たら、ふつう全部は読みませんよね。一人ひとりが自分の言葉を手書きで書いた時のインパクトのほうがずっと強い。自分の言葉で思いを表現することが大切です。

何かがおかしいと思った時にそれを変えていくための方法論を身につけることは、市民としてのひとつの賢さだと思います。そうでなければ社会制度に踊らされて生きることになってしまいますから。

(次回は、世田谷区議として活躍する上川さんの素顔に迫ります)

フリーランスライター。元国語教師。本や人をめぐるあれこれを記事にしています。
フォトグラファー。岡山県出身。東京工芸大学工学部写真工学科卒業後スタジオエビス入社、稲越功一氏に師事。2003年フリーランスに。 ライフワークとして毎日写真を撮り続ける。
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