男装の和服で本を読む牧村朝子さん
行こうぜ!性別の向こうへ

タレント・牧村朝子さん「私が今も男装をする理由」

日本とフランスを行き来するタレント・文筆家の牧村朝子さん(31)。10代の頃、「女性の格好をしているとなめられる」と感じて男装を始めたという牧村さんは、その後、タレントとして同性愛を公表。紆余曲折の人生の中で「自分を装うことをやめる」という考えに至った経緯を聞きました。

●行こうぜ!性別の向こうへ

好きな女の子と手をつないで歩きたかった

――学生時代には、男装をしていらっしゃったそうですね。何かきっかけがあったんですか?

牧村朝子(以下、牧村): 女である自分が女を愛するには、男役をしなければならないと思い込んでいたからです。同じ高校の先輩で、性同一性障害の診断を受けた人がいたんです。その先輩は男性の名前に変え、モヒカンヘアにして、校内を歩くときも彼女を連れていたんですよ。それがすっごくかっこよく見えたんです。

当時の世の中は「同性愛は気持ち悪くて直すべきもの」というような偏見が今より強かったけれど、性同一性障害の診断を受けた先輩は、周囲から受け入れられていた。好きな子と歩くためには、自分も性同一性障害というものにならなければいけない……と言ったらおかしいけれど、その時はそう感じていたんです。それが男装を始めたきっかけでした。

和装での男装姿を見せる牧村朝子さん

キャッチを無視したら「ブス」と言われる理不尽さ

男装のもう一つのきっかけは、街での出来事でした。単位制高校に通っていたので、平日昼でも授業がないことがあったのですが、10代の女性が昼間に出歩くと「君いくら?」、「稼げる仕事、興味ない?」とか声をかけられるんですよ。無視すると「ブス」とか言われる。スカウトの人もずっと断られ続けてつらかったのかもしれませんが、「ブス」とか「いくら」とか、そういうことを私に言っていい理由にはならない。

それで、男装――オラついたファッションをして、髪の毛を赤く染めて立たせて、ピアスのようなものを口につけて歩くようにしたら、誰も声をかけてこなくなったんです(笑)。

そのときに「女の格好をして生きると社会になめられるし、嫌だと思ったことを断るだけで『ブス』と言われるんだ」って思ったんです。全部脱ぎたかったんだと思う。知らない人にブスと言われたときに、ちゃんと怒りたかったし、その強さを持つための儀式みたいなものが、私にとっては男装だった。

男装から「ミス日本」へ

――その後、撮影会のモデルとして活動して、2010年にはミス日本のファイナリストにも選ばれていますね。

牧村: 学生時代、まったくお金がなくて大学も除籍になって、稼ぐために撮影会の仕事をやっていたんです。「もっと稼ぐにはミス日本のタイトルを取らないと。そしたら撮影会の予約がいっぱい入って生活していけるな」って思って(笑)

――今まで男装をしていたのに、水着もある撮影会の仕事は嫌じゃなかったんですか?

牧村: 水着の撮影に臨むときは、逆に女装している感じでしたね。女性は、ピンヒールとかストッキングとか履くでしょ? なんで女性ってこんなに動きづらいものをわざわざ履くんだろうって思いません? 今でも女装しているような感覚になることはありますよ。

浴衣姿でカメラを見つめる牧村朝子さん

無理に男装しなくても良いと気づいた

――男装をやめてから、何か考え方は変わりましたか?

牧村: すごく自由な気持ちになりました。男性の格好をやめたことによって、自分の中では男性の格好をしなくても女性を愛する自由が得られた。「女が女を好きになることは気持ち悪い」と思うことのほうが、社会から植えつけられた価値観だったと気づいたんです。

ただ、男装は今も時々していますよ。女性の格好は動きにくくて、さっき言ったように女装している気持ちになることがある。男性の格好のほうが、断然、動きやすいんです。

1週間に1回、装うことをやめてみる

――「ミス日本」がきっかけになって、タレントとしての活動を始められたんですよね。その後、同性愛をテレビ番組で公表して「日本初のレズビアンタレント」と呼ばれ、2013年には同性婚が法制化されていたフランスで、パートナーの女性と結婚なさっています。「女性はこうあらねばならない」という考え方から自由に生きていらっしゃいますね。どうすればそうなれるのか。何か私たちにもできることはありますか。

牧村: 自分が普段しているあらゆることを、「誰の望みに答えてやっているのか」と考えて分類してみるといいと思います。そして、あまりにも自分自身が望んでしていることが少ないと思ったら、1週間に1回でもいいから自分が望むように生きる日をつくってみてはどうでしょうか。

着物姿の牧村朝子さん

たとえば、趣味としてしたい格好をしてみる。「男らしさ」や「女らしさ」の押しつけに苦しんでいるならば、趣味として女装したり、男装したりしててみるのもいい。自分を“装う”ことをやめる日。

洋服を着ることが嫌だったら、家の中で全裸で過ごしてみる。誰かから望まれてやっていることを脱ぎ捨てる日。全裸でポテチをポリポリ食べる日があってもいいじゃないですか。1日くらいきちんとふるまうことをやめる日があってもいいんですよ。誰かの考えに基づいて自分を装うことをやめる日が、必要だと思います。

●牧村朝子(まきむら・あさこ)さんのプロフィール
タレント、文筆家。10歳で同性に初恋をするも、その気持ちを22歳まで押し殺し続けた経験から、「言えないけど話したいこと、聴きます」をテーマに、芸能・執筆・講演活動を続けている。2010年度ミス日本ファイナリスト。日本語・英語・フランス語を話し、日本酒、ジャズ、万年筆、大正ロマン、ヴィジュアル系、孔雀、海が好き。愛称は「まきむぅ」。

写真(提供):田中舞
ヘアメイク:トモ
スタイリング/着物:渡部あや

明治大学サービス創新研究所客員研究員。ミリオネアとの偶然の出会いをキッカケに、お金と時間、行動について真剣に考え直すことに。オンライン学習講座Schooにて『文章アレルギーのあなたに贈るライティングテクニック』講座を開講中。
行こうぜ!性別の向こうへ