「かわいすぎるジュノンボーイ」こと井手上漠さん
行こうぜ!性別の向こうへ

ジュノンボーイ・井手上漠さん「男性に寄せようと髪を切ったこともありました」

高校1年生・井手上漠さん(16) 2018年の31回「ジュノン・スーパーボーイ・コンテスト」で話題となった、いわゆる「ジェンダーレス男子」な井手上漠(いでがみ・ばく)さん(16)は、島根県隠岐諸島の海士町出身。コンテストではDDセルフプロデュース賞を受賞。ツイッターに自身の考え方を投稿し、1万「いいね!」を集めるなど「次世代のジュノンボーイ」として注目を集めています。漠さんが伝えたかったメッセージについて聞きました。

●行こうぜ!性別の向こうへ

髪を切った。鏡には自分じゃない自分がいた

小さいころから、外でサッカーをするより、家で人形遊びをすることの方が好きでした。仮面ライダーよりも、プリキュア。母子家庭で、1個上のお姉ちゃんと、女の人に囲まれる生活をしていたこともあって、女の子と一緒にいるほうが楽でした。

男の子でも、女の子でもない見た目だったからか、小学校の高学年頃から、知らない人に「気持ち悪い」と言われるようになりました。それがつらくて、あえて男性に寄せようと、長かった髪の毛を切りました。周りの女の子には「どうしたの?」と聞かれたんですが「さっぱりしようかなって」と答えました。本当はそんなこと、したくなかった。それから、鏡を見るのが嫌になりました。鏡には自分じゃない自分がいるんです。

カメラに向かってポーズをとる「かわいすぎるジュノンボーイ」こと井手上漠さん

そんなつらい生活から救ってくれたのは母の言葉でした。「人間は何をしても誰かに何かを言われる。それを気にしていたら生きていけないよ。漠はそのままでいいんだよ」って。それから、ありのままの自分でいようと、強くなろうと、誰かに嫌な言葉をかけられても気にしないようにしました。「気持ち悪い」と言われても、堂々といるようにしました。

伝えることで誰かを変えることもできると知った

中学3年生の夏休みに弁論文を書く宿題がでました。大好きな国語の先生が担当していたので、その先生に読んでもらうつもりで、自分のことを書きました。気持ち悪いと言われて傷ついたこと、母親の言葉で自分らしく生きようと決めたこと、ありのままの生き方が認められる社会になってほしいこと――。すると、それを読んだ先生が「せっかくなら、みんなの前で発表してみない?」と勧めてくれたんです。

私の内面について書いたことだったので、悩みました。ただ、先生が「強制はしないけど、漠ちゃんのためになると思う」って言ってくれたので、勇気を振り絞って校内の弁論大会にでることにしました。

中性的な魅力の「かわいすぎるジュノンボーイ」こと井手上漠さん

そうやって出場した弁論大会の結果は、なんと優勝。次は島の大会でも優勝しました。すると、これまで避けられていたクラスの男の子に「おめでとう」って言ってもらえたんです。これまでは嫌な事を言われても、自分が気にしなければいいやと思っていたんですが、伝えることで相手を変えることもできるんだなって思ったんです。

小さな島の学校なんで、1学年10人いないくらい。それなのに、仲良くできない人がいるのは寂しいじゃないですか。ずっと仲良くなりたかった。悪口を言われるのが怖くて逃げていたけど、ちゃんと伝えれば、仲良くできるんだなって気づいた。弁論大会はその後、中四国で優勝し、全国で2位に。自分に自信がついて、もっとオープンに自分のことを語ろうと思えるようになりました。

ジュノンボーイ・コンテストに挑戦「批判されると思った」

ジュノンボーイに推薦してくれたのは、島に唯一ある病院のお医者さんです。「なんか持ってるから」って、病院に行くたびに言われてました。そのたびに「無理無理」って断ってたんです。だって、「ジュノンボーイ」っていうくらいだから、男らしい子が評価されるはず。私のような中性的な人が手をあげても、批判されるだけだと思っていました。

笑顔を見せる「かわいすぎるジュノンボーイ」井手上漠さん

だけど、弁論で自信がついたこともあって、ジュノンボーイ・コンテストにも挑戦してみることにしました。意外と応援してくれる人がいて、びっくりしました。コンテストの最終選考会では、歌を披露しました。SEKAI NO OWARI の「RAIN」という曲です。私の弁論の内容と歌詞が似ているなって。色んな個性があった方が、カラフルで美しい世界になるんじゃないかって私は思ってるんです。

まだ、誰かを好きになったことがないんです

コンテストで注目を浴びてから、ツイッターで弁論文を公開しました。世の中には過去の私のように「気持ち悪い」「男らしくいろ」と言われ、傷ついている人もいる。そのことを知ってほしいと思ったんです。投稿には「いいね!」が1万近くついて、反響もありました。私のことを「かわいい」「かっこいい」と興味をもっていただけるのは、とてもうれしいです。

ところで、私はまだ、誰かを好きになったことがないんです。「男の人がかっこいい」とか「女の人がかわいい」って思った経験はあるんですけど。

ただ、もしあなたの周りにどんな人がいても、その人を理解しようとしてほしいです。アドバイスはできなくても、「そうなんだ」ってまずは受け止めてあげてほしい。そういう発信をできる人になりたいな。自分に何が向いているのかはまだわからない。モデルなのか、俳優なのか……。色々挑戦しながら、私らしくいられる場所を探していきたいと思います。

telling,の妹媒体?「かがみよかがみ」編集長。telling,に立ち上げからかかわる初期メン。2009年朝日新聞入社。「全ての人を満足させようと思ったら、一人も熱狂させられない」という感じで生きていこうと思っています。
写真家。1982年東京生まれ。東京造形大学卒業後、新聞社などでのアシスタントを経て2009年よりフリーランス。 コマーシャルフォトグラファーとしての仕事のかたわら、都市を主題とした写真作品の制作を続けている。
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