西村宏堂の“Out of the Box!”#12

【西村宏堂の“Out of the Box!”#12】オープン・リレーションシップ──相手を縛らない愛もある?

国内外で活躍するメイクアップアーティストにして僧侶、LGBTQ当事者でもある、そんな多様な顔を持つ西村宏堂さんによる連載コラム。タイトルの“Out of the Box”には「常識や枠にとらわれない」という意味があります。セカンドシーズンは、宏堂さんがハッとする気づきを得た出会いや体験などを紹介しながら、“見えない箱から自分自身を解き放つ”ための問いをみなさんに投げかけます。あなたなら、何と答えますか?

本連載「西村宏堂の“Out of the Box!”」も今回で12回目。
うれしいことに、連載2年目を迎えます!

今回から少し趣向を変えて、毎回ひとつの問いをみなさんに投げかけます。
それは、私たちが“当たり前”だと思っていることを問い直し、価値観をアップデートするためのクエスチョン。

同性愛者の私は、周囲から「気持ち悪い」とか「オカマ」と言われることがありました。私はそう言われても仕方ない、それは“当たり前”だと思っていました。でもその当たり前を問い直してみたとき、そのように言われることは“当たり前”ではなく、実は私は間違っていないのだということに気がついて、自由になることができました。

この“当たり前”を問い直すきっかけは、アメリカでゲイの教授に出会ったり、スペインでゲイカップルが堂々と街なかで手を繋いでいるのを見たことでした。「同性愛って隠すことなんじゃないの?」とソワソワしましたが、私を閉じ込めていた価値観をアップデートすることで、自分も自信を持っていいんだと思えるようになったのです。

セカンドシーズンでは、私の“当たり前”を壊してくれたエピソードを紹介していきます。同性愛だけでなく、対人関係、美しさ、宗教などさまざまなトピックをお話しようと考えています。

世界にはこんなこともあるよとお話しする中で、私たちの“当たり前”について自分の心に問い、私たちが自由になるためのヒントが見つかればと思っています。

そして、あなたが思ったことや考えを文末のコメント欄で共有していただけたらうれしいです。
引き続き、できるかぎりお返事もしていきますので、時々チェックしてみてくださいね。

  • Q. お互いを縛り、他の人に目を向けないことが愛ですか?

この世界には、さまざまな人生がある──。

私の価値観を大きく揺さぶり、凝りかたまっていた考え方を変えてくれた街があります。それは、ニューヨーク。世界中から人が集まり、日々混じり合うこの街で、私は多種多様なバックグラウンドを持つ人たちに出会いました。

「本当にそうでなければいけないの? 思考停止していない?」

彼らから教えてもらったのは、自らの頭と心で考え、自分の人生を堂々と生きる姿勢。世間の常識がどうであろうと、どんな人生を生きるのか、本当は誰からも縛られることなんてない──その学びは今も私の指針となっています。

今回はそんなニューヨークで出会った人々のエピソードをお話しします。

 

お互いを縛らない愛の形を選んだカップルたちの話

私が通っていたパーソンズ美術大学に、あるカッコいい教授同士のカップルがいました。
ファインアート科の学部長と写真科の先生であるアンソニー&サミーは、同性結婚している夫夫。同じ大学の職員同士で結婚していていいんだ、とまずびっくり。的確な指導法とリーダーシップ、そして美意識にすぐれた彼らに、私は多くを学びました。 

そんなふたりと出かけた、ある晩のことです。その日は、銃による暴力をなくす「Gays Against Guns」という活動団体のイベントが開かれていたのですが、その会場でアンソニーが友人の男性と帰り際にフレンチキスしたのだから、私はもうびっくり

すぐ後ろにいた夫のサミーは怒るわけでもなく、当たり前と言った様子。私は「!?!?」とさらに混乱。日本でそんなことがあったら「もう離婚よ!」とバトルになるのが、私の“当たり前”でした。ヨーロッパで挨拶がわりに頬にキスやハグはありますが、口にキスをするのもありなのかと驚きました

その後、私が出会ったのは世界的企業出身のエリート・ゲイカップル。男性同士の彼らは、 “オープン・リレーションシップ”(オープン・マリッジ)という関係を結んでいるのだとか。それは、お互いを縛らないパートナーシップの形なのだそうです。私は結婚というものはずっと二人だけの関係だと思っていたので、これまたびっくり。

その後、同様のいくつかのカップルにも出会いました。ただ、ルールは一様ではなく、どんなことがあったかをオープンに共有するふたりもいれば、「あえて知らせないし、問わない」というケースも。どのカップルもよく話し合い、お互いが納得できる関係を築いているのが印象的でした。

一対一の愛だけが本物──とは限らない?

ドラァグクイーン界の女王、ル・ポール(RuPaul)は自身のオープン・マリッジについてこんな風に語っています。

「私は一番愛している人を縛りつけることに肯定的になれないの。夫は最愛の人であり、大事な親友でもある。心から愛しているからこそ、私は彼に自由に生きてほしい」とまで言っています。

そこから私は「いろいろなあり方があってもいいのかな」と考えるようになりました。というのも「ふたりきりで一生を添い遂げる結婚」を理想としながらも、上手くいかずに問題になるというカップルも少なからずいるから。だからといってオープン・リレーションシップでケンカにならないのかどうかは分かりませんが……。私が学んだことは、社会の価値観は絶対ではないということ。それぞれの人がそれぞれの結婚の形を作り上げて円満に関係を築くこともできるのではないかということ。

どんな関係でも、自分の気持ちに正直になり、心を開いて相手とコミュニケーションをとれる仲を築くことが私は大切だと思うのです。

さて、みなさんはどう思いますか?
そして、あなた自身はどんなパートナーシップが理想でしょうか?

1989年東京生まれ。米パーソンズ美術大学卒。メイクアップアーティストにして僧侶、LGBTQ活動家。日本語、英語、スペイン語を操り、ミス・ユニバース世界大会などでメイクを手がける。国連、イェール大学など講演多数。NHK、CNN、BBCなど国内外のメディアに取り上げられ、Netflixの番組「Queer Eye」にも出演。2021年にTIME誌「Next Generation Leaders」に選出された。著書に『正々堂々』、2022年には英語、独語で"This Monk Wears Heels"を出版。
合同会社アーキペラゴ代表。グラフィック&WEBデザイン、文章、写真、旅する本屋など、様々な手段で価値あるコトを伝える媒介者として活動しています。外界の刺激を受け取りすぎるといわれるHSPですが、自分の特性を生かして社会と関わっていければと。慶應義塾大学法学部、桑沢デザイン研究所卒。東京生まれのミレニアル世代。好物は本と旅と自転車、風の匂い。
西村宏堂の“Out of the Box!”