西村宏堂の“Out of the Box!”#10

【西村宏堂の“Out of the Box!”#10】何者でもない大人になった私。胸を張れる何かを見つけるには?

メイクアップアーティストにして僧侶、LGBTQ活動家でもある。そんな多様な顔を持つ西村宏堂さんに人生の疑問やモヤモヤをぶつける、Q&A形式の連載コラムです。タイトルの“Out of the Box”には「常識や枠にとらわれない」という意味があります。仕事や人間関係、結婚など、人生の各場面に私たちが抱える悩みや迷いは大小さまざま。本連載では、宏堂さんならではの視点から、不安や逆境の中でも勇気を持って歩いていくためのヒントをお届けします。

もうすぐ3月、寒さの中にも春の気配が感じられるようになりました。
春といえば、卒業、入学、入社、異動など、別れと出会いの季節。
まるで芽吹くのを待っているかのように、何か新しいことにチャレンジしてみたい、新しい自分と出会いたいと、心がワクワクしているのを感じます。

さて、今回はこんな相談が届きました。これからの季節に多くの方が共感しそうな相談だと感じます。

みなさんに提案なのですが、今年の春からあなたが始めたいことを文末のコメント欄で宣言してみてください。
言葉にすることで、取り組む覚悟ができるかもしれません。
一緒にはじめの一歩を踏み出しましょう!

毎回、記事にいただいたコメントはすべて拝見しています。できるかぎりお返事もしているので、チェックしてみてくださいね。
私に聞いてみたいこと、相談したいことがあれば、文末のコメント欄か問い合わせフォームから送ってください。
お待ちしています。

  • ●相談 #10
  • 会社員として目の前の仕事をこなす毎日。子どものころの夢を叶えたわけでもなく、このまま何者でもなく、なんとなく過ごしていくのかなと思うと、将来が思いやられます。有名になりたいというわけではないのですが、年を重ねて「私はこれをがんばったんだ」と胸を張って言えることはどうやって見つけたらいいのでしょうか?

●宏堂さんのアンサー

まず、パッと思ったことがあります。
今回の相談者さんは“変化”を恐れているのかな?──ということです。

たしかに、何かに挑戦して、今までの生活が変わっていくのって怖いですよね。新しい環境に身を置くと、それまでの価値観とは違う物事にたくさんぶつかります。今までと違う世界に足を踏み入れれば、生活スタイルも人間関係も変わっていくでしょう。

この世は諸行無常で、すべてのものに変化が訪れる──それが真理だとしても、私たちは慣れ親しんでいた日常が変わることに不安を覚えます。「毎日の仕事で手いっぱいだから」などと言いながら、モヤモヤとルーティンワークを繰り返してしまうのは、変化を受けとめる覚悟ができていないからかもしれません。

でもね、変化を恐れるあまり、自分からアクションを起こさず、日々を流されるように生きていたら、せっかくの大切な人生があっという間に過ぎていきます。InstagramやTwitterをなんとな〜く眺めていたら、気づかないうちに数時間が経っていた──という経験のある方は多いはず。そんな風に、一度きりの人生の時間がぼんやりと過ぎてしまうとしたら、もったいないと思いませんか?

 

ソワソワやオロオロこそ、あなたを進化させるチャンス

代わり映えのない毎日が続いて「時が経つのが早いなあ」と感じているなら、ぜひ慣れないことをやってみましょう。ソワソワしたり、オロオロしたり。新しいことをはじめたときに感じる不安はネガティブな感覚ですが、そんな経験こそ、自分が進化するために必要なもの。

緊張や不安、恐れを感じたら「むしろ、それでこそいいんだ」と自分に言い聞かせて。新しい物事をはじめるのは怖いけれど、自分を進化させるチャンス!──そう信じて、立ち向かってみてほしいのです。

私自身は、ずっと同じ毎日を繰り返すのは好きではありません。新しい物事に挑戦していくことで、人生をより楽しめると思っているから。もし心がワクワクしていなければ、たとえ今が安定していても「次のステージに進むときがやってきたんだ」と思って、環境を変えるようにしています。

振り返れば、ミス・ユニバースの舞台裏にはじめて立ったときも、お坊さんの修行時代も、ソワソワやオロオロの連続でした。でも、それを乗り越えたとき、「新しいレールに乗った!」という感覚があったのです。

 

挑戦したいことがわからない方への2つのヒント

そもそも、挑戦したいことがわからない──と悩んでいる方には、こんなヒントを。

◆自分が死んだとき、どんな人だったと言われたい?
あなたは生涯を終えたとき「どんな人だった」と言われたいでしょうか。自分の心に問いかけて、答えを書き出してみてください。そして、その人物像にふさわしい生き方をこれからの目標にするのです。たとえば、私なら「LGBTQ活動家として世の中の偏見や憎しみをなくすために貢献した人だった」と言われたい。そのイメージが私にやる気を与えてくれます。

◆子どものころ、何が好きでしたか?
幼いころに抱いた夢を今から叶えたいとは思っていなくても、本当に好きなことや自分の心が笑うことって、子ども時代の自分にヒントが隠れていたりします。たとえば、昔遊んだ公園を久しぶりに訪ねたり、自分がどんな子だったか親に聞いたり、幼なじみに会って思い出話をしたり。大人になる前の無邪気な自分を見つめ直してみましょう。

新しい習慣が続かない……挫折を繰り返してしまう人に

いざ、何かはじめようと決意しても、ルーティンを壊すって難しいですよね。新しい習慣や挑戦が続かないという方に、3つのアドバイスがあります。

◆どんな一日にしたいかを書き出してみる
朝起きたら「今日をどんな一日にしたいか」を考えて、ひとつずつ実行してみましょう。前の晩に翌日の過ごし方を具体的にイメージするのもGOOD。紙に書き出すと思考が具現化されて、整理しやすくオススメです。ひとつこなすごとにチェックを入れていくと、その快感がモチベーションにもなりますよ。

◆過去の失敗の傾向から対策を考える
これまでの挫折経験を振り返って、同じ繰り返しを避けるための戦略を練りましょう。私は以前、トレーニングを習慣にしようと思ってもなかなか続きませんでした。「今日は疲れちゃったから無理」などとつい言い訳してしまって。でも、朝起きてすぐにトレーニングすれば、続けやすいとわかりました。

◆自己流でうまくいかなければ、プロの力を借りるのも手
かつて超がつくほど片づけが苦手だった私はあるとき決意して、片づけコンサルタントとして知られる近藤麻理恵(こんまり)さんのお弟子さんにお願いし、片づけレッスンを受けました。今ではすっかり成長して、整理整頓が身につきました。頭の中も整理されたので、仕事も前より効率的にできるようになりました。

 

自分を閉じこめている言葉がありませんか?

今回、感じたことがもうひとつ──相談者さんは「有名になりたいというわけではないのですが」と書いている時点で、おそらく有名になってみたい気持ちが少しあるのでは。本当は心の奥底にそんな願望があるのに「周りの目もあるし……」などと思っていませんか?

そんなあなたには“自分を閉じこめている言葉”があるのかもしれません。たとえば、周りの人や自分の恐怖心がささやく「そんなことができる人はひと握り」「調子に乗らないで、謙虚になりなさい」といった言葉。ネガティブな言葉って自分を縛る暗示や呪いにもなります。いざ挑戦して結局失敗し、「ほら、やっぱりダメだったじゃない」と言われるのが怖くて、一歩を踏み出せないという場合も少なくありません。

でもね、実際には挑戦してみて、できる人もいるわけです。人生、そんなに謙虚じゃなくていいときだってあります!

私は何かをしようとして不安にとらわれたとき、頭の中にある懸念や言われてイヤなことをリストに書き出すようにしています。自分自身が何を恐れているのかを明らかにして、しっかり向き合うために。

その上で、自分を応援してくれる人の話に耳をかたむけます。自分の可能性を信じてくれる人が周りにいる環境をつくり、自分自身が「本当にできるかも」と思えるようになること──それこそが“活躍できるメンタリティ”を育ててくれると思うからです。

 

自分自身をたたえる“自己肯定”が生むパワーの話

私が出会った、ある優秀な中国人実業家のエピソードをご紹介しましょう。

スタンフォード大学でビジネスを学び、有名誌に取り上げられるほどの成功を収めている彼女は、よく自分で自分をほめる人でした。たとえば「私ってすごく美しいから」という風に。私が戸惑っていると、「私は“Self-Compliment”(自分をほめること)が好きだし、大切にしているの」と一言。びっくりしました。彼女が本気で言っているとわかったから。

謙虚さを美徳とする日本で「自画自賛」と言えば、ネガティブな響きがありますが、たしかに「自分をほめてはいけない」というルールはありません。そのまま真似するのは難しいかもしれないけれど、少なくとも心の中で自分に声をかけるのは自由。普段から自分をたたえて“自己肯定感”を上げることのパワーって、実は大きいのかもしれません。

私が思うに、胸を張って「これをがんばったんだ」と言いたい相手って、何より自分自身なのではないでしょうか。

そして、何に挑むのか──それは周囲から見れば、ささやかな物事でもかまわないのです。大事なのは、自分を励ましながら、心がワクワクする方向へとみずからアクションを起こして、自分を新しいものにどんどん出会わせてみること。ソワソワやオロオロを楽しみながら、変化を恐れずに歩んでいけば、胸を張れる自分にきっと出会えますよ。

トップ:シャツ(MARINA YEE)、中に着たシャツ(kudos)、中に着たトップス(LEINWANDE)、パンツ(YanYan)、ベルト・ブーツ・ネックレス私物
文中:中に着たトップス・ジレ・ラップスカート・パンツ(すべてLEINWANDE ) ブーツ・ネックレス私物

1989年東京生まれ。米パーソンズ美術大学卒。メイクアップアーティストにして僧侶、LGBTQ活動家。日本語、英語、スペイン語を操り、ミス・ユニバース世界大会などでメイクを手がける。国連、イェール大学など講演多数。NHK、CNN、BBCなど国内外のメディアに取り上げられ、Netflixの番組「Queer Eye」にも出演。2021年にTIME誌「Next Generation Leaders」に選出された。著書に『正々堂々』、2022年には英語、独語で"This Monk Wears Heels"を出版。
合同会社アーキペラゴ代表。グラフィック&WEBデザイン、文章、写真、旅する本屋など、様々な手段で価値あるコトを伝える媒介者として活動しています。外界の刺激を受け取りすぎるといわれるHSPですが、自分の特性を生かして社会と関わっていければと。慶應義塾大学法学部、桑沢デザイン研究所卒。東京生まれのミレニアル世代。好物は本と旅と自転車、風の匂い。
西村宏堂の“Out of the Box!”

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