西村宏堂の“Out of the Box!”#06

【西村宏堂の“Out of the Box!”#06】年をとるのが憂うつ。「女性の価値は若さ」なの?

国内外で活躍するメイクアップアーティストにして僧侶、LGBTQでもある。そんな多様な顔を持つ西村宏堂さんに、人生の素朴な疑問やモヤモヤをぶつける、Q&A形式の連載コラムです。タイトルの“Out of the Box”には「常識や枠にとらわれない」という意味があります。仕事、人間関係、恋愛、結婚、出産など、人生の各場面や岐路を前に、私たちが抱える悩みや迷いは大小さまざま。本連載では、世間の常識や枠にとらわれない宏堂さんならではの視点から、不安や逆境の中でも勇気を持って歩いていくためのヒントをお届けします。

●西村宏堂の“Out of the Box!”#06

こんにちは、西村宏堂です。
秋が深まりつつありますね。秋は毎年着るものに悩みます。
でも今年はどんなおしゃれをしようか悩むのって素敵な時間ですよね。
最近は寒くなってきたので、私は洋服を重ねて、奥行きのあるコーディネートでおしゃれを楽しみたいと思っています。

前回の相談者ありさんからお礼のコメントをいただいて、本当にうれしかったです。
すべてのコメントをチェックしていますので、ぜひみなさんも私に聞いてみたいこと、相談したいことを文末のコメント欄か問い合わせフォームから送ってくださいね。

さて、今回はこんな相談が届きました。

  • ●相談 #06

    毎年誕生日を迎えるたびに「またひとつ年をとるのか」と暗い気持ちになります。年をとるのがイヤで仕方ありません。男性は年を重ねると「渋い」「カッコいい」と言われることも珍しくないのに、女性の場合は「若さ=価値」といわんばかりに「ババア」「若作り」などとけなされます。年をとることで自分の価値がどんどん下がっていくように感じてしまい、苦しいです。

●宏堂さんのアンサー

ツルツルの肌、シワひとつない身体──。
そんな“若さ”をもてはやし、年をとることを罪悪のように恐れる価値観は、私が暮らしていたアメリカでも、また日本でも根強いものがあります。

特に日本では、ことあるごとに歳をたずねたり、報道やインタビューに年齢を併記するのが普通だったりと「何歳であるか」を気にする風潮が強いですね。巷には年齢にまつわる“べき論”があふれていますし、おおっぴらに女性の歳にこだわり、「女性は若いに限る」などと言ってはばからない男性もいます。

今回はそんな“若さ至上主義”の社会に疑問と苦しさを感じている女性たちに向けて、ポジティブに年を重ねていくためのヒントをお伝えできたらと思います。

年齢だけで人を見るなんて視野が狭すぎる

若い人には若いときにしかないフレッシュな魅力があるのはたしか。でも「人の価値ってそれだけじゃないでしょ?」と私は思います。だって、年齢だけで人を見るなんて視野が狭すぎるもの。

前回のコラム“Out of the Box!”#05「言葉の暴力に苦しんできた私。自分を取り戻すには?」でもお話ししたように、大事なのは、相手に何かを言われたからといって、鵜呑みにして自分の価値を下げないこと。若さばかりを望んで揶揄してくるような人には「私の価値をあなたは知らないでしょう?」と胸を張って。

広い世界に目を向ければ、何歳であろうと輝いている女性がたくさんいます。社会のリーダーや女優など、年を重ねても「カッコいい!」「素敵だな」と感じる人をぜひ探してみてください。そんな“人生の先輩”の姿に触れると、心が軽くなりますよ。

 

肌や肉体に頼らない技術や表現を磨くチャンス

年を重ねて、外見に劣等感を抱くようになった──。
そんな女性たちへ私がおくるアドバイスは「身にまとうものに頼る」こと。

年をとれば、身体のコンディションが変わってくるのは自然の摂理。若いころのように「肌や肉体に頼る」のではなく、“自分の見せ方”を研究することで、見た目の印象も自信も着実にUPします。

◆ヘアスタイルをないがしろにしない
素敵な髪型にしてくれるヘアサロンを探しましょう。髪はキレイに手入れしてある? ボサボサの髪なんてNo-No!!

◆心がだらっとする装いをしない
おしゃれな靴下や素敵な靴、気持ちがシャキッとする下着を選んでいますか? バッグやポーチの中身は美しい? 服のシワにアイロンをかけたり、気分の上がる香水をつけたり。見えないところにも気を抜かないで。

◆メイクの力をいかす
似合うリップの色を見つけましょう。ラメなどを使ったキラキラしたメイクは肌の凹凸やシワを強調する効果があるので、避けた方が若々しい印象に。ほうれい線が気になるなら、凹みに明るいコンシーラーを少し乗せてみて。

「もう若くないし」なんて、弱気な心に引っぱられてはダメ。今こそ、おしゃれやメイクの技術や表現を本気で磨くチャンスです。つい年齢を言い訳にしたくなるかもしれないけれど、イマイチな部分が表現力不足やズボラさゆえなら、指摘を受け止める謙虚さを忘れずに。

 

準備が“美しさのスタミナ”をつくる

ただ、そういう気力を毎日維持しつづけるのは疲れるし、気が抜けるときだってありますよね。だからこそ、元気があるときに“弱った日のための準備”をしておくのが挫折しない秘訣。

たとえば、「気分がどろっとなった日のためのコーディネート」を用意しておいたり、「元気が出ない日のための野菜スープ」を冷凍ストックしておくのはいかがでしょう。

そうした準備で“美しさのスタミナ”をつけて、日々のクオリティを高くキープできれば、自分自身を見る目が前向きになるし、周囲からの視線も変わってきます。周りの人の気持ちって、自分の心が反射するものだから。

 

年を重ねるほど、内面も美しく

自分の価値や美しさを表現する方法って、外見だけではありません。年を重ねても「胸を張っていられる私」でいるためには、内面を磨くことも大切。

「美しい人ってどんな人だろう?」

メイクアップアーティストとして、そんな問いを持ち、たくさんの女性に会う中で発見したことがあります。それは、本当に美しい人とは、容姿云々よりも「他者を美しい気持ちにしてくれる人」なのだということ。

知性や思いやり、心の美しさで人は輝きます。
そして、その輝きは年を重ねても、心がけ次第で磨き続けていくことができる。

それに、人生を長く歩んできたからこそ、できるようになることもあるでしょう。それは、さまざまな経験や若い人にはない知見をいかして誰かを助けたり、人を育てたりすること。

「私にできることは何?」と自分に問いかけて、今だからこそできる何かを探してみては?
誰かの役に立つことは、自分自身の充実感や幸福感にもつながります。

年をとることから逃れられる人はいない

年を重ねることは悪いことではないけれど、できれば長く健やかにいたいですよね。だから、努力で遠ざけられる老化には全力で抗うのもいいと私は思います。

健康的な食事や運動を心がけて、睡眠の質を高めたり、スキンケアや顔のエクササイズを習慣にしたり、新しい美容液を試したり──そんな風にできることに精一杯取り組むのは、私も賛成。だって、そうすれば、未来の自分も「やれるだけやったのだから、いっか!」と思えるはずだから。

ただ、人は必ず年をとるし、誰もがいつかは死を迎えます。
「だとしたら、人生をどう過ごしたい? 何をしたい?」──大事なのは、その問いにきちんと向き合うことだと思うんです。

「ここに行きたい」「これが欲しい」「こんな経験をしてみたい」──そんな“心の声”に耳をかたむけ、ぜひ実行しましょう。流れる時間とともに人生を歩み、一度きりの人生を楽しむことをどうか大切に。

私自身は「幸せだな」と感じる時間をたくさん過ごしたいと思っています。お互いに正直に思ったことを口にできて、自分らしくいられるような相手と過ごすことが私にとっての幸せ。そんな時間を過ごせたら「今が何歳か」なんて些細なことに思えます。

 

本物を追求するということ

前回のコラムに続いて、私が尊敬するエレノア・ルーズベルト元米大統領夫人の言葉をひとつ紹介したいと思います。

「若くて美しいのは自然のいたずら。でも、年を重ねても美しい人は芸術ね」
“Beautiful young people are accidents of nature, but beautiful old people are works of art.”

年を重ねたら、大事なのは“表現力”。
みなさんにはぜひ「本物」を追求していただきたいのです。

若さや生まれ持った容姿ばかりに頼らず、自分に似合うものを知って、心の美しさや知性、能力や技術を磨いていく──そのおもしろさを味わえるのって、大人の醍醐味ですよ。

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トップ・文中下:ジャケット、スカート(ともにUJOH)
文中上:ワンピース、スカーフ(すべてPierre-Louis Mascia) パンツ(MISSONI) ヴィンテージネックレス(すべてSometimes Store) リング(ATELIER SWAROVSKI)

2020年7月28日発売

正々堂々 私が好きな私で生きていいんだ

LGBTQであり、僧侶であり、メイクアップアーティストである西村宏堂の初エッセイ!他人と違う自分を受け入れ、自分の好きな自分で正々堂々と生きていく方法を提案する一冊。

著者:西村宏堂
発行:サンマーク出版
価格:1,430円(税込)

1989年東京生まれ。米パーソンズ美術大学卒。メイクアップアーティストにして僧侶、LGBTQ活動家。日本語、英語、スペイン語を操り、ミス・ユニバース世界大会などでメイクを手がける。国連、イェール大学など講演多数。NHK、CNN、BBCなど国内外のメディアに取り上げられ、Netflixの番組「Queer Eye」にも出演。2021年にTIME誌「Next Generation Leaders」に選出された。著書に『正々堂々』、2022年には英語、独語で"This Monk Wears Heels"を出版。
合同会社アーキペラゴ代表。グラフィック&WEBデザイン、文章、写真、旅する本屋など、様々な手段で価値あるコトを伝える媒介者として活動しています。外界の刺激を受け取りすぎるといわれるHSPですが、自分の特性を生かして社会と関わっていければと。慶應義塾大学法学部、桑沢デザイン研究所卒。東京生まれのミレニアル世代。好物は本と旅と自転車、風の匂い。
フォトグラファー。福原 佑二氏に師事後、2019年に独立。雑誌、web媒体、ブランドのカタログ等をメインに東京を拠点に活動中。1989年 仙台出身。
西村宏堂の“Out of the Box!”