西村宏堂の“Out of the Box!”#11

【西村宏堂の“Out of the Box!”#11】ルッキズムには反対。でも美しい人に惹かれるし、見た目は大事──これって矛盾?

メイクアップアーティストにして僧侶、LGBTQ活動家でもある。そんな多様な顔を持つ西村宏堂さんに人生の疑問やモヤモヤをぶつける、Q&A形式の連載コラムです。タイトルの“Out of the Box”には「常識や枠にとらわれない」という意味があります。仕事や人間関係、結婚など、人生の各場面に私たちが抱える悩みや迷いは大小さまざま。本連載では、宏堂さんならではの視点から、不安や逆境の中でも勇気を持って歩いていくためのヒントをお届けします。

●西村宏堂の“Out of the Box!”#11

新緑の美しい季節になりました。
夕方になっても気温が暖かい日は、季節が変わっていることを体感できます。
風が吹いた時に思いっきり深呼吸をすると、心も美しい夕焼け色に染まるような気持ちになります。

さて、今回はこんな相談が届きました。
なぜ人は美しいに惹かれるのか……一緒に考えてみませんか?
あなたの考えもぜひ文末のコメント欄で聞かせてください。

毎回、記事にいただいたコメントはすべて拝見しています。できるかぎりお返事もしているので、チェックしてみてくださいね。
私に聞いてみたいこと、相談したいことがあれば、文末のコメント欄か問い合わせフォームから送ってください。
お待ちしています。

  • ●相談 #11
  • 私は見た目で人を差別する「ルッキズム」には反対です。でも、女性も男性も身だしなみに気をつかってオシャレをしたり、外見を磨くことは大切だと思っています。美しい人に惹かれますし、できれば自分自身もカッコよくキレイでいたい──。そんな風に見た目にこだわって外見を磨くことと「反ルッキズム」は両立できるでしょうか。美を追求するメイクアップアーティストであり、同時に「人類皆平等」をかかげる宏堂さんはどう思われますか?

●宏堂さんのアンサー

今回は「ルッキズム」(外見至上主義)をめぐるお話です。
まず、ルッキズム(Lookism)とは、外見で人の価値をはかる考え方のこと。特に、すぐれた容姿の人をほめたたえ、そうでない容姿の持ち主を差別的にあつかうことを指します。

私は、生来の顔立ちや体型といった容姿で人を蔑むのは、とても浅はかなことだと思っています。なかでも、人を貶める言葉の暴力については、過去のコラムでもお話ししましたので、よければあわせてご覧くださいね。

【西村宏堂の“Out of the Box!”#05】言葉の暴力に苦しんできた私。自分を取り戻すには?

そんな風に答えると、「人は見た目じゃない──なんてキレイごとでしょ?」と反論したくなる方もいらっしゃるかもしれません。でも、ちょっと待ってください。

 

外見には3つの領域がある

そもそも、人を見た目で判断することをひとくくりに論じるのは、ちょっと乱暴な話。人の外見には3つの領域がある──というのが私の考えです。

◆自分の意志では変えがたい外見
生まれもった顔立ちや体型、身長、肌の色、体質、性別、人種など、からだの個性。

◆他者や場に対するエチケットとしての外見
清潔感やTPOなど、接する相手や場を考えての装い。

◆心がけや努力次第で変えられる外見
自分に合ったオシャレやメイク、エクササイズなどを通して磨ける見た目。

この3つはそれぞれ性質の違うものだから、分けて考えたほうがいいと思います。ひとつ目の生まれもった容姿への差別については、先ほどお話ししたとおりです。

 

外見はいちばん外側の自分

私の意見ですが、いくら内面が大切だとは言っても、外見っていちばん外側の自分です。
誰かと接するときには瞳だけでなく、髪や肌、装いなども自然と目に入りますよね。だからこそ、人の中で生きる私たちにとって、外見に表れる健やかさや清潔感、その人に似合った装いをしているかは、とても大事。

私はメイクやファッションの力を信じています。それは、磨かれた外見には魔法のようなパワーがあるから。外見は内面を映し出し、相手にメッセージを伝える力になります。
もちろん、外見に気をつかうかどうかは個人の自由ですが、不潔な格好やTPOを無視した装いをしている人より、身なりをキレイに整えている人のほうが礼儀正しいと思われるのは、しかたのない話。礼儀正しいということは相手に対する気づかいでもあり、大切なことではないでしょうか。

特に人前に出る立場であれば、見た目への気づかいは欠かせません。美容師や企業の受付のように、外見を問われる職業もあります。あなただって、服や髪に無頓着な美容師さんより、オシャレな美容師さんを指名したいでしょう?

 

観音様が着飾る理由

質素を美徳とし、外見にこだわらない──と思われがちな仏教の世界でも、実は外見の大切さを説いています。人々を救う観音様が美しい冠やピアスを身につけ、きらびやかな姿をしている理由をご存知でしょうか?

ある経典はこんな風に語っています。
「菩薩は美しく装飾した姿をとるとされ、浄妙の衣服および多種な花の香りを身にまとい、頭に花飾りをつけて人々を救う」
「ボロでは、人は話を聞かないだろう。優れた高徳は、優れた容姿があってこそだ。もし、あなたも菩薩になろうとするのであれば、さまざまな飾りで装飾するべきだ」

オシャレは他者のためでもある

「見かけを整えることは自分のためだけじゃない。多くの人に大切なメッセージを届けるために、私もオシャレをしよう」──そう私が考えるようになったのは、仏教の思想だけでなく、素敵な人たちの教えがありました。

そのひとり、ミシェル・オバマ元米大統領夫人の言葉があります。
「残念ながら、人は見た目で相手を判断する。だから、私はファッションを味方につけて戦略の一部にしたの。より多くの人々に私のメッセージを伝えるために」

そして、自分のあり方に悩んでいた私に勇気や希望、夢をくれたマライア・キャリーとビヨンセ。ふたりの芯の通った内面も大好きですが、もし美しくなかったら──努力で磨きあげられた外見やパフォーマンスを抜きにしては──その影響力は生まれなかったでしょう。

さらに、生徒さんから教わったこともあります。メイクレッスンを行う際、私は毎回オシャレして臨むのですが、そのことを「宏堂先生がオシャレをしてきてくれるので、自分が大切にされていると感じました」とすごく喜んでくださったのです。人と向き合う際に外見を整えることは、それだけ相手を大切にしていることの表明にもなるのだと知り、ますますオシャレが好きになりました。

 

外見にコンプレックスがある人に伝えたいこと

ただ、見た目を気にするあまり、誰かと自分を比べて劣等感を持ったり、「もっと完璧にならなきゃ」と強迫観念にとらわれたりするのはつらいし、よいことではありません。

外見にコンプレックスがある方に、私から3つのアドバイスがあります。

◆自分に似ているオシャレな人を探す
あなたがコンプレックスに感じている特徴を同じように持っている人の中にも、カッコいい人やオシャレな人が見つかるはず。そうした存在はあなたに気づきや自信、肯定感を与え、励ましてくれます。

◆ほめ殺しゲーム
過去のコラム【西村宏堂の“Out of the Box!”#05】でも紹介したこのゲーム。信頼できる友人とお互いの長所を言い合ってみると、自分の魅力を客観的に知ることができますよ。

◆プロの力を借りる
自己流に行き詰まったら、思い切ってプロに頼ってみるのも手。私自身、ヘアメイクはもちろん、骨格診断にパーソナルカラー、ウォーキングや栄養学など、たくさんのプロの力を借りて、新しい自分を発見してきました。

 

外見を磨くことと反ルッキズムは両立できる

美しい人に惹かれること、そして自分自身や何かのために外見を磨くことは、決してルッキズムに加担することではありません。ルッキズムとは身体的な理由で人を差別したり蔑んだりすること。そもそも人を差別するような人は、その人自身、美しいとは言えないですよね。一方、外見を磨くことは相手に対するエチケットだったり、自分に力を与えたりしてくれることです。

そして私は「オシャレとは、自分の存在を強調すること」だと考えています。といっても、つねに目立つ必要はなく、発言したいときなど、いざというときに外見を味方につけられればOK。そのためには、普段から練習しておかないと、うまくいきません。

自分という素材と向き合い、自分に合ったオシャレやメイク、エクササイズなどを通して外見を磨くほど、周囲の反応も自分の心も変わっていきます。以前より堂々と自分の意見を言えるようになり、周りも耳をかたむけてくれる──それこそが、オシャレから生まれる魔法。
みなさんには、そんな魔法のパワーをぜひ味方につけていただけたらと思います。

 

トップ写真:シャツ(MARINA YEE)、中に着たシャツ(kudos)、中に着たトップス(LEINWANDE)、パンツ(YanYan)、ベルト・ブーツ・ネックレス私物
文中:トップス、中に着たトップス、ジレ(すべてLEINWANDE)、ネックレス私物

1989年東京生まれ。米パーソンズ美術大学卒。メイクアップアーティストにして僧侶、LGBTQ活動家。日本語、英語、スペイン語を操り、ミス・ユニバース世界大会などでメイクを手がける。国連、イェール大学など講演多数。NHK、CNN、BBCなど国内外のメディアに取り上げられ、Netflixの番組「Queer Eye」にも出演。2021年にTIME誌「Next Generation Leaders」に選出された。著書に『正々堂々』、2022年には英語、独語で"This Monk Wears Heels"を出版。
合同会社アーキペラゴ代表。グラフィック&WEBデザイン、文章、写真、旅する本屋など、様々な手段で価値あるコトを伝える媒介者として活動しています。外界の刺激を受け取りすぎるといわれるHSPですが、自分の特性を生かして社会と関わっていければと。慶應義塾大学法学部、桑沢デザイン研究所卒。東京生まれのミレニアル世代。好物は本と旅と自転車、風の匂い。
西村宏堂の“Out of the Box!”