西村宏堂の“Out of the Box!”#17

【西村宏堂の“Out of the Box!”#17】勉強は好きですか? ミス・ユニバース大会で知った学びの力

国内外で活躍するメイクアップアーティストにして僧侶、LGBTQ活動家でもある。そんな多様な顔を持つ西村宏堂さんによる連載コラム。タイトルの“Out of the Box”には「常識や枠にとらわれない」という意味があります。セカンドシーズンは、宏堂さんがハッとする気づきを得た出会いや体験、名言などを紹介しながら、“見えない箱から自分自身を解き放つ”ための問いをみなさんに投げかけます。あなたなら、何と答えますか?
【西村宏堂の“Out of the Box!”#16】人生は映画。あなたが求めるストーリーは? 生き方と好きな映画はつながっている

新しい年を迎えて、みなさんはいかがお過ごしでしょうか?

私は最近「Doublet」というブランドのパリコレのファッションショーに、モデルとして参加させていただきました。オンライン配信されたこのショーは、近年注目されている「メタバース」と呼ばれる「3次元のデジタル仮想空間」を手づくりで表現したとのこと。

モデルたちはバーチャルモデルの顔が描かれたシリコン製マスクを被り、渋谷のスクランブル交差点をリアルに再現したランウェイを闊歩しました。トランスジェンダーや障害を持ったモデルも登場し、まさに「Out of the Box!」なショーでした。
私は最後にドヤ顔をしています。ぜひ動画をご覧ください!

セカンドシーズンから、毎回ひとつの問いをみなさんに投げかけています。
それは、私たちが当たり前だと思っていることを問い直し、価値観をアップデートするためのクエスチョン。

読者のみなさんだけでなく、私自身への問いでもあります。
よろしければ、あなたもぜひいっしょに考えてみてください。

そして、あなたの考えを文末のコメント欄で共有していただけたらうれしいです。
引き続き、できるかぎりお返事もしていきますので、時々チェックしてみてくださいね。

今回の問いはこちらです。

Q. 勉強は好きですか? あなたは今、学びたいことがありますか?

みなさんは、勉強について、どんなイメージを持っているでしょうか。

もしかしたら、学生時代、宿題やテストを前に憂鬱な気分で机に向かっていた頃を思い出して、「勉強は苦手」「なるべくならしたくない」という方も少なくないかもしれません。

私自身、正直に言えば、昔は勉強が好きではありませんでした。
「なぜ暗記しなければならないの?」「この勉強には何の意味があるの?」──そんな疑問を抱えて、中高生の頃はイヤイヤ勉強していたことのほうが多かったと思います。

なぜ学ぶのか? かつては勉強嫌いだった私

さて、時を経て、そんな私の勉強に対する考え方は大きく変わりました。
それは、ある事実に気づいたからです。

「何を知っていて何を知らないかで、キャリアも人生の道も大きく変わる」、
そして「受け身で勉強するのと、目的をもって勉強するのとは大違い」なのだということに。

この社会には、ただ知識を持たないために、知らない者が知る者より不利な立場に置かれてしまうことや、のちの人生のキャリアに大きな差が生まれる例がたくさんあります。

往々にして、両者の差を生み出すのは、社会の仕組みやノウハウを、知識として持っているかどうかだったりします。どんな人間にとっても1日は24時間。与えられている時間は同じはずなのに「差」が生まれるのは、「学び」なのではないかと思うのです。

人生の可能性をのばすために大事なのは、能動的な“真の勉強”をすること。
それにはまず、自分を進化させるために必要な学びは何なのかを考え、「自分が無知である」と受け入れることから、学びがはじまるのではないではないでしょうか。

逆に言えば、「私には学歴がある」「もう十分に学んだ」などと賢い気分になってあぐらをかけば、成長がストップしてしまう──。私はふとそれに気づいた時、ドキッとしました。

フォロワーからリーダーへ

振り返ってみると、私が勉強への考えを変えたきっかけのひとつに、メイクアップアーティストとして関わってきたミス・ユニバースでの経験があります。大会の挑戦者たちは、本番までの約半年間、主にふたつの勉強に取り組みます。

ひとつ目は、外見。つまり、自分自身の見え方と見せ方を知ることです。一人ひとりに合ったヘアメイクやスタイリング、立ち振る舞い、ウォーキング、話し方などを磨いていきます。

ふたつ目は、内面です。社会問題に関するインタビューにそなえて、教養を高めていきます。大会本番では、たとえば、「若者のソーシャルメディアの利用について、監視体制をつくるべきか?」「あなたなら、気候変動を信じない人たちをどのように説得するか?」といった問いに即答しなければなりません。そのため、幅広い分野のニュースや新聞などに日々触れて、自分なりの意見を答えられるように、社会についての見識を深めるのです。

こうした勉強によって、彼女たちはみな、驚くほどに進化していきます。
それまでもしかしたら社会に流されていたかもしれない人から、社会をよりよい方向へと変える“意志”のある主人公へ。言いかえるなら、フォロワーからリーダーへ。キラキラと開花していく姿に感銘を受けました。

さまざまな国からやってくる彼女たちは「教育が大事」と口々に言います。
社会で自分らしく生きていくためには「知識やスキルが武器になる」と知っているのでしょう。かつて勉強にネガティブなイメージを抱いていた私には「目からウロコ!」の気づきでした。

特に印象に残っているのは、ある世界大会でのミス・フィリピンのインタビューです。
彼女は「スラムに暮らす子どもたちは、教育を受けることで人生を変えることができる」と答えました。私は最初「フィリピンでは教育が十分に行き届いていないから、そのように言うのかな」と思ったのですが、「でも、ちょっと待てよ、私だって教育や勉強によって人生を変えられるはずだ」と思い直したんです。最初は他人事のように聞いていたことを反省し、私自身も「もっと学びたい!」と強く思うようになりました。

いい先生の見つけ方

私はこれまで、いろいろな分野のことに興味を持ち、学んできました。

米国ボストンのカレッジにパーソンズ美術大学、メイクの師匠への弟子入り、お坊さんの修行。さらに、スペイン語、話し方、栄養学、ウォーキング、片づけのメソッドなど。自分が興味のあることを学ぶことで、なりたい自分に近づくことができてワクワクしています。

独学もいいのですが、何かを身につけるためには、私はプロの先生に指導を受けることでこそ、想像していなかったレベルにまで自分を引き上げてもらえるのではないかと感じています。

そして、せっかく時間とお金を使って学ぶからには、いい先生を見つけることも大切。それには偶然のご縁もあるけれど、私のオススメは、尊敬する人やその分野に精通する人にきいてみることです。

さらに言えば、特定の価値観を押しつける先生ではなく、自分が生きたい方向へと導いてくれるような先生が理想的ですね。

大人こそ、さらに学ぶことの意味は大きい

「本当に生きたい生き方のために、自分には何が必要?」
そう自分に問いかけると、何を勉強したらいいのかが見えてきます。

みなさんにお伝えしたいのは、「大人になったから、もう勉強は終わり」ではなく、「大人こそ、さらに学んで知識やスキルという武器を身につけよう」ということ。

知らないことに向き合ったときのオロオロ、ソワソワは進化が待っている証です。
何歳になっても、本当にやりたいことなら、花開く例はたくさん!

私には、新たに勉強したいことがまだまだあります。
これから学びたいのは、仏教以外の宗教の歴史、そしてリーダーシップ。今後、より多くの人たちにメッセージを届けるために、自分に足りないことを考えてみたら、出てきた答えです。

さて、あなたがこれから学びたいことは何でしょうか?
自分らしく生きるために、あなたを進化させてくれるかもしれないと思う勉強は?

新しい年がはじまり、新たな目標を立てている方も多いかもしれません。
「今、こんなことを勉強している」「こんな勉強をはじめる予定」という方は、よろしければぜひコメント欄で教えてくださいね。

【西村宏堂の“Out of the Box!”#16】人生は映画。あなたが求めるストーリーは? 生き方と好きな映画はつながっている
1989年東京生まれ。米パーソンズ美術大学卒。メイクアップアーティストにして僧侶、LGBTQ活動家。日本語、英語、スペイン語を操り、ミス・ユニバース世界大会などでメイクを手がける。国連、イェール大学など講演多数。NHK、CNN、BBCなど国内外のメディアに取り上げられ、Netflixの番組「Queer Eye」にも出演。2021年にTIME誌「Next Generation Leaders」に選出された。著書に『正々堂々』、2022年には英語、独語で"This Monk Wears Heels"を出版。
合同会社アーキペラゴ代表。グラフィック&WEBデザイン、文章、写真、旅する本屋など、様々な手段で価値あるコトを伝える媒介者として活動しています。外界の刺激を受け取りすぎるといわれるHSPですが、自分の特性を生かして社会と関わっていければと。慶應義塾大学法学部、桑沢デザイン研究所卒。東京生まれのミレニアル世代。好物は本と旅と自転車、風の匂い。
西村宏堂の“Out of the Box!”