西村宏堂の“Out of the Box!”#18

【西村宏堂の“Out of the Box!”#18】本当の成功とは? プレッシャーに押しつぶされそうな時に忘れがちなこと

国内外で活躍するメイクアップアーティストにして僧侶、LGBTQ活動家でもある、そんな多様な顔を持つ西村宏堂さんによる連載コラム。タイトルの“Out of the Box”には「常識や枠にとらわれない」という意味があります。セカンドシーズンは、宏堂さんがハッとする気づきを得た出会いや体験、名言などを紹介しながら、“見えない箱から自分自身を解き放つ”ための問いをみなさんに投げかけます。あなたなら、何と答えますか?
【西村宏堂の“Out of the Box!”#17】勉強は好きですか? ミス・ユニバース大会で知った学びの力

今年の冬は例年よりも寒かったように感じます。私が最近訪れたマッサージセラピストさんによると、天候が寒すぎたり暑すぎたりすると、体に負担がかかり、心も思い悩んでしまう人が多いんだとか。私にもまさにあてはまるなと感じました。この冬は将来について悩む時間が多かったです。暖かくなれば心も体も軽くなると思うので、春が待ち遠しいです。

私は3月、英語の本のプロモーションのため、ロンドンで1ヶ月間を過ごす予定です。春の訪れとともに、自分の海外での可能性も花開くよう期待したいと思います!

セカンドシーズンから、毎回ひとつの問いをみなさんに投げかけています。それは、私たちが当たり前だと思っていることを問い直し、価値観をアップデートするためのクエスチョン。

読者のみなさんだけでなく、私自身への問いでもあります。
よろしければ、あなたもぜひいっしょに考えてみてください。

そして、あなたの考えを文末のコメント欄で共有していただけたらうれしいです。
引き続き、できるかぎりお返事もしていきますので、時々チェックしてみてくださいね。

今回の問いはこちらです。

Q. 本当の成功とは何でしょうか?

さて、今回はひとつ、うれしいニュースがあります。

2月8日、世界に向けて英語で執筆した新著『This Monk Wears Heels: Be Who You Are』(Watkins Publishing)が発売されました。うれしいことに、英語版に続いてドイツ語、フランス語での出版も決定し、さらに別の言語での出版の話も進んでいます。

同書は、初の著書である『正々堂々』(サンマーク出版)をベースにしていますが、単なる翻訳ではなく、世界の読者に向けて新たなコンテンツを書き足した進化版になっています。

たとえば、仏教になじみのない方のために、仏教の歴史や基本的な教えの数々を紹介。さらに、金銭欲や性欲といった“欲”とのつき合い方、今なら「ガチャ」とも表現される、生まれた境遇との向き合い方、お気に入りの瞑想方法、未来の自分への手紙の書き方など、盛りだくさん。

すでに『正々堂々』を読んでくださった方にも、きっと発見のある内容だと思います。よろしければ、どうぞお手に取ってみてください。

世界に向けて、多言語で本を届けたい理由

多言語で出版されるこの新しい本に、私は大きな意気込みを抱いています。なぜなら、メッセージを届けたい人たちが世界中にいるから。それには、私が海外で出会ってきたLGBTQ当事者たちへの想いが関わっています。

日本には、仏教を理由に「LGBTQは許されない」と考える人はほとんどいないでしょう。しかし、世界には自分が属する文化や宗教の価値観のもとでLGBTQであるために迫害されたり、罪悪感や苦悩を抱えたりしている人たちがたくさんいます。

「自分らしく生きることは許されない」
「同性の恋人がいるけれど、家族に言えない」

私自身、自分の存在を認められず、そんな風に苦しむ人たちに数多く出会ってきました。さまざまなルーツや国籍、性別、人種の彼らの顔を思い浮かべながら、この本を書きました。

仏教には「すべての人は平等で尊い」(we are all valuable and equal)との教えがあります。私の知識や経験を伝えて、異なる宗教の観点から「大丈夫だよ」と語りかけ、一人でも多くの人に、少しでも楽になってもらえたら。

同性愛者の僧侶で声を上げている発信者は、まだまだとても少なく、私には言葉を届ける役割があると感じています。それぞれの宗教に優劣はないけれど、「知識は力になる」からこそ、「そんな考え方や教えもあるんだな」と視野を広げるきっかけになれたらと思うのです。

ミスUSAの悲しいニュース

今回の出版にあたっては、意気込みが大きいぶん、たくさん悩んでしまい、正直にお話しすれば、プレッシャーに押しつぶされそうにもなりました。

世界で活躍する著名人と自分をつい比べてしまって、そんな風になれるだろうかと考えたり、イベントへの反応やレビュー記事に手ごたえが感じられないと「自分に価値があるのかしら」と落ち込んだり──。

そんな中、とてもショッキングなニュースが飛び込んできました。

2019年のミスUSAに輝き、ミス・ユニバースでTOP10への入賞を果たしたチェスリー・クリスト(Cheslie Kryst)さんが今年1月30日、ニューヨークで自ら命を絶ってしまったのです。私自身、大会などで彼女のメイクにたずさわり、面識があっただけに大変なショックを受けました。

もともと弁護士だった彼女は、ミスUSAで脚光を浴びた後、人気情報番組『Extra』の司会者になり、レディー・ガガ(Lady Gaga)らにインタビューしたり、ニューヨークで開催されるファッションの祭典「メットガラ」に出席したり、ミス・ユニバースの司会を務めたりと、目覚ましい活躍を見せていました。豊かな知性と経験、腹筋の割れた美しい体型──まさに「すごい人」と多くの人に憧れられる存在だったのです。

一方で「アメリカを代表するほど美しくない」「筋肉質すぎる」といった誹謗中傷やいじめがなくならず、本人は「ソーシャルメディアに書き込まれるコメントをどれほど消したか分からない」「背が低いのが悩み」「30歳になりたくない」とこぼしていたのを覚えています。

自死の理由は、もう誰にも分からないけれど……。みんなが「チェスリーは成功している」と思っていても、本人が満たされているかというと、はたしてどうだったのでしょう?
今となっては、彼女が大会で勝ち進んだことがよかったのかさえ、分かりません。

彼女の苦しみに思いをはせるとともに、最近プレッシャーの中でもがいていた私は「私も我慢していなかったかな?」「ああ、私、なにしているのだろう?」と我が身を振り返りました。

輝かしい活躍=幸せ、とはかぎらない

売り上げや知名度、他者からの評価を追い求めることにはキリがありません。それらが本当の喜びや幸せに直結するわけでもなく、輝かしい活躍=幸せ、とはかぎらないとしたら。

本当の成功って何なのでしょう?

私はしばらく考えて、こう思いました。
本を出すことや海外デビューというのは、一見成功に見えるけれども、あくまでマラソンの通過点のようなもの。本当の成功とは、本が出ること自体じゃない。
みんなに気づきや良い変化を与えることができたら、それこそが成功。一人でも、届けたい人に言葉を届けよう。そこを目標にしなきゃいけないのだ──と。

そんな風に気づいても、これからも私は一喜一憂するでしょうし、プレッシャーに押しつぶされそうになることもあるでしょう。でも、つい忘れても、また思い出せるように、自分自身に問いつづけたいと思います。

「自分が本当に笑顔でいるときって、どんなとき?」
「笑っているつもりでも、笑顔が曇っていない?」
「自分は本当に安心して満たされている?」

みなさんには、自分の気持ちを尺度にすることを、忘れないでほしいと思います。
つらいときには、どうか立ち止まって、自分自身が幸せになる選択をしてください。

そう、我慢して、人に見せるための笑顔をつくって、周囲の期待や評価に応えるよりも。
自分が本当にやりたいこと、ハッピーになることにフォーカスしなきゃ!

さて、あなたは、本当の成功とは何だと思いますか?
あなたが曇りのない笑顔でいるのは、どんな瞬間でしょうか?

【西村宏堂の“Out of the Box!”#17】勉強は好きですか? ミス・ユニバース大会で知った学びの力
1989年東京生まれ。米パーソンズ美術大学卒。メイクアップアーティストにして僧侶、LGBTQ活動家。日本語、英語、スペイン語を操り、ミス・ユニバース世界大会などでメイクを手がける。国連、イェール大学など講演多数。NHK、CNN、BBCなど国内外のメディアに取り上げられ、Netflixの番組「Queer Eye」にも出演。2021年にTIME誌「Next Generation Leaders」に選出された。著書に『正々堂々』、2022年には英語、独語で"This Monk Wears Heels"を出版。
合同会社アーキペラゴ代表。グラフィック&WEBデザイン、文章、写真、旅する本屋など、様々な手段で価値あるコトを伝える媒介者として活動しています。外界の刺激を受け取りすぎるといわれるHSPですが、自分の特性を生かして社会と関わっていければと。慶應義塾大学法学部、桑沢デザイン研究所卒。東京生まれのミレニアル世代。好物は本と旅と自転車、風の匂い。
フォトグラファー。福原 佑二氏に師事後、2019年に独立。雑誌、web媒体、ブランドのカタログ等をメインに東京を拠点に活動中。1989年 仙台出身。
西村宏堂の“Out of the Box!”