『コントが始まる』3話。もはや伏線回収とかどうでもいい!有村架純の独白じゃない方のシーンも凄い

鳴かず飛ばずの日々を過ごすお笑いトリオ『マクベス』の春斗(菅田将暉)、瞬太(神木隆之介)、潤平(仲野太賀)。春斗が気にかけているのは、完璧人間だった兄・俊春(毎熊克哉)が突然人生に挫折したこと。そして、マクベスにどっぷりハマり、解散以来ため息ばかりつく姉・里穂子(有村架純)を心配する妹・つむぎ(古川琴音)。危うい兄弟のお話が、またしても想像をしていなかったクライマックスへ。

『コントが始まる』(日本テレビ系)第3話。潤平(仲野太賀)がいちいち調味料を冷蔵庫に入れるクセ、そういえば1話の時にもやっていた。しかも、確かあれはマクベス解散を初めて切り出す大事なシーンだ。

テーブルと冷蔵庫を行ったり来たり、緊張からの奇行と思っていたけれど、あの行動には「調味料は要冷蔵だから」という潤平のこだわりがあった。しかし、わざわざ解散話中に冷蔵庫を行ったり来たりしてまで、このクセの伏線を張る必要はあったのだろうか? このドラマの魅力はそういうところに詰まっている気がする。

気持ちよくストーリーに没入

僕は他に覚えていないが、潤平が調味料を細かくしまうシーンは他にもあったのかもしれない。だけど、それを覚えていたからと言って今回のエピソードに特段深みが増すわけではない。話が成立する成立しないの話でもない。ただ、「あ、そういえばあのとき……」くらいのちょっとした楽しさになったりする。

これくらいのゆるさだ。無闇に伏線に重要性を持たせない。だから「あ、これ伏線っぽいから覚えておかなきゃ!」みたいな要らない勘ぐりをしなくて済む。このおしつけがましくない演出のおかげで、気持ちよくストーリーに没入することができるのだ。

もちろん、今話もたくさんの伏線と回収があった。例えば、引きこもりになった春斗(菅田将暉)の兄・俊春(毎熊克哉)。俊春は、潤平がしまう調味料のように、たまにシャワーを浴びるために出てきてはすぐに部屋に戻ってしまう。

そんな俊春を救ったのは、春斗の優しさだ。「親父と母さんだけじゃ、お湯もったいないから」という言葉に部屋から出る勇気をもらい、久しぶりにゆっくりと湯船につかることで前を向くことができた。この風呂の湯は、冒頭のコントの「奇跡の水」と捉えることができる。

もっと間口を広げて、奇跡の水という伏線を回収することもできる。里穂子(有村架純)に辛い過去を語らせる雰囲気を作ったお酒も奇跡の水だし、そんな里穂子を笑わせたのは潤平の足を洗った水、奇跡の水を拭いたタオルだ。僕が気づいていない、もっと他の奇跡の水を見つけた視聴者はたくさんいるのではないだろうか。

ただ、それを回収と取るかどうかは個人の自由。本当に好き勝手に解釈していいと思う。伏線なんかどうでもいいぜ、みんなのキャラクターが愛おしいんだぜ。でも全然いいと思う。それくらいの自由がこのドラマにはある。

有村架純の独白じゃない方のシーンも凄い

ラーメン屋での潤平の涙、飄々とした瞬太(神木隆之介)が時折見せる本音、里穂子の言葉に号泣する春斗などなど、わずか過去2話でさすがの演技力の高さを見せてくれるシーンが山ほどある。

今話で言うと、有村架純による10分以上の独白がそれだろう。波のない平坦な話し方が絞り出すように語る心情を表現し、力のない笑顔は心配させたくない里穂子の優しさを教えてくれる。どこを見ているのかわからない目線は、きっと里穂子がまさに今、喋りながら過去と向き合い、過去を整理しているからなのだろう。

さすがは有村架純、と言うべきなのだが、こことセットで楽しみたいのがドラマ序盤、妹・つむぎ(古川琴音)の語りと、それを迎えうつ里穂子だ。

些細なことでケンカした2人。1人で掃除機をかけるつむぎに対して、布団の中でゴロゴロとマクベスの動画を観る里穂子。明らかに邪魔をしているのに、チラリとつむぎを見やっては、不敵な笑みを浮かべる。

後の独白で語られた過去は、衝撃的な元彼へのフラれ方と大手企業で受けたイジメだった。里穂子は1ヶ月以上も外に出られなくなり、風呂にも入れなくなるほどに精神的ダメージを受けていた。不敵な笑みの正体は、そんな辛すぎる弱者という立場を盾にした余裕だった。「そんなに厳しく当たっていいの?お姉ちゃんいつでも病んじゃうよ?」と言わんばかりにゴロゴロしている。

弱者であることを盾に取るくらいなのだから回復しているのだろう。かと思えば、水槽の熱帯魚3匹にマクベスの名前をそれぞれつけて不気味な笑みをこぼしている。全然回復していない。マクベスといる時やファミレスでバイトをしている時は、気を張っているのだろう。そればかり見ていたので麻痺していたが、現状の里穂子は、まだまだリハビリ中なのだ。

そんなリハビリ中の姿を平然と見せることができる、それどころか盾にさえできる。里穂子に取ってつむぎは、それほど信頼できる人物だということがわかる。そして、里穂子がマクベスに過去を告白した後、つむぎは母に「お姉ちゃんはもう大丈夫だから。もう心配しなくて大丈夫」と電話している。小さかった里穂子の世界は、マクベスを通して広がったのだ。

この里穂子の姿は、春斗の兄・俊春が外に出られたことにもリンクしている。いや、リンクしていなくても、2人それぞれの変化だけで十分ではあるんだけど。

企画、動画制作、ブサヘア、ライターなど活動はいろいろ。 趣味はいろいろあるけれど、子育てが一番面白い。
フリーイラストレーター。ドラマ・バラエティなどテレビ番組のイラストレビューの他、和文化に関する記事制作・編集も行う。趣味はお笑いライブに行くこと(年間100本ほど)。金沢市出身、東京在住。
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