「青天を衝け」全話レビュー

『青天を衝け』12話。焼き討ち計画あっさり断念。過ちを認めるのが渋沢栄一の強さ

吉沢亮主演NHK大河ドラマ「青天を衝け」。「日本資本主義の父」とも称され、幕末から明治を駆け抜けた実業家・渋沢栄一を主人公に物語が進みます。生まれたばかりの子どもを抱かないまま尊王攘夷に突っ走る渋沢栄一。とはいえ、京都から戻った長七郎(満島真之介)の涙ながらの訴えに、高崎城乗っ取り計画は断念。再起をはかるため、村を離れ京に向かうことを決意したものの……。

吉沢亮主演、大森美香脚本の大河ドラマ「青天を衝け」第12話。
産まれたばかりの娘・うたを抱きもしないで「家を出て天下のために働きてえと思う!」なんて言い出した渋沢栄一(吉沢亮)。
高崎城を乗っ取り、横浜の外国人居留地を焼き討ちに。何だかんだで幕府を転覆させる計画を企てており、実家に迷惑をかけるわけにはいかないと考えたからだ。

その行動が既に迷惑だよ! とは思うものの、出産直後の妻・千代(橋本愛)は栄一の決断を受け入れる。
「ひとつだけお願いがございます。うたを抱いてやっていただけませんか」
こんなけなげな頼みすらもスルーした栄一は、尊王攘夷に突っ走る。

「尊王」と言いつつ天皇の気持ちを知らない志士たち

69人分の血判を集めた尾高惇忠(田辺誠一)たち一派は、今日も今日とて尾高家で作戦会議。
そこに、京都に行っていた尾高長七郎(満島真之介)が帰ってくる。坂下門外の変にも参加しようとしていた武闘派。「これで百人力だい!」と栄一たちは沸き立つが……。

「これは暴挙だ、あにぃのはかりごとは間違っている。俺は同意できぬ!」
長七郎は計画に反対の立場を表明した。
参加メンバーは69人。用意した武器も刀70振りに槍が30本。確かに、これで城を攻め落とそうなんて正気かと聞きたくなるような作戦ではある。
しかし長七郎が反対するのは、計画の無謀さからだけではない。尊王攘夷の中心地である京都で、情勢の変化を目の当たりにしてしまったからだ。

「8月には大和で1000人以上もの手だれの同志が挙兵したが、あっという間に破れた」
これはいわゆる「八月十八日の政変」のこと。
孝明天皇の望んでいる攘夷に踏み切らない幕府に業を煮やした長州藩は、「無能な幕府に代わって、天皇自ら皇軍を率いて攘夷を行うべきだ」と朝廷工作を進めていた。
しかし当の孝明天皇は、攘夷を望んではいるものの武力による攘夷戦争はむちゃだと考えており(その辺は幕府に任せたい)、結果、攘夷急進派の公家や長州藩士たちが京都から排除された事件。

この時、警備に出動した壬生浪士隊は、その働きを高く評価され新撰組という名を拝命。以降、攘夷急進派の取り締まりに当たっていくことになる。
尊王攘夷の志士たちは「尊王」と言いつつも、孝明天皇の気持ちを理解できていなかったわけだが、天皇のために命を投げ打つ覚悟でいた志士からするとハシゴを外されてしまった感はぬぐえないだろう。

「世間の笑いものになろうが、愚かと言われようが、たとえ死んでも一矢報いてやろうと覚悟したんでねえか!」
あくまで命を捨てる覚悟の栄一に、長七郎は命を無駄にするむなしさを説く。
「オレは(坂下門外の変で死んだ)河野たちは国のため、天子さまのために命を捨てたのだと思っていた。しかし今は、あいつらが何のために死んでしまったのか分からねぇ」

ただの武闘派剣術バカかと思っていた長七郎が、学がある(と思われている)惇忠や栄一よりもまっとうなことを言っている。結局「うわーん!」と号泣しはじめた長七郎の勢いに圧倒され、計画は取りやめになった。

過ちを認めビッグになる渋沢栄一

「話していて、すぐに気が付いたんだ。長七郎の方が正しいと」
「自分の信じた道が間違っていたなんて……」
憑きものが落ちたかのようにスッキリとした顔で自分の間違いを認めた栄一。
あそこまで大見得を切っておきながら、気が変わるの早ッ! とも思うが、ある意味、その時々に応じて変節できるのが渋沢栄一の強みでもある。
倒幕を考えていたのに徳川御三卿のひとつ・一橋家の家臣になったり、「攘夷攘夷」言っていたのに、西洋を見習って日本を近代化していくことになったり。

「孔子さまとて『過ちて改めざる これを過ちという』とおっしゃっております」
自分の過ちを素直に認めていくことで、渋沢栄一はビッグな男になっていくのだ。
ようやく娘・うたを抱いた栄一は「ああ、死なねえでよかったぁ」と、今後、命を無駄にしないことを誓った。
まあ、実際の栄一は産まれたばかりの娘を抱かなかったどころか、だいぶ大きくなるまで顔も見なかったそうだが。

説明不足なのは新型コロナのせい!?

今回は、栄一たちと平岡円四郎(堤真一)との出会いも描かれ、徳川慶喜(草なぎ剛)の家臣になる道筋もつけられた。……が、いろいろと説明不足なせいで、展開が唐突すぎて面食らってしまった。
焼き討ち計画をやる気マンマンで江戸に来た栄一と喜作が、いきなり役人(?)に追いかけられ、平岡円四郎に助けられたと思ったら「オレのもとに仕えてみてはどうだ?」と誘われる。
役人に追われているようなヤツを、事情も聞かず初対面でいきなり家臣にしようとは、いくら江戸っ子にしても気が早すぎる。
実際の流れを説明すると、以前、江戸遊学していた際に円四郎の家臣・川村恵十郎(波岡一喜)と知り合い、その流れで円四郎とも既に会っているのだ。
交流する中で栄一の才能を見抜いた円四郎が家臣にと誘ったということで、決して初対面の何者か分からないヤツを家臣にしようとしたという話ではない。

説明足らずでいうと、天皇の手助けをするため京都へ旅立つ慶喜を見送った妻・美賀君(川栄李奈)が、
「これでもう、わらわが殿のお子を産むことはあらしゃりません」
と、お世継ぎを産めなかったことを悔やんでいたが、第8話では明らかに妊娠していると思われるサイズのおなかをさすっていた。

その後、出産したともしないとも説明がないまま、いつの間にかおなかはへこみ、この発言だ。
史実では、出産したものの数日後に子どもが亡くなっているのだが、その辺の描写もなし。

これまでもちょこちょこ「どうしてここの説明ないの?」というエピソードがあったが、新型コロナの影響で予定外に2月スタートになってしまったため、無理やりシーンを削っているのではないだろうか。そうとでも考えないと、いくらなんでも脚本が破綻しすぎている。

今回で血洗島編が完結し、栄一たちが京都に進出することで、本格的に日本の動きと関わりだすこととなる。
予告では五代友厚(ディーン・フジオカ)も登場していたし、ここから先は当初の予定通りの完全版『青天を衝け』を見せてもらいたい!

1975年群馬生まれ。各種面白記事でインターネットのみなさんのご機嫌をうかがうライター&イラストレーター。藤子・F・不二雄先生に憧れすぎています。
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