「青天を衝け」全話レビュー

『青天を衝け』10話。尊王攘夷にかぶれる吉沢亮。妊娠したばかりの橋本愛は暗い顔に

吉沢亮主演NHK大河ドラマ「青天を衝け」。「日本資本主義の父」とも称され、幕末から明治を駆け抜けた実業家・渋沢栄一を主人公に物語が進みます。10話は桜田門外と比べて影の薄い坂下門外の変。栄一は結婚したばかりの妻・千代を置いて、念願の江戸へ。尊王論者・大橋訥庵(山崎銀之丞)を紹介され、安藤の暗殺計画を知った栄一は……。

吉沢亮主演、大森美香脚本の大河ドラマ『青天を衝け』第10話。
先週の桜田門外の変に続いて、今回は坂下門外の変。
日本史の授業などでも、桜田門外と比べるとものすごく影の薄い坂下門外。ドラマでもアッサリとした展開だった。

栄一、新婚の妻を放置して江戸に

「オレはもっと知りてえ、今この国がどうなってんだか。江戸で、この目で見てきてえんだ!」
ということで父・市郎右衛門(小林薫)に江戸行きを懇願した渋沢栄一(吉沢亮)。「百姓だってこの世の一遍を担ってんだ」という主張は分かるけど、タイミング!
千代(橋本愛)と結婚したばかり。しかもなかなか子どもができないと親戚たちから子作りプレッシャーをガンガンかけられている最中に、妻も仕事もほったらかして1ヶ月以上も江戸に行くって(しかも不要不急感ハンパない理由で)なかなかのヤバ夫だ。

千代の暗い顔をスルーして念願の江戸へやって来た栄一は、いとこの尾高長七郎(満島真之介)や渋沢喜作(高良健吾)たちが身を寄せる思誠塾を訪れる。
指導者である大橋訥庵(山崎銀之丞)をはじめ、塾生たちはみんなゴリッゴリの尊王攘夷派。「我らがこの手で神風を起こすのだ!」なんて言って、外国人を打ち払う気マンマンの方たち。彼らの影響を受けて、栄一も尊王攘夷への思いをますます強くしてしまうのだ。

国のことを思う気持ちは尊いけど……

尊王攘夷で頭をいっぱいにしたまま血洗島に帰ってきた栄一。父から「気が済んだか?」と問われても返事をすることができない。ぜーんぜん気は済んでいないのだから。
千代が妊娠したと知って、ようやく農作業に精を入れだしたものの、日本を変えるビッグな野望は捨て切れないようで、何かにつけ「オレたちにも風を起こせるんだ!」なんてフワフワしたことを言っている。
しかし念願の子どもを授かったばかりの千代からしたら、尊王攘夷よりも生活の方がどう考えても重要だ。

「兄や栄一さんたちがこの国のことを思う気持ちは尊いものだと思っています。それと同じように、お養父様がこの村やこの家のみんなを守ろうと思われる気持ちも、決して負けねえ尊いものだとありがたく思っています」
メチャクチャ正しいよ!

今回、「日の本を変える!」と息巻く栄一と、それを複雑そうな表情で見つめる千代というコントラストがたびたび描かれており、胸が痛んだ夢見がち男性も多いんじゃないだろうか。
そもそも、栄一が抱いていたモヤモヤは、天皇も外国人も関係なく、武士と農民とを隔てている身分制度への疑問だったはず。
思誠塾での「人を斬るためのための稽古」の際も、「こいつに人を斬れるわけがない。百姓はくわやすきで土でも掘ってるのが似合いだ」とバカにされ、逆上して巻藁をメッタ斬りに。

大橋訥庵から老中・安藤信正(岩瀬亮)暗殺を指示された長七郎も「武士の本懐を果たせば、後は潔く死ぬまでよ」なんて言っている。……でも、アンタ農民じゃん!?
農民として武家階級から理不尽な仕打ちを受けてきたコンプレックスから、過激な思想にかぶれていく栄一たち。現代において「社会的弱者ほど陰謀論にハマリがち」というのにも通じる。

坂下門外の変、思いっきり失敗

幕末ドラマにおいては反・幕府の志士=正義。新しい時代を目指す先進的な若者たちとして描かれるのが定番だが、そもそも尊王攘夷思想って、「神の国・日本に外国人を入れるなー!」なので思いっきり保守だ。
本作では、長年権力を握って腐敗した幕府もダメだけど、それに反発して尊王攘夷をとなえている連中もどうかしているよね、と冷静な視線で描かれている。
この時期、ほとんどの志士は尊王攘夷思想にかぶれていたわけだが、やがてその気持ちが開国政策を推し進める幕府にぶつけられて攘夷倒幕派に。

しかし、まともに判断力のある人なら外国とガチでやり合って勝てるはずないことも分かってくるわけで、結果、尊王も攘夷もあまり関係なく、単に幕府を倒そうという開国倒幕派に転身して明治維新を成し遂げることになる。
その初期段階にある尊王攘夷の志士たちは、単に「外国人&幕府の要人をぶっ殺そうぜー!」くらいに考えている人がほとんど。思誠塾はその最先端を突っ走っていたのだ。

訥庵の指示により、老中・安藤信正暗殺を狙って決行された坂下門外の変。しかし桜田門外の変とは違い、アッサリ鎮圧されてしまう。
計画に加わったのはたったの6名。しかも井伊直弼が殺害されたばかりで、どの大名も用心棒を雇って警備を強化しているような時期。そもそもかなりむちゃな計画だったのだ。
なぜこんな無理ゲーを強行したのか?

ドラマでは、坂下門外の変を受けて大橋訥庵たちが捕まったという語られ方をしていたが、実際には事前に情報が漏れて訥庵一派が捕まってしまい、仕方なく残された連中で決行しているのだ。
しかも当初7名参加予定だったのに、ひとりは遅刻して参加できなかったという……。

長七郎も、兄・尾高惇忠(田辺誠一)や栄一たちの説得で参加を断念している。
「これは無駄死にだ。暗殺に一命を賭けるのは、お前のような大丈夫のなすことじゃあねえ」
さすが惇忠兄ィ、いいことを言うわと思っていたら、
「我らこそが口火となり、挙国一致し、幕府を転覆させる!」
もっとヤバイこと言い出したー! 夫も兄もみーんな尊王攘夷脳。千代も苦労するわ……。

泣いてイヤがっていた相手にときめく和宮

尊皇攘夷派の志士たちが殺したいほど安藤信正を敵視した理由は、井伊直弼の方針を継承してて開国を推し進めたこと。
しかしそれ以上に、幕府の権威と取り戻すため将軍・徳川家茂(磯村勇斗)と、孝明天皇の妹・和宮(深川麻衣)を結婚させる公武合体を推進したことが大きいと思われる。尊王攘夷派からしたら、「幕府のために皇室を利用するなんて!」と激高もんだろう。

当の和宮も「武蔵国は武士(もののふ)らが首を取り合う恐ろしいところと聞いておりまする。それを武士の頭領に嫁げとは……ひどい話!」と泣いてイヤがっていたこの政略結婚。

ところが、実際会った家茂はメッチャ紳士! ……ということで、一瞬にして恋する顔になってしまった。
当人同士が好きになったのなら何も問題ナシ! 他人が結婚に口出しする必要はないんじゃないの!? とも思うが、最近の小室圭さんの騒動を見ていると、皇室の結婚はそう簡単なものじゃないんだろうな……。

1975年群馬生まれ。各種面白記事でインターネットのみなさんのご機嫌をうかがうライター&イラストレーター。藤子・F・不二雄先生に憧れすぎています。
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