傑作確定『コントが始まる』を元芸人ライターが解説「マクベス」が車を使う理由、音楽事務所に所属する必然

鳴かず飛ばずの日々を過ごすお笑いトリオ『マクベス』の春斗(菅田将暉)、瞬太(神木隆之介)、潤平(仲野太賀)。結成10年を前にある決断に迫られます。一方、マクベスの3人がネタ作りをするファミレスでウェイトレスをする里穂子(有村架純)。20代後半、様々な決断を迫られる「最後の青春」にもがく、4人を中心に物語が動き始めます。

菅田将暉、有村架純、仲野大賀、古川琴音、そして神木隆之介らが出演するドラマ『コントが始まる』(日本テレビ系)がスタートした。この俳優陣に、脚本は『俺の話は長い』の金子茂樹だ。放送前から期待が高まる。

毎話そうなるのだろうか。冒頭は、高岩春斗(菅田将暉)、朝吹瞬太(神木隆之介)、美濃輪潤平(仲野大賀)からなるお笑いトリオ・マクベスのコントで始まる。触れた水を全てメロンソーダに変えてしまう特異体質に悩むラーメン店スタッフと、「水のトラブル」を解決しに来た水道業者のストーリーだ。

里穂子にとってのマクベスとは?

このコントをネット動画で観ていたのは、ファミレスで働く里穂子(有村架純)。彼女はマクベスが週に一度ネタ合わせをするファミレスの店員で、楽しそうに話す3人が気になり、ネットで調べている内にいつのまにかファンになっていた。

彼女自身が言っていた「応援」という言葉が合っているのだろう。マクベスは「崇める対象」ではなく、「見ていたいもの」。マクベス3人が共同生活をするマンションの内見に行ってしまうなど、ちょっとストーカー気質な部分はあるが、それは前の会社の関係で精神的に追い詰められていたためだ。そんな里穂子だったが、勇気を出して初めて行った単独ライブでマクベスは、解散を発表してしまう。

里穂子を中心に話が展開されてきたが、ここら辺で春斗の視点に。マクベス結成の過去や、ファミレスができる前に春斗と泥酔した里穂子が出会っていたこと、解散を決めるに至るまでが語られる。これらに冒頭のコント「水のトラブル」の発想の元や、マクベスというトリオ名の由来(おそらくだが、高校時代の教師・マカベから取った)などが散りばめられいて、伏線が丁寧に回収されていった。

放送後、SNSでは当然のようにドラマを絶賛する声が上がったのだが、その中で気になったのは「映画っぽい」という言葉だった。映画っぽいってなんだろう。

つくねをアップにしない

テレビで放送される連続ドラマは、一瞬で視聴者の目を引きつけないとチャンネルを変えられてしまうが、映画館やDVDを再生して観る映画はその心配がない。つまり、必要以上に派手な演出をしなくてもいいのだ。

そういう意味で『コントが始まる』は確かに映画っぽい。気の利いたセリフや伏線回収など、脚本も演技も完璧な作りなのに、それを見せびらかすような演出をしていないのだ。

瞬太が『ぷよぷよ』のプロゲーマーを辞めると言い出したシーン。潤平は焼き鳥のつくねを持って、「ごめんな、ぷよぷよを思い出すだろ」とおどけて見せたが、ここでカメラはつくねをアップにしない。面白げな効果音なんかもつけずに、大賀の演技だけを純粋に見せた。

駿太が『ぷよぷよ』の大会で100万円を獲得した後の中華料理屋もそうだ。潤平は「麻婆丼と餃子」を追加注文し、駿太は「まだ食うの?」と驚くことで、100万円を手に入れた駿太が奢っていると想像させてくれる。潤平に「人の金で食う麻婆丼は美味いな~」とでも言わせればわかりやすいのに、このドラマはそれをしない。前述したマクベスの由来も、「たぶんそうなんだろ~な~」という視聴者の想像力に委ねている演出だ。

YouTubeの隆盛もあり、昨今の映像業界はカメラワークや効果音などの演出がドンドン派手になっている。そんな中、無駄な味付けをせずに役者と脚本の良さを生かした演出が、逆に注目されたということだ。

マクベスのリアリティと芸人あるある

僕は、数年前までお笑い芸人をやっていた。それはもう本当の本当に売れなくて、売れる空気すら漂わせたことのない本物の地下芸人だ。そんな僕としては、このドラマは売れない芸人あるあるがしっかりと台本や設定に刷り込まれていると感じる。

マクベスは、音楽事務所に所属するコントを武器とするお笑い芸人だ。この設定が本当にミソで、大手事務所に所属していたらこの話は破綻している。

マクベスは、移動に車を利用している。おそらくこれはコントの小道具を運ぶために3人で折半して保有しているものだろう(レンタカーかもしれないが)。だが、いくら折半でも通常の売れないお笑い芸人なら金銭的にかなり難しい。それを可能にしているのが「音楽事務所」という設定だ。車があったおかげで、「博多のラーメン屋での解散話」というシーンが生まれている。

売れないお笑い芸人の何が金がないって、それは先輩付き合いやライブの多さだ。逆にどれだけ売れてなくても、先輩との絡みがなければ、アルバイトで生活自体はそれほど苦ではない。その点でいうとマクベスは、音楽事務所に所属していておそらくは近しい先輩もいないため、比較的に時間を自由に使える。

(おそらくだが)マクベスが東京の中心部から離れたところに住んでいるのも、先輩の突然の呼び出しに備えなくていいからだ。たいていの芸人は、最悪歩いて家に帰れるように先輩の家の近くに住んでいる。客が入らない単独ライブを定期的に開催するのも、自分たちだけで芸を磨くしかないからだ。

あるあるとして、先輩芸人と付き合いのない芸人は他の芸人との絡みが苦手になりがちなのだが、その代わりマクベスは3人で過ごした圧倒的な時間の長さにより、独特な「仲良さげな雰囲気」を持つことに成功している。これが、里穂子を惹きつけた要因とも言える。

僕のアバウトな印象として、ネタを書くブレーン(マクベスの場合は春斗)がイジられるコンビないしトリオは、人気が出やすい。解散まで残り2ヶ月、ここからマクベスは一体どうなってしまうのだろう。

企画、動画制作、ブサヘア、ライターなど活動はいろいろ。 趣味はいろいろあるけれど、子育てが一番面白い。
フリーイラストレーター。ドラマ・バラエティなどテレビ番組のイラストレビューの他、和文化に関する記事制作・編集も行う。趣味はお笑いライブに行くこと(年間100本ほど)。金沢市出身、東京在住。
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