『コントが始まる』8話。大事なことをすっ飛ばしている春斗(菅田将暉)と瞬太(神木隆之介)

『コントが始まる』8話。解散が決まっている、春斗(菅田将暉)、瞬太(神木隆之介)、潤平(仲野太賀)からなる、お笑いトリオ「マクベス」。潤平、瞬太に続き、つむぎ(古川琴音)と里穂子(有村架純)の進路もほぼ決まります。まだやりたいことが見つからないのは春斗だけ。これから春斗が進むべき道とは……。

終盤に差し掛かり、最終回の輪郭が見え始めた『コントが始まる』第8話。潤平(仲野太賀)、瞬太(神木隆之介)に続いて、つむぎ(古川琴音)と里穂子(有村架純)の進路もほぼ確定した。

残り2話で春斗(菅田将暉)の進路がどうなるのか?というのが見どころになってくるが、果たしてどうなるのだろう。これだけ伏線と回収が素晴らしいドラマなのに、春斗だけ伏線らしきものがまるで見当たらない。

「マクベスを最初に諦めてしまったのは俺かもしれない」を考える

野球部のマネージャーをしていた時が1番輝いていたと感じるつむぎは、里穂子のアドバイスを受けてマクベスが所属する事務所「パソリブレ」にマネージャー志望で面接へ。面接官は、マクベスのマネージャーを務める楠木(中村倫也)だ。

マネージャー繋がりで働きたいというつむぎに、楠木は「舐めてるの?」と驚くほど冷たい言葉を投げかける。もはや圧迫面接だ。しかし、本人も元々は歌手志望でパソリブレを訪れ、成り行きでマネージャーになったことを明かす。「舐めてるの?」は覚悟を試しつつも、理想にとらわれるなという激励の言葉でもあったのだろう。やる気がありすぎるやつほど早く辞めるのは、どの業界でもあるあるだ。

そんな楠木は、マクベスとのこれまでを思い返す。マクベスのマネージャーになったきっかけは、それこそささいな出来事だったが、楠木は慣れないお笑い芸人のマネージメントを必死でやってきた。営業だけでなく、ネタの打ち合わせや反省会にまで参加し、やっていることはまるで座付のお笑い作家だ。

しかし、タレントとマネージャーの関係性は難しい。ライブがうまくいかず、春斗から拒否される形で楠木は反省会に参加しなくなる。楠木は「マクベスを最初に諦めてしまったのは俺かもしれない」と悔んでいたが、単純にそうとも言い切れないように思う。

ネタに関わらないマネージャーなんて普通のことだし、実際に春斗たちが楠木を面倒くさがったわけではない。明確に表現されたわけではないが、おそらく春斗は楠木の影響が強くなりすぎることを嫌っただけだろう。

現に、今回のコント「ファミレス」では、「(店員が)エスパー感がない方が単純に見やすい」という楠木の意見は採用されたままだった。解散ライブのネタ順も、春斗は楠木の案を受け入れた。楠木が思っているよりもずっと、楠木は良いマネージャーだったのだ。

 

「ささいなこと」すらない春斗

つむぎは、やりたいことと向き合って就職先を決めた。一方、元華道部の里穂子は「受付に見事な生花が飾ってあった」と、会社を選ぶきっかけがささいなことだったことを明かす。これに春斗は、心底驚く。

「会社のロゴがかわいいとか、社名がかっこいいとか、そんなささいなことで選んでもそんなに間違えてない気がするんです」

やりたいことも得意なことも見つからない春斗にとって、実家の酒屋を継いだ潤平よりも、バイト先で正社員になれる瞬太よりも、里穂子の生花が1番身近に思える転職理由だ。何も持たないと感じている春斗は、「自分が許された」と感じたかもしれない。

さらに、春斗の兄・俊春(毎熊克哉)は、知らぬ間に街の印刷屋を再出発の場所に決めている。こちらもおそらく夢ややりがいよりも、新たな一歩を踏み出すことが目的の選択だろう。真面目すぎる春斗は、転職を重く捉えすぎているのだ。

とはいえ、春斗にはささいなきっかけさえ見当たらない。というか、これまでの18話で、春斗の好きなものや、春斗が積み上げてきたもものがほとんど描かれていないのだ。つまり、春斗には就職への伏線らしきものがほぼないのだ。

 

大事なことを忘れている3

もし、春斗に伏線(と呼べるかはわからないが)があるとしたら、お笑いくらいだろう。春斗は、マクベス解散=お笑い引退と決めつけているが、実は意外なほどそこに向き合っておらず、マクベスを諦めてもコントを辞める理由は特にない。

また、今話で潤平は父親(金田明夫)に頭を下げて酒屋を継ぐ決意を固めたが、瞬太もバイト先で正社員としてのステップを踏んでいる描写はあまりない。単純に思うのが、春斗と瞬太は、お笑いを辞めたいなんて思ってないし、家族や彼女などの障害なんて一つもないということだ。潤平はお笑いに心が折れているが、2人は全く折れていない。

3人じゃないとマクベスじゃない」「潤平が一緒じゃないとやりたくない」。そんな気持ちはわからないでもないが、それくらいで諦めるような春斗には到底見えない。今が楽しければそれでいいでしょ精神の瞬太も、違う意味で辞めそうにない。今話の終盤にファミレスを訪れた楠木が、「お前らちゃんと話し合えよ」と言っていたが、まさにその通り。マクベスは、大事なことをすっ飛ばしてしまっている。

楠木が提示した解散ライブのネタ順は、これまでに話の冒頭で披露したコントの順番だった。そうなると、次のコントは「結婚の挨拶」。「娘さんをください!」というやつだ。潤平にスポットが当たりそうな雰囲気だが、最終回前の9話はどうなるのだろう。さすがにトリオ継続の線は薄そうだが、とにかく春斗は自分とちゃんと向き合って欲しい。

 

企画、動画制作、ブサヘア、ライターなど活動はいろいろ。 趣味はいろいろあるけれど、子育てが一番面白い。
フリーイラストレーター。ドラマ・バラエティなどテレビ番組のイラストレビューの他、和文化に関する記事制作・編集も行う。趣味はお笑いライブに行くこと(年間100本ほど)。金沢市出身、東京在住。
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