「青天を衝け」全話レビュー

『青天を衝け』16話。愛されキャラ平岡円四郎の死はダメージが大き過ぎる!

吉沢亮主演NHK大河ドラマ「青天を衝け」。「日本資本主義の父」とも称され、幕末から明治を駆け抜けた実業家・渋沢栄一を主人公に物語が進みます。「恩人暗殺」というサブタイトル通りの平岡円四郎(堤真一)の死のダメージが大きすぎる16話を考察します。

吉沢亮主演、大森美香脚本の大河ドラマ「青天を衝け」第16話。

「恩人暗殺」というサブタイトルでおおむね展開は読めていたが、それでも平岡円四郎(堤真一)の死はダメージが大きかった。
これまでイチの徳川慶喜(草なぎ剛)×円四郎のイチャイチャを見せられた後だっただけに……。

水戸藩がなぜ慶喜の障害になるか

朝廷を守る禁裏御守衛総督の任に就いて、政の実権を握った慶喜。しかし御三卿である一橋家は独立した大名ではないため、人材、兵力に乏しい。
そこで、渋沢栄一改め篤太夫(吉沢亮)と喜作改め成一郎(高良健吾)が人材探しの命を受けて関東に戻ることになる。

同時に、慶喜の故郷である水戸藩に対しても人材援助を要請していたが、藩内で「天狗党」を名乗る尊王攘夷の志士たちが挙兵したことで、それもままならなくなってしまった。
尊王攘夷派の水戸藩士たちにとって希望の星である徳川慶喜。なのに天狗党のせいで人材集めは頓挫し、懐刀だった平岡円四郎も水戸藩士によって暗殺されてしまった。

その辺の事情は、慶喜の父・斉昭の水戸藩主就任にまでさかのぼらないと分かりづらいかもしれない。

水戸藩では、斉昭の兄・斉脩が跡継ぎを決めないまま病に伏せたことからお世継ぎ問題が勃発し、将軍家から養子を取ろうという門閥派(のちの諸生党)と、斉昭を擁立する藤田東湖や武田耕雲斎たち(のちの改革派)が対立していた。
結果的に斉昭が藩主となり、門閥派を差し置いて改革派たちを重用したことから因縁がはじまる。
その後、井伊直弼による安政の大獄で斉昭に隠居が命じられると、門閥派は斉昭の長男・慶篤を担いで藩政の実権を握る。しかし、桜田門外の変で井伊が暗殺されると斉昭が復権して……。
尊王攘夷の総本山的扱いをされている水戸藩も、一枚岩になっていたわけではなく、尊王攘夷バリバリの改革派と、幕府寄りの門閥派がせめぎ合っていたのだ。

しかし尊王攘夷派の水戸藩士が桜田門外の変や坂下門外の変に加わっていたことや、斉昭が死んだことにより、改革派は藩内での力を落としていく。
で、藤田東湖の息子・藤田小四郎を筆頭に、改革派の中でも過激なグループが挙兵したのが「天狗党の乱」。これを鎮圧に当たったのが諸生党なのだ。
攘夷の急先鋒だった長州藩が京から追い出されたり、尊王攘夷の志士たちが新撰組によって粛正されたりと、尊王攘夷派はかなり追い詰められていた時期。

特に水戸藩の尊王攘夷派は幕府からも藩からも冷遇されているおり、頼みの綱は斉昭が溺愛していた息子・慶喜という状態。

しかしその慶喜が、泥酔して「公儀は横浜の鎖港を断固やる。港は断固閉じる!」とまで宣言した横浜鎖港も、もろもろの事情で進まず。一向に攘夷もやる気配がない。「慶喜サマどうしてっ? 攘夷やらないの!?」という怒りの矛先が、側近である平岡円四郎に向かったのだろう。

慶喜と円四郎、最期のイチャイチャ

一橋家において、慶喜と篤太夫たち家臣をつなぐ中間管理職的ポジションだった平岡円四郎。
若気が至り過ぎている篤太夫や誠一郎たちを優しくフォローする大人の余裕もありつつ、妻のごきげんを気にするかわいい面も持ち合わせる愛されキャラだった。
慶喜にとっても、心を許せる唯一といっていい存在だったはずだ。円四郎が暗殺される直前にも、デリケートな悩みを吐露していた。

「私は……輝きが過ぎるのだ」
突然、ナルシシストみたいなことを言い出した!? と思ったら「七光」の問題だった。
父が尊王攘夷の象徴・斉昭。母は皇室から降嫁してきた吉子。公武合体の先駆けともいえる生い立ちであるが故に「親の光」なのか「家の光」なのか、幕府からも朝廷からも期待をされてきた慶喜。

「(輝きを)己で確かめようと鏡を見ても、ホトガラフを見ても分からぬ。映っているのは、ただつまらなそうにこちらを見るだけの実に凡庸な男だ……」
円四郎はそんな慶喜を「東照大権現の再来」と持ち上げ、「尽未来際どこまでもお供つかまつります」と宣言していた。「天子さまや徳川をお守りしたい」という慶喜にとっては最強の褒め言葉だろう。
この会話中、どうしても北大路欣也の顔がちらついてしまったが。

暗殺シーンが生々し過ぎる!

ほぼ愛の告白じゃねーかという、慶喜との最高レベルのイチャイチャを見せた直後、円四郎は突然現れた水戸藩士にバサーッと斬りつけられ、ゲームだったらR-15指定されるレベルの大流血をして絶命する。

「おりゃあまだ死ねるか。まだ、見てぇもんが山ほど……。死にたくねぇなぁ……」
メチャクチャ生々しい。

思えば、井伊直弼が暗殺された桜田門外の変は、雪の降る中、生々しさの薄い浮世離れした美麗映像で描かれていた。
血なまぐさい事件であるにも関わらず、当時、血洗島にいた篤太夫たちにとっては遠くの話。

「井伊をめった刺しにし、籠から引きずり下ろして首を取り、槍に刺して高々と掲げたっていうで!」
「豪気なもんだのう!」
なんて盛り上がっていた。
今回は、篤太夫たちの恩人である円四郎が、桜田門外の変と同じく水戸藩士によって殺害されたのだ。

ここまで血を噴き出させなくても……と思うくらいに生々しい暗殺シーンになっていたのは、篤太夫たちにとってのリアルな実感を現していたのではないだろうか。
予告編で慶喜が「尊王攘夷か、まこと呪いの言葉になり果てた」とつぶやいていた。慶喜にとってはもはや「尊王攘夷派の希望の星」ポジションは厄介なだけでしかないだろう。
篤太夫たちも、天狗党に加わる真田範之助(板橋駿谷)たちと決別したり、水戸藩の動きのせいで故郷に帰れなくなったり、尊王攘夷へ疑問を抱きつつあるようだ。

平岡円四郎が死んだことによって、家臣ではあるものの慶喜とのコネクションが途絶えてしまった篤太夫たち。こうなったら直でつながるしかない。また慶喜が闇墜ちしないように、心のスキマを埋めてあげて欲しい!

『青天を衝け』全話レビュー第1話はこちら

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1975年群馬生まれ。各種面白記事でインターネットのみなさんのご機嫌をうかがうライター&イラストレーター。藤子・F・不二雄先生に憧れすぎています。
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