「青天を衝け」全話レビュー

『青天を衝け』13話。金もなく、攘夷もできず……栄一、京都で進退窮まる

吉沢亮主演NHK大河ドラマ「青天を衝け」。「日本資本主義の父」とも称され、幕末から明治を駆け抜けた実業家・渋沢栄一を主人公に物語が進みます。13話で舞台はいよいよ尊王攘夷の中心地・京都に。そして、ディーン・フジオカ演じる五代才助も登場します。父親からもらった金を使い果たしただけでなく、長七郎(満島真之介)に渡した文が見つかってしまい、幕府から目を付けられた栄一と喜作、これからどうなる?

吉沢亮主演、大森美香脚本の大河ドラマ「青天を衝け」第13話。
渋沢栄一とそのいとこ・喜作は血洗島を出て舞台はいよいよ尊王攘夷の中心地・京都に。

栄一たちが尊王攘夷にハマって以降、陰鬱な雰囲気が続いていた血洗島編だが、新章に突入して明るくおバカな栄一が帰ってきた!
青春の輝きと、若気の至り感全開のズッコケ道中が描かれる。

おディーン・五代さまついに登場

開始2分にして早々に心を奪われたのが、五代才助(ディーン・フジオカ)の登場。
連続テレビ小説『あさが来た』で五代ロスを巻き起こしたおディーンさまが、同じ大森美香脚本の本作で再び五代役を演じるということで放送開始前から注目を集めていたが、ついに出た!
実際に渋沢栄一と出会うのはまだまだ先のはずだが、ここでのチョイ出しは新章への期待をあおるためのサービスだろう。

五代は薩英戦争の際、イギリス軍に捕まってしまうが、なんとか脱出。しかし船奉行でありながら船を奪われ捕虜になったことから罪人扱いとなってしまい、この時期は逃亡生活を続けつつ、熊谷あたりにも潜伏していたという。
血洗島からもそう遠くないし、江戸に向かう途中の栄一たちとニアミスしててもおかしくないだろう!? という楽しい歴史のifなのだ。

無計画な二人がキャッキャしながら京都を目指す

「京でもう一度、オレたちが天下のために何ができるのか探ってみてぇんだ!」
と、デカいことを言ってふるさとを飛び出した栄一だちだったが、京へ行く計画は完全に行き当たりばったり。
そもそも、横濱焼き討ち計画のせいで八州廻り(関東八州を取り締まる警察のような組織)に追われている身。
さらに、各藩を脱藩して攘夷活動に身を投じる浪士たちへの取り締まりも厳しくなっている時期。脱藩浪士どころか、ただの農民が無事に京都までたどり着ける可能性はかなり低いだろう。

……ということで栄一たちがあてにしていたのが、自分たちを気に入ってくれ「オレのとこ来なよ」と氣志團っぽく家臣に誘ってくれた平岡円四郎(堤真一)。
家臣になるつもりはないが、「平岡の家臣」という肩書だけはゲットして京都に行きたいという、メチャクチャ都合のいい計画なのだ。

ところが江戸の屋敷を訪ねたところ、あいにく円四郎は既に京都へ旅立った後だった。
「ああ、なんてこったい。オレたちはじきにお縄になり、牢に入れられ、どんな目に遭わされるか知れねぇ……」

崩れ落ちる栄一。かわいいけど……円四郎が留守なだけで破綻する計画だったのかい!
しかし、円四郎が「平岡の家臣」と証明する書状を妻・やす(木村佳乃)に託しておいてくれたおかげでセーフ。なんと気の利く男なのか。
ラッキー! とばかりに書状をもらおうとする栄一たちを「ちょっと待ったー!」と、やすは制する。
「家臣になり、一橋に忠誠を尽くして働き、アンタたちの殿を……うちの人をちゃんと守ってくれるんだろうね!?」

さっきまで円四郎とのラブシーンを思い出してウフウフしてたやすが急に真面目なテンションになり気おされる二人。「仕官するつもりは毛頭ねぇ」喜作(高良健吾)は言葉が出なかったが、栄一は、
「はい、忠誠を尽くしますー」
ものすごい棒読みで忠誠を誓った! スノーボード・国母和宏選手の「はんせいしてまーす」会見くらい心がこもってない。
この返事に「そ~うか~い!」とアッサリ書状を渡してしまうやすもかわいいし、「適当なこと言ってるー!」という目で栄一を見る喜作の表情も絶品。
「平岡の家臣」っぽい身なりを整えて、キャッキャしながら京都へ向かう二人だった。

金はないし、ヤバイ手紙は出しちゃったし……

京都に着いても二人のドタバタは続く。
ひとまず円四郎にあいさつをしようと若州屋敷を訪れるが、「お忙しくされておる」ということで取り次いでもらえず。
「礼は……尽くしたよな?」
「尽くした。きちんとあいさつに行ったんだ」
尽くしてないと思うよ! そうは言いつつその後、何度も足を運んでいるあたりは律義だが。

京都に集う尊王攘夷の志士たちを訪ね歩いても、やってることは酒を飲んで踊るだけ。
当時、京都では尊王攘夷の志士はメチャクチャモテたようで、真剣にやっている人と、ファッション攘夷でやっている人とではかなり温度差があったようだ。
良くも悪くも尊王攘夷のために命を投げ打たんばかりに燃えていた血洗島の面々と比べると、愚痴をたれるばかりで不抜けているように見える京都の志士たち。

そうこうしているうちに、父親からもらった金も使い果たし、借金まみれに……。
気を取り直すため、
「眠る志士たちの目を覚まし、昨年かなわなかった横浜焼き討ちの悔いをはらし、さらなる大きな攘夷の夢をかなえるのだ!」
なんて熱い手紙を血洗島に送ったものの、尾高長七郎(満島真之介)がその手紙を持ったまま捕まってしまったため、さらなるピンチに陥ってしまう。
ついてない!

ドタバタながら何だかんだで明るい二人と対照的に、ダークサイドに落ちまくっていたのが血洗島に残されていた尾高長七郎だ。
横濱焼き討ち計画に没頭し、ダークサイドに落ちかけていた栄一たちを救った恩人でもあるのだが、あの時からいきなり泣き出したり、「キツネが見えるのだ」と言い出したり、ちょっと様子がおかしかった。
結果、幻覚を見て飛脚を斬り殺してしまう。

おそらく坂下門外の変に参加せず、仲間たちを見殺しにしてしまったことを悔い。なおかつ攘夷の中心地であるはずの京都で、天皇の命令で攘夷急進派の志士たちが排除されるのを目の当たりにしたことで、信じてきたものが揺らぎ、精神のバランスを崩してしまっていたのだろう。

ある意味、長七郎と栄一たちは表裏一体で、ちょっとしたタイミングの違いで、栄一たちが長七郎の立場になっていた可能性も十分にあったはずだ。

幕末のドラマなのに家康が待ち遠しい!

月代の頭が総髪になるほどの長期間(2カ月らしいけど)待たされた結果、ようやく円四郎に会うことができた二人。
「オレはよ、政や己の立場に関わりなく、おめえたちを気に入ってる。悪運が強えところも好きだ」
ホントにラッキーすぎる。
この期に及んでも「幕府を転覆せねば!」なんてことを言っている栄一たちに、円四郎は幕府を倒すために命を投げ出すことが本当に国のためになるのかどうかを説き、改めて家臣になることを勧める。面倒見がいい……。
こんなに面倒見いいのに、「会いに来い」と言われて会いに来た若者を何度も「忙しい」と追い返していたのは不可解だったが、京都に着いた直後、ただあいさつを受けていたとしたら、栄一たちとの関係はそこで終わっていたかもしれない。
二人が追い詰められ、平岡の家臣になるしかならない状態になるまで時期を待っていたのだとしたら策士だ!

おディーンさまが囲碁を指しながら「捨小就大」と言っていた。小さなものを犠牲にしても重要なものを守るという意味。
尊王攘夷の志士たちからは目の敵にされている一橋家&平岡円四郎だが、自分の信念とかはひとまず置いといて、「国のため」に栄一は進むのだ!?

ところで、今回は徳川家康の登場がなかった。番組後半は「いつ出てくるんだ!?」と気になって仕方がなかったが、出ない回もあるのね。
第2話の頃は「毎回出るのかよ、家康!」と突っ込んでいたのに、家康が出ないと物足りなくなってしまうとは……。※幕末のドラマです。

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1975年群馬生まれ。各種面白記事でインターネットのみなさんのご機嫌をうかがうライター&イラストレーター。藤子・F・不二雄先生に憧れすぎています。
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