「青天を衝け」全話レビュー

『青天を衝け』11話。生まれた子を抱きもしないで攘夷に夢中のポンコツ渋沢栄一

吉沢亮主演NHK大河ドラマ「青天を衝け」。「日本資本主義の父」とも称され、幕末から明治を駆け抜けた実業家・渋沢栄一を主人公に物語が進みます。待望の第1子が夭折し、尾高惇忠(田辺誠一)らが発案した横浜の外国人居留地の焼き討ちに心動かされてしまう栄一。家族をかえりみない栄一が心配な11話を振り返ります。

吉沢亮主演、大森美香脚本の大河ドラマ『青天を衝け』第11話。
大望を抱いているのはいいけど、夫としてはクソ感の漂っていた渋沢栄一。今回、子どもが誕生するが、クソ夫に加えてクソ父にもなってしまった。

突然生まれた子どもが唐突に死亡

大老・井伊直弼を暗殺した桜田門外の変に倣って、老中・安藤信正の暗殺計画に加わろうとしていた尾高長七郎(満島真之介)。
しかし、さすがに無謀だと栄一や兄・尾高惇忠(田辺誠一)から必死に止められ、参加を思いとどまった。
ところが、惇忠はもっと無謀な計画を企てていたのだ。

「幕府を転覆させる! 考えがある!」
さすが惇忠兄ィ、デカいこと言うねぇ……。
栄一たちがそんな計画を立てている頃、妻・千代(橋本愛)が待望の第1子・市太郎を出産したことで、渋沢家は歓喜に満ちていた。
市太郎の誕生はもちろんのこと、「これで攘夷がどうのなんて戯言は吐かなくなるだんべぇ」という思いもあるようだ。栄一が何か変なことにハマってるという認識は家族内で共有されていたのだろう。

だがその市太郎が、関東で大流行していたはしかにかかり急死してしまう。史実とはいえ、いくらなんでも唐突すぎる!
親にとっては本当につらい、これだけで1話いけそうなエピソードなのに、わりとサラッと流して、栄一は再び攘夷計画に没頭する。外国人を打ち払うことで悲しさをまぎらわそうとしている……のか!?

普通にテロリストな栄一たち

惇忠たちとともに幕府転覆に向けて立てた作戦はこんな感じだ。
まずは上州・高崎藩の城を襲撃して反乱の本拠地とする。城の武器弾薬を奪って鎌倉街道を進撃し、外国人の居留地である横濱をすべて焼き払う。外国を怒らせることで幕府を追い詰めようという計画なのだ。
……うん、普通にテロ。
「そうなった暁にはいよいよ忠臣である俺たちが天子さまをいただき、王道をもって天下を治める」
攘夷を実行でき、幕府も転覆させられる一石二鳥の計画……ではあるが、実現させるための方法が、人ごとながら心配になるほど浮ついている。
まず、簡単に「高崎城を襲撃する」と言うが、高崎藩は江戸と京都を結ぶ中山道、江戸と北陸を結ぶ三国街道が集まる交通の要所。代々有力な譜代大名が配置されている場所なのだ。
初代藩主は、関ヶ原の戦いで一番槍を上げた井伊直政(大河ドラマ『おんな城主 直虎』で菅田将暉が演じたことでもおなじみ!)であることからも、幕府から重視されていることが分かるだろう。

この高崎城をどう攻略しようとしていたのかというと、『南総里見八犬伝』のエピソードを参考にして城門を開かせ、一気に乱入するという机上の空論にも程があるもの。小説読んで城を襲撃しようって……『ドラゴン桜』を真に受けて東大受験をしちゃうくらいの無謀さだ。

横濱焼き討ちに関しても、「赤城おろしで一気に横濱を焼き尽くすべえ!」とのこと。
赤城おろしとは、いわゆる冬に吹く乾いた風・からっ風のこと。群馬県の名物で、栄一たちの住む埼玉県深谷市くらいまでは吹いてくるかもしれないが、どう考えても横濱までは届かないだろう。
惇忠なんかはこんな調子なのに、当時は知識人とされていたのだ。個人レベルでの情報収集には限界がある時代だったんだろうな……。

攘夷が可能だと本気で思われているのか!?

一方、徳川慶喜(草なぎ剛)は何だかんだで謹慎が解かれ、将軍後見職に任命される。
早速、尊王攘夷派の薩摩藩・島津久光(池田成志)や、外国嫌いの公家・三条実美(金井勇太)から「早く攘夷を!」と迫られるものの、「攘夷攘夷とおっしゃるが、攘夷が可能だと本気で思われているのか!?」と拒否。
本当は攘夷なんて無理だと分かってるけど朝廷や諸大名の手前、口が裂けてもそんなことは言えない幕府の中で、一人、ものすごく冷静なことを言っている。
だが、尊王攘夷派にとって徳川慶喜はあくまで象徴的な存在なのだ。

父は強硬に尊王攘夷を主張していた徳川斉昭(竹中直人)。母は有栖川宮家の出身の吉子(原日出子)。尊王攘夷の旗頭だった父を持ち、皇室の血も入っているという超サラブレッド。その上、幼少の頃から聡明と知られているとなれば、尊王攘夷派の連中も「この人をかつげば何とかなる!」と思ってしまうというもの。

しかし当の慶喜は、その聡明さ故に「攘夷なんて無理」と見抜いているのだ。
幼少期から本を乱読し、聡明であるが故に身分差別の不条理に気付いてしまい尊王攘夷にハマってしまった栄一とは対照的だ。

みんなを幸せにする前に、家族を幸せにして!

テロ計画を練りつつ、しっかり子作りもしていたようで、栄一の第2子・うたが誕生する。1話でふたりも子どもが生まれるとは展開が早い!
市太郎を亡くした悲しみが癒やされ、栄一も目を覚ますかと思いきや、生まれたばかりのうたを抱きもしないで「俺をこの中の家から勘当してください」なんて言い出した。
横濱焼き討ち計画を実行することで家に迷惑をかけてはいけないという配慮のようだが……気を遣うところはそこじゃないよ!
「オレ一人満足でも、この家の商いがうまくいっても、この世の中みんなが幸せでなかったら俺はうれしいとは思えねぇ」
幼少の頃からたびたび言っていた「みんなが嬉しいんが一番」がここで出てきた。みんなの幸せを願ういい言葉だと思っていたけど、このタイミングで聞かされると「妻子だって〝みんな〟だろ!」と言いたくなる。

なかなか子どもができなかったことで親戚から子作りプレッシャーをかけられ、やっと誕生した長男は夭逝してしまい、何とか立ち直って長女を産んだのに、夫のこのバカ発言。それでも「私からもお願い致します」なんて言っちゃう千代よ……。幸せになって!
親父(小林薫)も「栄一、お前はお前の道を行け」じゃないだろう。止めようよ!

栄一が考えなしのポンコツにしか見えない

ここまで、慶喜周辺のエピソードは比較的丁寧に描かれているのに対し、栄一側はかなり駆け足になっている感がある。
渋沢栄一が活躍するのは明治維新後なので仕方ないところではあるが、草なぎ剛演じる徳川慶喜が放つ知的な圧倒的存在感と比べると、吉沢亮の栄一はどうしても考えなしのポンコツに見えてしまう。
橋本愛が記者会見で激推しシーンとして挙げていた、栄一と千代の初夜もなぜかカットされており、イケメン萌え要素もイマイチ活かされていないまま。

今回の市太郎急死エピソードや、うたを抱きもしないで家を飛び出そうとするくだりなど、もうちょっと細かく描いてくれても……と思うようなシーンも多く、脚本段階では書かれていたのに放送されていないエピソードがあるのでは!? と勘ぐってしまう。

次回、キーパーソン・平岡円四郎(堤真一)と出会い、栄一が慶喜に仕える道筋がつけられる(ハズ!)。
尊王攘夷脳になってしまった栄一の目を覚ますことができるのは慶喜だけ。早く出会ってくれ!(立ちションのとき会ってはいるけど)

1975年群馬生まれ。各種面白記事でインターネットのみなさんのご機嫌をうかがうライター&イラストレーター。藤子・F・不二雄先生に憧れすぎています。
ドラマレビュー