「青天を衝け」全話レビュー

『青天を衝け』17話。悪代官に倍返し!この気持ちを円四郎に伝えられないのがつらい

吉沢亮主演NHK大河ドラマ「青天を衝け」。「日本資本主義の父」とも称され、幕末から明治を駆け抜けた実業家・渋沢栄一を主人公に物語が進みます。円四郎(堤真一)の命が奪われたことを知り、衝撃を受ける篤太夫(吉沢亮)と成一郎(高良健吾)。集めた兵を引き連れ、慶喜(草なぎ剛)が長州藩兵と戦っている京へと向かうが……。

吉沢亮主演、大森美香脚本の大河ドラマ「青天を衝け」第17話。
愛されキャラ・平岡円四郎(堤真一)の壮絶な死で、関係者たちにじんわりと悲しみが広がっていく。

生きる気マンマンの手紙に涙

円四郎に命じられ、兵集めのため関東にいる渋沢栄一改め篤太夫(吉沢亮)といとこの喜作改め成一郎(高良健吾)は、その円四郎が既に死んでいることをまだ知らない。

「(兵集めがうまくいっていることを)はやく平岡さまに知らせてえのう~」
というのんきなセリフが切ないのだ。

篤太夫たちよりは少し早く円四郎の死を報された妻・やす(木村佳乃)。当初はかなり取り乱していたが、数日後には気を取り直し、実家に戻る準備を進めていた。
そこで、篤太夫から伝えられた「おかしろくもねぇときは、掛け軸の小鳥にでも話しかけろ」という円四郎の言葉を思い出す。何らかの伏線なんだろうとは思っていたが、案の定、掛け軸の裏には手紙が隠されていた。
ただ、自分の死期が迫っていることを悟って残した「この手紙を読む頃、オレは死んでいるだろう」パターンではない。書かれていたのは自分が死ぬなんてこれっぽっちも思っていなそうな超前向きな言葉だ。
「これほどお仕えしてえと思ったお方にお仕えできるオレは幸せ者だ。殿との出会いでオレの生きざまはまるでもやが晴れたみたいに変わっちまった」

単身赴任で残される妻へ宛てた手紙としてはどうかと思うほど「慶喜にベタぼれ」な言葉が並ぶ。
ラブラブな慶喜が作ってくれるであろう「新しい日本」にメチャクチャ期待しつつ「おめえ(やす)とその新しい日の本を見る日が楽しみでならねぇんだ」とつづられていた。

もう未来しか見ていない。
もしものときのために残した遺言なんかではなく、ホントに自分がいなくてヒマにしているであろう妻を気遣ってのサプライズメッセージだったのだ。こんな手紙を仕込んだまま死んでしまうとは。
円四郎のナレーションが、いつも通りの軽い口調なのがまたグッとくる。訃報を知って、メチャクチャ取り乱しつつもほとんど涙は流していなかったやすも、これにはボロ泣き。

「めっぽうおかしれぇに違えねぇ。……うん」
生きて帰ってくる前提で残された手紙ではあるものの、幻(?)の円四郎がつぶやいた最後の「うん」だけは、ひとりになってしまったやすを慰める気持ちが込められていた。

因縁の悪代官に「倍返し!」

だいぶ遅れて円四郎の死を知った篤太夫と成一郎も、その場では驚くばかりで涙を流していなかった。
悲しみよりも、自分たちが信奉していた尊王攘夷の総本山・水戸の藩士によって円四郎が殺されたことにショックを受けているように見えた。「尊王攘夷って、もはやオレたちの敵なの!?」という感じだ。

感情があふれ出したのは、円四郎のおかげで自分たちは武士&一橋家の家臣になれたのだと実感したタイミングだった。
円四郎に命じられた兵集めを終え、京都に向けて出発。故郷に近い岡部藩の領内を抜けようとすると、篤太夫が子ども時代からたびたび「承服できん!」目に遭わされてきた悪人顔の代官が登場する。

「もとは当領分の百姓がおりまする。その者ども、渋沢と申します。疑うこと多きゆえ、何とぞ一度お戻しいただけませぬか」
ニヤニヤ面から「“百姓”の好き勝手にはさせないぞ」というイヤーな性格がにじみ出ている。
篤太夫たちも「お代官に目を付けられたら仕方ねえ」と覚悟を決めたような表情を見せていたが、面倒見のいい家臣・猪飼勝三郎(遠山俊也)がこの要求を突っぱねる。

「今となってはかけがえのなき家中の者。一橋家としては到底、承服しかねることゆえ、お断りいたす!」
代官としては当然、百姓くらい簡単に受け渡してもらえると思っていたはず。自分たちがゴミ扱いしていた百姓が、御三卿の一橋家でこんなに大事に扱われているとは。

「ははっ、しからば……しからば、どうぞご通行ください。道中、どうかご無事で」
まさに「倍返し」気持ちイイ! 『半沢直樹』的な逆転劇だったため、代官に土下座でもさせてほしかったところだが、頭を下げて篤太夫たちを見送る代官の姿で十分スッキリさせてもらった。

「この気持ちを平岡さまにお伝えしたかった!」
篤太夫は因縁の代官に「倍返し」できたことではなく、その気持ちを円四郎に伝えられなくなってしまったことに涙を流す。
うまいこと兵を集められたことや、代官を見返すことができたことを報告したら、きっとニカッと笑って「よくやったなぁ」とか「よかったじゃねぇか」とか言って、一緒になって喜んでくれたはず。

悲しい報せを受けたときではなく、うれしい気持ちを伝えたいと思ったときに涙が出てくる。そういう、喜ばせがいのある愛されキャラを失ってしまったのだ。

尊王攘夷との決別

徳川慶喜(草なぎ剛)にとっても、唯一心を開いていた家臣である円四郎の死はダメージが大きい。
マゲも結えない不器用だった頃の円四郎を思い出して暗い顔をしていたが、この頃の慶喜は悲しんでばかりもいられないくらい大変な時期なのだ。
幕府も諸藩も、朝廷すらも「攘夷は無理だよね~」という方向に傾く中、強硬に攘夷を主張する長州藩が兵を挙げて京都に迫ってきた。

さらに、慶喜の地元である水戸藩の尊王攘夷派も天狗党を名乗って挙兵。
尊王攘夷のカリスマ・斉昭の子として、尊王攘夷派にとっては憧れの存在であるはずの慶喜が、その尊王攘夷派に迷惑をかけられっぱなしなのだ。

円四郎が水戸藩士に殺されたことについて慶喜は、「私の身代わりとなったのだ」と語っている。
攘夷は無理だと分かっていながらも、尊王攘夷に対して中途半端な態度を取ってきた自分に対する怒りが、円四郎に向かってしまったと考えているのではないだろうか。

天狗党に懇願されて首領となった武田耕雲斎(津田寛治)は、慶喜の気持ちをよく理解しているひとりだった。

「京にはその(斉昭の)お心を一番よく知る一橋様がいらっしゃる。決して我らのことを見殺しにはいたすまい」
とは言っていたが、覚悟を決めたような顔からは「一橋さまが助けてくれるはず~」という気持ちは感じられなかった。
尊王攘夷派の存在が慶喜の邪魔になってはいけないと、自分たちが慶喜に討たれることで最期のご奉公をしようと考えているのではないだろうか。

「私の手で、天狗党を討伐する」
慶喜、そして篤太夫たちも尊王攘夷との決別を迫られる。

『青天を衝け』全話レビュー第1話はこちら

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1975年群馬生まれ。各種面白記事でインターネットのみなさんのご機嫌をうかがうライター&イラストレーター。藤子・F・不二雄先生に憧れすぎています。
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