『コントが始まる』最終回でものすごい奇跡が… 春斗(菅田将暉)の「パーフェクトジャッジ」された人生

『コントが始まる』10話。春斗(菅田将暉)、瞬太(神木隆之介)、潤平(仲野太賀)からなる、お笑いトリオ「マクベス」もとうとう解散ライブを迎えます。特に事件も起きず、たんたんと進行し、あっさりとした最終話。最後の最後で、意外な伏線回収が……。

『コントが始まる』が終わってしまった。

視聴率はそこまで高かったわけではないが、観ている人には深く刺さるドラマだった。春斗(菅田将暉)が言うところの「100人に観てもらえたらそりゃあ嬉しいですけど、1人の人が100回観てくれることも、もしかしたらそれ以上にありがたい」というドラマだ。

ラストの春斗の就職先には、ものすごい偶然が隠されていた。

エピローグのような最終回

物語としては、9話の時点で決着がついていた。最終回の内容は、視聴者の予想通りどころか、公式の予告通りと言ってもいい。これまでに関わった人たちが解散ライブに集合、ドラマで演じた順番にコントを披露し、特に事件が起きることもなく、たんたんと進行してあっさりと終わった。

ライブ後の打ち上げも同じだ。驚きといえば、ファミレスで里穂子(有村架純)の転職のきっかけとなってた女性2人組が偶然店を訪れたくらい。それだってお互いにお礼を言っただけで、そこから新たな展開なんて生まれない。誰かの感情が爆発して解散を撤回したり、テレビプロデューサーがたまたま観に来て、新番組に抜擢する。そんなことが起きる気配もない。こんなに平坦なドラマの最終回なんて久しく観ていない。

まるでエピローグのような最終回。だが、それがちょうどいい。これまでにマクベスが残した物の大切さと儚さを、マクベスが視聴者と一緒にじっくりと振り返る。そして、やってくる新たな生活を一緒にゆっくり受け入れる。そんな最終回だった。

マクベス解散のタイミング

打ち上げ後のラーメン屋で、瞬太が「マクベスってさ、いつ解散?」と2人に問いかけた。ライブ終了後なのか、打ち上げ後なのか、それとも家に帰った時なのか。潤平(仲野太賀)は「ラーメンを食べ終えた後」としていたが、解散を決めた日こそ、マクベスが解散した日だったように思う。

解散決定以降、マクベスの3人はお笑い芸人としての成長と夢を見ることを辞めた。それぞれ次の生活のために頭を使い始め、潤平は実家の酒屋を継ぐ修行を開始している。潤平が解散ライブについて「終わるってわかってると、ライブも面白いな」と言っていたが、それは安堵からくる余裕だろう。

これまでの潤平は、どれだけウケようともスベろうとも「売れていない自分たち」という意識が頭にあるため、楽しむ余裕なんてなかったのだ。それは3人がお笑い芸人だったからだ。それでも予定されていたライブを行ったのは、事務所の人間やファンのため、自分ではなく相方たちのためだ。

とっくにお笑いトリオとして解散していたマクベスだったが、「3人組」としての解散は、ジャンケンが終わった瞬間だったように思う。

「パーフェクトジャッジ」だった春斗の人生

引っ越しの荷造りをする3人は、冷蔵庫を誰が持っていくかで揉める。春斗はジャンケンゴッド、瞬太はジャンケン戦隊グーチョキパー、潤平は香港から来たカンフーの達人、いつものように自分で作り上げたキャラクターになりきり、冷蔵庫争奪戦に挑んだ。

しかし、何度やってもあいこが続いてしまう。あり得ないほど続くあいこは、3人の「終わらないで欲しい」という願いの結果だ。春斗がパーで勝利した時、お笑いではない空気が流れる。瞬太と潤平は、いつもの勝ち名乗りをあげない春斗を「早くやれよ」と煽るが、寂しげな表情は隠しきれない。

「ブシュー!バンバンバーン!これが神の裁きだ。パーフェクトジャッジ!」

声を振り絞った春斗は、その場で泣き崩れてしまう。この後、瞬太と潤平は部屋を出て行き、春斗は、勝ち取った冷蔵庫と風呂無しのアパートに引っ越すことになる。全力でふざけ続けた3人の青春は、ジャンケンの勝負がついたあの瞬間に終わったのだ。

酒屋を継ぐ潤平、旅に出る瞬太、転職が決まった里穂子、芸能マネージャーとなったつむぎ(古川琴音)。注目された春斗の就職先は、単独ライブで最初に披露したコント「水のトラブル」に登場したような水道修理業者だった。

意外なところからの伏線回収、それを聞いて爆笑する潤平、春斗はどこまでもコント人生を送り続ける。しかし、この転職先は、ただの偶然ではなく、運命だった。

春斗が手に入れた冷蔵庫をよく見てみると、そこには春斗の就職先である「水のトラブルGOGOGO」のステッカーが貼ってあることがわかる。つまり、春人はジャンケンで勝ち取ったことで、就職先である修理業者の存在を認識することができたのだ。

まさにパーフェクトジャッジ。春斗の運命は、ジャンケンゴッドによって定められていたのだ。もし、あの時カンフーの達人やジャンケン戦隊が勝っていたら、春斗は水道修理業者に就職していなかっただろう。なんという運命。こうなってくると、あの「バンバンバーン!」もステッカーを貼っている仕草に見えてしまう。

コントだけではなく、じゃんけんの伏線を回収したラスト。しかし、調べてみると、じゃんけんのキャラクターは役者それぞれのオリジナルであり、脚本の段階では「各自演舞」としか書かれていなかったという。つまり、ジャンケンゴッドもパーフェクトジャッジという勝ち名乗りも菅田将暉によるもので、脚本の範疇ではなかったのだ。

緻密な伏線回収が醍醐味となった「コントが始まる」。そんなドラマでこんな偶然がラストに華を添えるとは、やっぱりコントって、人生ってすごい。

 

企画、動画制作、ブサヘア、ライターなど活動はいろいろ。 趣味はいろいろあるけれど、子育てが一番面白い。
フリーイラストレーター。ドラマ・バラエティなどテレビ番組のイラストレビューの他、和文化に関する記事制作・編集も行う。趣味はお笑いライブに行くこと(年間100本ほど)。金沢市出身、東京在住。
ドラマレビュー