「青天を衝け」全話レビュー

『青天を衝け』18話。日本資本主義の父・渋沢栄一(吉沢亮)覚醒!銭勘定で日本を変える

吉沢亮主演NHK大河ドラマ「青天を衝け」。「日本資本主義の父」とも称され、幕末から明治を駆け抜けた実業家・渋沢栄一を主人公に物語が進みます。天狗党討伐のため慶喜(草なぎ剛)とともに京をたつ篤太夫(吉沢亮)。ここから、いよいよ渋沢栄一の才能が開花していきます。

吉沢亮主演、大森美香脚本の大河ドラマ「青天を衝け」第18話。
渋沢栄一改め篤太夫(吉沢亮)がいよいよ「日本資本主義の父」としての才能を開花させる。

誇り高きはずの水戸が……

「尊王攘夷」を掲げて挙兵した天狗党は、徳川斉昭の息子・慶喜(草なぎ剛)を頼って京都を目指していた。
しかし慶喜は禁裏御守衛総督という立場上、天狗党があくまで京都に入ろうとすれば討伐しなければならない。

ということで渋沢成一郎(高良健吾)は「上洛をあきらめよ」という密書を託され、敦賀の天狗党陣営に向かうことに。
そこで見た天狗党は、慶喜が討伐に乗り出すまでもなく、軍資金も食料も尽きて「あの誇り高きはずの水戸の兵が飢えて痩せ細り、寒さにガタガタと震えておった」というほどの壊滅状態となっていた。

降伏を勧める密書を読んだ藤田小四郎(藤原季節)は、
「烈公のご子息でありながら、国を思う我らを切り捨て身の安泰を図るとはなんという日和見の小者!」
とキレ散らかす。対して武田耕雲斎(津田寛治)は、
「違う! 分からぬのか、我らがこれほどまでに一橋さまを追い詰めてしまったことを!」
斉昭、慶喜の心をキッチリ理解して覚悟を決めている忠臣・耕雲斎と比べ、自分の思い通りにいかないと慶喜すらディスってしまう小四郎……お前が小者だよ!

そもそも初登場時には、酒を飲む金を栄一たちにたかっていたような人なので仕方ないけど……。あの時、栄一たちにたきつけられ、ヘタに尊王攘夷に目覚めてしまったせいで、こんなことになったのだとしたら若干気の毒ではある。

経済に疎い武士たち

今回はいよいよ、日本資本主義の父・渋沢栄一のドラマらしく「お金の大切さ」が描かれた。

高い志を持って挙兵したにも関わらず、金がないせいで何の爪痕も残せないまま幕府に降伏するしかなくなってしまった天狗党。
天狗党征討総督・田沼意尊(田中美央)が「(降伏した天狗党たちに)公平な処置をいたします」という慶喜との約束を反故にし、武田耕雲斎をはじめ352人の首を斬ったのも、一橋家が兵も資金も持っていないため侮られたからだ。

かくいう幕府も、幕末の頃にはかなりの資金難に陥っている。
さらにいうと、田沼意尊が治める小久保藩では、天狗党鎮圧のための軍資金調達に窮した家老が責任を取って切腹したりもしているのだ(このせいで天狗党に恨みを募らせていたという説もある)。

討つ方も討たれる方も、みんなお金がない!
平岡円四郎が「侍は米も金も生むことができねぇ」と言っていたように、武士の収入は基本的に農民から取り立てる年貢頼み。自分たちで産業を興して金を儲けようという発想がないのだ。

幕府に関しては、直轄領からの年貢に加え、佐渡の金山を経営していたおかげで潤っていたものの、金が枯渇して以降はカツカツだったようだ。
諸藩の大名たちも、参勤交代が課せられていたせいで資金繰りはカッツカツ。潤っているのは街道沿いの商人ばかり。
身分制度上は武士がエライということにはなっていたものの、多くの武士は商人より貧乏という状態だったのだ。

そこで、財政や経済の重要性に気付いた人材が世に出てくる。

篤太夫の才能開花

薩摩藩からイギリスに派遣され、のちに大阪経済界の重鎮となる五代才助(ディーン・フジオカ)。
幕臣の小栗忠順(武田真治)は、造船所や製鉄所を作り、フランスとのコンパニー設立も計画している。

今回、小栗が意味ありげに持っていたネジは、アメリカの工場を見学した際、日本との製鉄・金属加工技術の差に圧倒され、近代化の必要性を強く感じるきっかけとなった象徴的なものだ。

そして一橋家では渋沢篤太夫が「懐具合」をととのえる必要性を訴えていた。

一橋領内を回り、時には悪代官を脅し上げて200人以上もの仕官志願者を集めた手腕も見事だったが、それ以上に、金のニオイをかぎつける商人能力がバーンと開花していた(まあ元は農民なんだけど)。

摂津や播磨の米、播磨の木綿、そして備中の硝石。
他の家臣たちは、領内にこんなお宝があることに気付いていなかった……というか、基本的に「銭金のことでウダウダ言うのは武士じゃない!」的な考えがあったのだろう。

円四郎は成一郎について「もうすっかり武士じゃねえか」と語っていたが、篤太夫には「おめえはおめえのまま生き抜け」と言っていた。
篤太夫の武士らしくない銭勘定の才能が、一橋家の役に立つ時が来ると見抜いていたのだろう。

金銭面でキレキレな顔を見せる一方、天然っぽさもまだ健在だ。
「某は今の今まで烈公を我が父にも負けぬ とんでもねぇ石頭の風神雷神のようなお方かと思っておりました!」

これには能面フェイスの慶喜も爆笑。ここまでの笑顔を見せたのは、円四郎の無作法っぷりにニコッとしたとき以来じゃないだろうか。
銭勘定と面白コメントの才能を開花させた篤太夫が、円四郎に代わって慶喜と一橋家を支えるときが来た!

『青天を衝け』全話レビュー第1話はこちら

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1975年群馬生まれ。各種面白記事でインターネットのみなさんのご機嫌をうかがうライター&イラストレーター。藤子・F・不二雄先生に憧れすぎています。
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