「青天を衝け」全話レビュー

『青天を衝け』19話「信用」で経済を回す。渋沢栄一が勘定組頭に大出世

吉沢亮主演NHK大河ドラマ「青天を衝け」。「日本資本主義の父」とも称され、幕末から明治を駆け抜けた実業家・渋沢栄一を主人公に物語が進みます。一橋家の勘定組頭に大抜てきされた渋沢栄一改め篤太夫(吉沢亮)。いよいよ篤太夫が武力ではなく経済の力で世の中を変えていきます。

吉沢亮主演、大森美香脚本の大河ドラマ「青天を衝け」第19話。
薩長同盟が成立し、激動の幕末感が増していく。そんな中、渋沢栄一改め篤太夫(吉沢亮)は一橋家の勘定組頭に抜てきされ、武力ではなく経済の力で世の中を変えていく。

新しい世の中では経済の知識が必須!

明治維新とは、要は旧体制の幕府と、それに取って代わろうとする薩摩藩や長州藩による主導権争いなのだが、同時に武家社会を終わらせる革命でもあった。
そこで重要になってくるのが徳川家康(北大路欣也)が語った、
「新たな世は、経済の知識なしには乗り切れなかった」
という言葉だ。

この頃、長らく「金は卑しいもの」という認識を持っていた武家社会の中からも、経済の重要性に気づく人材が出はじめている。
一橋家では渋沢篤太夫。幕府では勘定奉行の小栗忠順(武田真治)。薩摩藩では五代才助(ディーン・フジオカ)。

小栗、五代は使節団としてそれぞれアメリカ、イギリスに渡ったことで近代経済に目覚めたわけだが、篤太夫は故郷・血洗島で培った商売センスのみでこの流れについていっているのがスゴイ。
質のいい年貢米を入札制で販売することによって大きな利益を得、領内の土から火薬を製造。播磨の木綿をブランディングすることで、従来よりも高値で売れるようにした。

この辺は、篤太夫がもともと武士の出ではなく、農民(といっても藍玉を扱う商人に近い)出身ということが大きいのだろう。血洗島時代にも、阿波の藍にも負けない質を持つ武州の藍をどうにかブランディングできないか知恵を絞っていた。

仁をもって得た利でなくては意味を成さねえ

経済の力で国を強くしていこうという「富国強兵」の考え方は三者同じなのだろうが、篤太夫が一歩先んじているのは「生産者である農民たちももうけさせる」という発想だ。
小栗、五代は外国とコンパニーを設立することで「幕府や藩を豊かにする」ところで考えが止まっている。
一方、篤太夫は、一橋家のもうけを抑え、農民たちに還元することでモチベーションを上げ、長期的に大きな利益を上げようという考え方。

「仁をもって得た利でなくては意味を成さねえ。上に立つ者だけがもうけるなら御用金を取り立てりゃ早ぇ話です。しかしそれじゃあどん詰まりだ!」
まさに渋沢栄一の著書『論語と算盤』で提唱された「道徳経済合一説」(利益を独占せず社会に広く還元するという考え)だ。

今回、篤太夫が取り組んでいた「銀札」は、既に諸藩でも作られてはいたが、うまく活用できていたのはごく一部だったという。
従来、金や銀で取引していたのに、いきなり紙切れがお金の代わりだと言われても、なかなか信用してもらえなかったからだ。

そこで、篤太夫は「銀札引換所」を作り、偽札対策も講じることで、「確実に額面通りの銀と交換できる」という信頼を得て、銀札を活かすことに成功した。
「経済活動には信用が何より大事」なこともバッチリ理解していたのだ。

篤太夫と成一郎の対比

とはいえ、篤太夫たちのように経済を重視している人はまだまだ少数派。
薩摩に帰国した五代が、金山銀山を開発して経済を潤す重要性を説いたものの、大久保一蔵(石丸幹二)から「うんにゃ。そいよりまず、おはんの親しいグラバー(商会から武器を仕入れたい)」と突っぱねられている。

尊王攘夷が衰退した結果、幕府も薩摩も長州も、海外との交易はやむなしという方向に落ち着いてはいるが、武士たちは「強い武器買って強くなるぞ~!」くらいの考えなのだろう(大久保は後の大蔵大臣なのに!)。

象徴的なのが篤太夫と成一郎(高良健吾)の対比だ。
「一橋家を守る」目的は同じだが、軍制所調役組頭に任命された成一郎は「オレは命を賭けて殿のために戦う」。対する篤太夫は勘定組頭になり「死んじまったら何にもならねぇ」と語っていた。
ずっと武士になることを目指してきた成一郎と、「国をよくするため」結果的に武士になった篤太夫との違いだろう。

しかし「武士道というは死ぬことと見つけたり」的な思想で突っ走る成一郎も、結局、武士道もクソもない農民からかき集めてきた兵を鍛えている。
長州征討を進めようとしていた幕府も、身分に関係なく取り立てられた農兵に苦しめられるのだ。

その大きな要因がミニエー銃。従来のゲベール銃の有効射程距離が100ヤード程度しかなかったのに対し、ミニエー銃は300ヤードも飛ぶ。武士道を極め、修行に励んできた武士たちよりも、昨日今日、銃を持ったような農民の方が強いのだ。

ちなみに「最新式の銃」とはいうが、ヨーロッパでは前から弾を装填するミニエー銃はとっくに旧式となっており、後装式で数倍のペースで連射できるライフル銃が主流となっている。
ヨーロッパで不要になった旧式のミニエー銃を、日本で高く売りつけていたということ。
強力な軍備を整えるのにも商売のセンスが必要なのだ。

将軍フラグで篤太夫と慶喜の関係性は……

篤太夫の主君である徳川慶喜(草なぎ剛)は「武士道で突っ走る時代でもないだろ」とうすうす感じているように思えるが、立場上、おおっぴらに表明するわけにもいかず、兵庫開港を巡っての幕府と朝廷のゴタゴタなど、いろいろとややこしいことに巻き込まれている。
実利よりメンツを重んじる武士たちの中で、「武士道より経済!」な篤太夫の存在には癒やされるのだろう。銀札のメリットを熱く語る篤太夫に、
「途中からお主の顔に見入り聞いていなかった」
と胸キュン発言をしていた。早くもすごく萌える主従関係を築いている。

篤太夫は、ダメダメな幕府に代わって慶喜に日本を治めてほしいと考えているようだが、そんな慶喜が、武士の総大将&幕府の頭である将軍になってしまうフラグがビンビンに立ちまくっている。二人の関係はどう変わっていくのか!?

『青天を衝け』全話レビュー第1話はこちら

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1975年群馬生まれ。各種面白記事でインターネットのみなさんのご機嫌をうかがうライター&イラストレーター。藤子・F・不二雄先生に憧れすぎています。
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