「青天を衝け」全話レビュー

『青天を衝け』20話。新撰組・土方歳三と渋沢栄一「日本を守りたい」が方法の違うふたり

吉沢亮主演NHK大河ドラマ「青天を衝け」。「日本資本主義の父」とも称され、幕末から明治を駆け抜けた実業家・渋沢栄一を主人公に物語が進みます。14代将軍・家茂(磯村勇斗)亡き後、慶喜(草なぎ剛)が徳川宗家を継いだことで幕臣となってしまった篤太夫(吉沢亮)。失意のなか、謀反人の捕縛を命じられた篤太夫の警護として、新選組副長・土方歳三(町田啓太)が同行することに。

吉沢亮主演、大森美香脚本の大河ドラマ「青天を衝け」第20話。
将軍・徳川家茂(磯村勇斗)が急死したことで幕府に再びお世継ぎ問題が勃発。
しかし前回までのお世継ぎ問題とは違って、将軍の座争奪戦ではなく、貧乏くじ押し付け合いの様相を呈している。

「言いたいことはそれだけか?」再び

家茂は天璋院(上白石萌音)に「私に万が一のことがあらば、田安の亀之助殿を跡目に定めていただきたいのです」と言い残していた。
しかし、家茂が将軍として悩み苦しむ姿を間近で見続けてきた和宮(深川麻衣)は、慶喜(草なぎ剛)をお世継ぎにすればいいと主張する。

「次は慶喜が苦しめばよいのです」
もはや将軍就任は罰ゲーム扱い。幕府の権威が落ちまくりなのが分かる。
渋沢栄一改め篤太夫(吉沢亮)も、幕府は誰が継いでもどうにもならないところまで来ていることに気付いているのだろう。

「将軍家をお継ぎになってはなりませぬ!」
と慶喜に直訴していた。
篤太夫はそもそも幕府が倒れた後、慶喜が新しい世を作り日本を治めればいいと考えていた。その慶喜がボロボロ状態になっている幕府の将軍になる。「慶喜が日本を治める」のは同じでも、意味合いはまったくの別物だ。

「言いたいことはそれだけか?」
「今となってはもう、それひとつ。それのみにてございまする!」

このやり取りは、篤太夫が一橋家に仕官するため、馬を追いかけていった際にもされている。
あのときは、「言いたいことはそれだけか?」と問われた篤太夫は「否! まだ山ほどございまする!」と答えていた。
「まだ山ほど」あった言いたいことが「それひとつ」に。将軍になってほしくない篤太夫の必死な気持ちが伝わってくる。

「徳川の世はもはや滅亡するよりないのかもしれぬ」
慶喜の方も、それは重々分かっているという表情ではあったが、このとき家茂が後継指名した亀之助はまだ4歳。この国難を幼い将軍では乗り切ることはできない。

「相続は先の上様のご遺命でございまする!」
ギリギリのうそで説得する幕臣たちに押し切られる形で、慶喜は徳川宗家を継ぐことになる。

土方×渋沢のイケメンタッグ結成

今回のハイライトは、幕臣となった篤太夫と新撰組・土方歳三(町田啓太)がタッグを組んでの捕物。
謀反の疑いのある大沢源次郎という男を捕らえ、取り調べをするよう命を受けた篤太夫。この大沢、かなりの荒くれ者のようで、新撰組が護衛として同行することになったのだ。
土方は、まず新撰組が踏み込んで引っ捕らえるから、篤太夫はその上で取り調べをすればいいと提案する。しかし篤太夫は、
「まだ罪がわるかどうかも分からぬ者を有無を言わさず縛り上げるは道理に外れておる」
「立派なお説ではあるが、向こうが剣を振り上げてきたら何とされる」
「なんの、それならばこの渋沢にも腕はある!」
これまでの篤太夫らしくない武闘派な発言に違和感がある。

あれだけ忌み嫌っていた幕臣になってしまったこと、慕っている慶喜に簡単に会うこともできなくなってしまったことから、自暴自棄になっていたのかもしれない。

渋沢栄一の孫・市河晴子の記した『市河晴子筆記』によると、「大沢に謀反の企てがあるかどうかを確かめるのが自分の使命なのだから、自分が斬り殺されれば謀反の企てがあることは確実。お役は果たせる」なんてヤケクソなことを言っていたようだ。

今回のエピソードは渋沢栄一の自伝(複数)のほか、子どもや孫が記した伝記などにたびたび登場しており、栄一の勇ましさを語るお気に入りのエピソードらしい。しかし、自伝『雨夜譚』では同行したのが土方歳三ではなく近藤勇になっていたりと、資料によってちょいちょい詳細が異なっている。

息子・秀雄には「土方歳三は友達だ!」なんて言っていたというが、おそらく実際に会ったのはこのときだけ。子どもや孫に語るときに、エピソードを格好良く盛っているんじゃないか……と勘ぐってしまう。
『青天を衝け』では、勇ましいことを言っておきながら結局、土方に思いっきり助けられているという、ちょっと情けないエピソードになっていた。

ちなみに、篤太夫と新撰組の絡みとしては、
京都に滞在中の篤太夫が新撰組隊士の愛人を寝取ったことで、新撰組数人に襲撃されたというクズ男エピソードも残っているが、ドラマでは採用されなかったようだ(そりゃそうだ)。
話を盛ってた、盛ってなかったはともかくとして、とにかく土方歳三が格好いいエピソードだった。

篤太夫、パリへ行く!?

命を助けられた照れくささからか、ぶっちゃけた自分語りをはじめる篤太夫。同じ武州の百姓出身ということで少しだけ土方と打ち解けたのもいいシーンだった。
予定外に幕臣となってしまったことにふてくされ、故郷を懐かしむ篤太夫に対し、故郷のことをすっかり忘れたと語る土方。
「日本を守りたい」という気持ちは同じだが、方法がまったく違うふたりが、この一瞬、すれ違ったのだ。

この後、土方は渋沢成一郎(高良健吾)にも遭遇している。ふたりの行く末を考えると二ヤッとしてしまう演出だった。
土方に「明日には(幕臣を)もう辞めておるやもしれぬ」なんて愚痴を吐いていた篤太夫の運命を変える出来事も近づいている。

日本が初めて参加した万国博覧会であるパリ博覧会への随行。これが成一郎や土方、ほかの志士たちと、渋沢栄一の運命を大きく分けることになるのだ。

『青天を衝け』全話レビュー第1話はこちら

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1975年群馬生まれ。各種面白記事でインターネットのみなさんのご機嫌をうかがうライター&イラストレーター。藤子・F・不二雄先生に憧れすぎています。
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