「青天を衝け」全話レビュー

『青天を衝け』21話。将軍の重荷に苦しむ慶喜。突然はじまる渋沢栄一とのコール&レスポンス

吉沢亮主演NHK大河ドラマ「青天を衝け」。「日本資本主義の父」とも称され、幕末から明治を駆け抜けた実業家・渋沢栄一を主人公に物語が進みます。慶喜(草なぎ剛)の弟・昭武(板垣李光人)の随行でフランスへ行くことを快諾した篤太夫(吉沢亮)。このフランス行きに秘められた重要な目的とは。

吉沢亮主演、大森美香脚本の大河ドラマ「青天を衝け」第21話。
幕臣となった渋沢栄一改め篤太夫(吉沢亮)が、パリの博覧会へ派遣されることになる。
いよいよ新時代の幕開けを感じるが、その一方、取り残される旧世代の姿も描かれた。

外国嫌いの孝明天皇、崩御す

作中ではサラッと触れられた程度だったものの、大きなターニングポイントであり、旧時代の終わりを象徴していたのが孝明天皇(尾上右近)の崩御だ。
具体的には語られていなかったが、孝明天皇の死因は天然痘とされている。そのため、見舞いに来た息子・睦仁親王(犬飼直紀)に感染しないか心配していたのだ。

「ご案じなされませんように。私はすでに種痘を受けております」
「そうか、種痘か……」
当時の日本でもすでに天然痘ワクチン、いわゆる種痘はそれなりに普及していた。しかし長らく攘夷を主張していたように、外国嫌いであった孝明天皇は、西洋からやってきた天然痘ワクチンを受けることを拒否していたのだ。

睦仁親王をはじめ周りの公家たちは孝明天皇に気を遣って、コッソリと種痘を受けていたようで、朝廷内での感染は広がらなかった。
旧時代の考え方に固執し、外国の文明を拒否して命を落とした孝明天皇。一方、文明開化の世を作る睦仁親王(後の明治天皇)は天然痘ワクチンを受けていたため無事だった。
昨今のワクチン・デマ騒動ともリンクしてしまう。

そして、徳川慶喜(草なぎ剛)が将軍となった直後に後ろ盾だった孝明天皇が崩御し、反幕府寄り勢力と近い睦仁親王が天皇となることで、慶喜と幕府の運命も大きく変わっていく。

徳川慶喜の重荷

チョンマゲ+西洋軍服というエキセントリックな格好で登場した将軍・慶喜(草なぎ剛)からも、旧時代~新時代への転換点を感じた。
慶喜は自分を旧時代の存在であると位置づけて、弟の徳川昭武(板垣李光人)をヨーロッパに派遣し、西洋の学問を身につけさせることで新時代の将軍に育てようと考えていたのだ。
世界を相手にしなければならない時代を見据えた優れた計画だが、そのくらいしないと幕府はもうもたないという焦りもあったのかもしれない。

「どうする、もう将軍になってしまった」
久々に対面した篤太夫に漏らした言葉からは、旧時代の象徴ともいえる幕府のトップになってしまった複雑な感情が伝わってくる。
今回のヨーロッパ訪問も、本当は自分で行きたかったのではないだろうか。

「問題は、昭武が一人前となって戻るまで、私が公儀をつぶさずにおられるかどうかだ」
将軍になることに大反対していた篤太夫だったが、なってしまったからには、何とか慶喜を支えたいという気持ちがにじみ出ていた。

「人の一生は重荷を負うて遠き道を行くがごとし……」
篤太夫と慶喜が謎のコール&レスポンスを繰り広げていたこの言葉は、家康の遺訓とされている。家康から続く幕府という重荷を背負った慶喜への、篤太夫なりのエールだったのではないだろうか。
ちなみに、篤太夫は後に著書『論語と算盤』の中で、この言葉は論語での教えが基になっていると指摘している。

新時代の有名人たちとの出会い

今回、おなじみ福沢諭吉(中村萬太郎)や、日本の赤十字運動の先駆けとなった高松凌雲(細田善彦)など、新時代に活躍する人物たちが登場した。
さらに篤太夫は、日本近代化の父とも呼ばれる小栗忠順(武田真治)とも出会っている。小栗は日本にも西洋に負けない造船所を作らなければならないと語った。

「今更、造船所が出来たところで、その時分に公儀がどうなっておるかは分からぬ。しかし、いつか公儀のしたことが日本の役に立ち、『徳川のおかげで助かった』と言われるならそれもお家の名誉となろう」

慶喜と小栗という、新時代を見抜いていそうな二人が、共に幕府の終焉を予感している。
今回のヨーロッパ行きには、フランスより600万ドルを借款するという大きなミッションも課せられているという。死にかけの幕府が立ち直るには、ドデカい借金を背負うしかないというところまで追い詰められているのだ。

小栗の計画した造船所は、幕府を救うことはなかったが、後に日本海海戦に勝利した東郷平八郎は「勝利できたのは造船所を建設した小栗のおかげだ」と語っている。

いよいよ徳川幕府ラストイヤー

篤太夫が世界&新時代に向けて羽ばたこうとしている一方、渋沢成一郎(高良健吾)は武士として、慶喜に旧時代的な忠義を尽くそうとしている。
さらに、時間が止まりっぱなしなのが、飛脚を斬って捕らえられた尾高長七郎(満島真之介)だ。長らく牢につながれている長七郎は新時代どころか、戦国時代の落ち武者然としていた。

最後の最後で出てきた徳川家康(北大路欣也)が「さぁ、いよいよ慶応3年だ」と語っていたが、慶応3年といえば大政奉還の行われた年。
かつては血洗島で一緒に過ごしていた三人が、それぞれの運命に巻き込まれながら、徳川幕府の最期を迎えることになる。

『青天を衝け』全話レビュー第1話はこちら

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1975年群馬生まれ。各種面白記事でインターネットのみなさんのご機嫌をうかがうライター&イラストレーター。藤子・F・不二雄先生に憧れすぎています。
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