祈りのようなドラマ「姉ちゃんの恋人」最終話をていねいに読み解く

有村架純主演のドラマ「姉ちゃんの恋人」。恋が実り、無事カップルとなった桃子(有村架純)と真人(林遣都)。思いがけない暴力に遭遇するも、二人で乗り越えます。悟志(藤木直人)の秘密を知ってしまった日南子(小池栄子)。このカップルは一体どうなるのでしょうか。幸せな気分になれた最終話を振り返ります。

「受け止めるだけ」というやさしさ

8話のラスト。桃子(有村架純)と真人(林遣都)は、道で出会っただけの輩に不当な暴力を受けるという、真人が罪を犯した過去と同じ状況に遭遇する。真人は仕返しをせず、謝りながらただ桃子を守り続けるという形で抵抗し続ける。過去を乗り越えた二人は、こんな状況でも笑い合い、桃子の自宅で行われているクリスマスパーティーへと向かう。

自宅では3人の弟とみゆき(奈緒)が桃子たちを待っていた。食事のあと、「安達家恒例のやつ、いきますか」と桃子が声をかける。それは「自分が今持ってる悩み、心配ごとを言う」というもの。そして「言うだけ、それに対して何も言わない。知るだけ。受け止めるだけ」。

レビューでも繰り返し書いてきたが、このドラマで主人公のまわりにいるのは、やさしくていい人ばかりだ。障害になるかと思った叔父・菊雄(光石研)は結果的にキューピッドとまで言われ、偶然遭遇した元彼女は過去を悔いていた。常に悪意は彼らの外側にある。けれど、その「やさしい人たち」は、過剰に世話を焼いたり、相手のふところに入り込んだりすることはあまりない。ただ受け止める。相手が悩んでいることを知っておく。いざというときに大切な人を守れるように。そのさじ加減が、最後まで徹底している。

幸せがつまった、最終回らしい最終回

そこからはもう、最終回らしい最終回だ。和輝(髙橋海人)とみゆきは正式につきあうことになる。悟志(藤木直人)が新社長であることが明かされ、日南子(小池栄子)が職場でプロポーズを受ける。警備員は実は社長秘書だったことがわかる。冴えない同僚だった武内(那須雄登)や山辺(井阪郁巳)もそれぞれに報われる。みんなが幸せになっていく。

「姉ちゃんの恋人」は、コロナ後の世界を描いた作品だ。桃子の働くホームセンターで客がマスクを奪い合う回想もあったし、手を消毒する描写もあった。ラスト近くのホームセンターの飾り変えで「2021」という文字が大きく掲げられたことからも、ドラマのなかの世界がまさに今年、今だったことがわかる。

ドラマではもうマスクをしなくてよくなっているけれど、現実はそうではない。ドラマにはいい人しか出てこないけれど、現実はそうはいかない。だからこそ、このドラマが生まれたのだと思う。現実にはないような都合のいい幸せが疲れた心をなごませることを、きっと作り手は信じているのだろう。

「生きるってことは、ずっと幸せってやつに片思いし続けることかもしれないね」「幸せにちゃんと片思いしていれば、きっと大丈夫。この星は壊れない。そうだよね、姉ちゃん」という最後のナレーション。伝えたかったのはそこだ。どうしようもない状況に陥る人がたくさんいる今だからこそ、幸せをあきらめないこと。それが、このドラマがずっと伝えてきたことだ。

「姉ちゃんの恋人」で繰り返し描かれたこと

今作には、女性の立ち位置についてのセリフが時々入ることがあった。4話でみゆきが年下の和輝(髙橋海人)に迫られた際の「若い女性とつきあう男性は自慢げだけれど、男性が年下だと否定的に捉えられる」という発言。同じく4話で、桃子が突然「歳を重ねた人がはしゃいだりするとイタイっていうけど」「歳を重ねたことを劣化とかいいやがって」と怒るシーン。5話でも、ホームセンターの桃子や日南子の同僚である沙織(紺野まひる)が、「結婚して子どもがいるから幸せなわけじゃなくて」と、女性の属性と幸せについて語る場面があった。もちろんそれぞれの発言はドラマの中で誰かを救っているのだけれども、ややとってつけた感もあった。たしかに今を映したセリフではあったけれど、脚本家自身が「女性に対する視点をアップデートするべき」という思いから書いたセリフのように見えなくもなかった。

それよりも、岡田惠和がこれまでいくつもの作品で書きつづけてきた丁寧でフラットな対話、登場人物の相手をわかろうとする姿勢、たいせつな人を思うこと、人々が思い合うこと、それがこのドラマの全編にわたって繰り返し繰り返し描かれていたこと自体がとても重要だと思う。ずっと以前から”世界を愛する”感覚を書きつづけてきた岡田が、それこそ祈るように描いたちいさな幸せが詰まった物語が「姉ちゃんの恋人」だったのだろう。

■「姉ちゃんの恋人」全話レビュー

1:有村架純×林遣都「姉ちゃんの恋人」1話。コロナ禍の今と似ている!2020年の私たちのささやかな幸せ
2:有村架純×林遣都「姉ちゃんの恋人」2話。家族だからこその気持ちと反対の会話
3:有村架純×林遣都「姉ちゃんの恋人」3話。誰かに気にかけられる、その瞬間があることが幸せ
4:有村架純×林遣都「姉ちゃんの恋人」4話「年を重ねたことを劣化とかいいやがって、冗談じゃないから」
5:有村架純×林遣都「姉ちゃんの恋人」5話。聞いてほしいこと、言えないこと。草野球シーンは林遣都の腕の見せどころ
6:有村架純×林遣都「姉ちゃんの恋人」6話。観覧車での真人の独白「うまくしゃべれない、ごめん」まで4分13秒
7:有村架純×林遣都「姉ちゃんの恋人」7話。髙橋海人、緊張と緩和が見事な「はい」
8:有村架純×林遣都「姉ちゃんの恋人」8話。不意の悪意を乗り越えるための「幸せ」の確認

ライター。名古屋出身。演劇、お笑いなどを中心にインタビューやレビューを執筆。
漫画家・イラストレーター。著書に『ものするひと』『いのまま 』など。趣味は自炊。