憧れバトン

長田杏奈さん「他人からの心ない言葉は、よけきれなかったデッドボール」心が軽く、強くなるルッキズムへの抗いかた

ライターとして多くの美容の記事を手掛けてきた長田杏奈さん。著書『美容は自尊心の筋トレ』は、どの女性も一度は経験したことのある、容姿にまつわるコンプレックスや謙遜の常識を取っ払い、「そのままのあなたで美しい」という「全員美人原理主義」を唱える一冊です。 日本ではまだまだ浸透していないルッキズムへの問題提起と、私たちにできることは何か、うかがいました。

●憧れバトン06-02

他人からの心ない言葉は「デッドボール」

――長田さんは、女性の「すっぴんでごめんなさい」という謙遜は必要がない、もっと堂々としてと綴っていらっしゃいます。ただ、実際そうした言葉を発する女性たちは心からそう思っているのではなく、そう言わせている「誰か」の存在があるのではないかとも思うのですがいかがでしょうか。

長田杏奈さん(以下、長田): 他人からの心ない言葉って「よけきれなかった球」のようなものだと思うのです。
その球に当たってしまった時、まず、「あの時のあれはデッドボールだったんだ」と見つめて、受け入れる。自分のせいではなく誰かが投げてきたから当たってしまったものなのだと認知するところから始めてほしいと思います。

――他人から刺されたトゲが大きくて、どれだけ自尊心を高めようとしても「むくんでるね」「太った?」の呪いの言葉が忘れられません。

長田: 「あの時のあの人のあの言葉に傷ついた」と分析できている。そこにたどり着いただけでもすごいと私は思います。
多くの傷はそれがいつどこでつけられたかもわからないまま、「痩せなきゃ」とか「私はブスらしい」と漠然とした悩みとして残りがち。傷ついた経験と向き合って、その原因を見つけただけでもすごいです。
自分の中で言語化できた時点でその呪いが少しは解けているのかなと思います。

次にすることは、時を経て知恵や考える力がついた今、過去に遡って、自分を弁護、反ばくすること。
「私にブスって言ったあの人、そんなに美的センスがあったとは思えない」「きっと言った本人が覚えていないぐらい軽い気持ちで言ったに違いない。許さなくてもいいけど、真に受けなくてもいいのかも」
と、賢くなった自分が過去に戻っていって、自分の味方をしてあげるイメージです。

社会を変えるためには、専門家の声も必要

――他人からの言葉はデッドボールのようなもの。では、「デッドボール」自体を減らすにはどうしたらいいのでしょうか。

長田: たしかに社会に対してのアプローチは難しい課題です。私のような美容の現場で働く人間だけでなく、ルッキズムを専門に研究している学者さんたちにもその定義や見解について話してもらい、見た目で差別することはよくないことなのだと広く深く理解してもらうことが必要だと思います。

まだまだ日本における"ルッキズム"の定義はすごく曖昧で広義に受け取られがちな部分も多い。
ルッキズムの問題点は、美醜こそ人間の価値だと偏重し、差別すること。けれども、容姿に関する全ての情報や視覚情報をシャットダウンするべきなのだと誤解している人も少なくありません。
「眉毛をいつもと違う形に書いてみよう」「今日は気分を変えて印象が変わるように見えるようなメイクをしてみよう」そういった美容を楽しむ気持ち自体を、「見た目にとらわれている!」と言って否定するものではありませんし、見た目を気にすることに罪悪感を植えつけてるところまで行くのは乱暴な気がします。

こうした誤解を軌道修正するために、専門分野の方が発信する場を設けて、ルッキズムが本来の意味で広まっていくようにすることが次の段階だと考えています。

――正しい知識を専門家の方に話してもらうことで、被害を受けた女性だけの問題ではなく、社会の問題として広めていくということですね。

長田: 「他人の容姿をいじるのはおかしい」という文化を根付かせることは、時間がかかるかもしれませんが、不可能ではないはず。
たとえばセクハラについては、時代が変わってハラスメント講習が行われるようになっていきました。じゃあ今度はそこにルッキズム項目をいれるとか、学校教育に取り入れるとか。
できる人から声をあげることで、「傷ついた人」じゃなくて「傷つける人間」が変わるべきなのだという風潮を浸透させていくことはできると思います。

――自分が上司にセクハラや容姿いじりをされた経験から、次の世代にはそういう思いをさせたくないと感じています。後輩たちをどのように守っていけばいいと思いますか?

長田: 「いつも可愛いね」「今日はオシャレしてるね、デート?」「若い子がいると場が華やぐね」こうしたハラスメント発言から後輩をかばう言動をした際にかけられる言葉のひとつに「おばさんが嫉妬してる」というものがあります。女同士を年代で分断する、嫉妬濡れ衣論法。でも、言っている相手はその罪深さなど考えていないことがほとんどなので、できれば真に受けて傷つかないでほしいです。一人で背負うのが辛いなら、人事部や労働組合、組織が信用ならない時は厚生労働省のハラスメント窓口などに相談してみるのも手。ハラスメントが蔓延する男性的な社会構造の中にうまく適応して生き抜いてきた先輩は、「上手くあしらって流せばいいのよ」「私も苦労したんだから、あなたたちも耐えなさい」と悪気なくハラスメントを再生産してしまいがち。そんな悪しき引き継ぎを断ち切って、次の世代を救おうとするのは、とても勇気のある行為だと思います。

――誰かが作り上げた、女性の世代間の分断に心折れてはならないと。

長田: 「お堅いこと言っちゃって」「うまく流せばいいじゃない」「慣れるが勝ち」という使い古された社会の文脈に違和感を感じる人は、まだまだ少数派かもしれないけれど、増えてはいる。女性たちが世代を越えて連帯していくことで、男性目線を中心に据えた窮屈な枠組みを変えていけたらいいですよね。

――女性たち自身の意識を変える必要もあるのでしょうか。

長田: 日本は、本当に年齢を重ねた女性の自信を奪うのが得意な国。大人の女性をおばさんか美魔女かみたいな二極化で分類して、どっちに振れてもバカにしてみたり。でも、年齢を重ねた女性の真の魅力はいかに若さを保てているかにはない。その人の経験や歩んできた道が、もっとまっすぐに讃えられていいし、誰が褒めそやしてくれなくてもせめて本人ぐらいは誇りを持っていたい。

そのために、例えば映画やドラマなどフィクションの世界で、「年齢不詳の美女」とか「おばさん○○」のようなプロトタイプではなく、もっとリアルな歳を重ねた女性が、当たり前に活躍している作品が日本でも増えるといいなぁと思います。
女性たちが歳を重ねることを恐れたり気後れしたりせず、健やかな自信を育める環境を後押ししたい。自分にOKを出している大人の女性が、エネルギッシュな若い世代をフックアップしてサポートするという構造が、もっと当たり前になればいいなと思います。

現在肩書き無し。30歳の夏、港区での彼氏との同棲を解消、同時に8年マネージャーとして勤務した芸能事務所を退社する。ライター業ではお笑いやサブカルチャーに関するコラムをwebサイトに寄稿など。
写真家。1991年、東京都生まれ。お酒とアニメと女の子をこの上なく愛している。 多摩美術大学卒後、作品制作をしながらも、フリーランスフォトグラファーとして、幅広く活動。 被写体の魅力を引き出すポートレートを得意とし、アーティスト写真や、様々なメディアでインタビュー撮影などをしている。
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