憧れバトン

長田杏奈さん「この社会を変えるのはミレニアル世代」割りを食ってきたミレニアルズたちへのエール

誰しも人生で何人かはいる「あこがれた人」や「嫉妬する相手」。 「他人と比べない社会」を良しとする風潮の中で、それでも自分の中にある「羨ましい」「あの人みたいになれたら」の声に耳を傾けることで、次に頑張るべき課題や目標が見えてくるかもしれません。 犬山紙子さんがバトンを渡したのは、ライターの長田杏奈さん。『美容は自尊心の筋トレ』の著者でミレニアル世代のお姉さん的存在です。ふわりと軽やかな印象の長田さんの、力強いメッセージをお届けします。

●憧れバトン06-01

書籍『美容は自尊心の筋トレ』の著者で、ライターの長田杏奈さん。美容誌を中心に15年以上活躍し続ける美のエキスパートです。
この書籍は"美容本"でありながら「こうすればもっと美しくなれる」「この美容法を実践すべし!」といった従来のものとは一風変わった「美容と向き合うことで自分の心ごと、美しくなっていこう」というテーマが掲げられています。
「全員美人原理主義」のモットーを持つ長田さんを「憧れの人」に挙げた犬山紙子さんのメッセージを受けて長田さんのミレニアル世代に向けた思いをひもときます。

――前回の「憧れバトン」に登場した、犬山紙子さんからは以下のメッセージが寄せられています。

長田さん、ずっと憧れていました。柔らかな色の瞳の奥に慈愛と戦う意思が宿っています。麗かさと優しさは戦うことと共存できることを今、体現している人。ルッキズムやジェンダーの呪いでがんじがらめになっている、辛くなっている女の子たちを優しく抱きしめて一緒に泣いて、道を切り開いて一緒に進む姿に励まされる。私が辛い時、パッと察知して美味しいスープを送ってくれるその寄り添い力も凄い。たまに「あ?!!疲れた!!」って時イマジナリー長田さんを心に召喚してヨシヨシしてもらってます。

長田杏奈(以下、長田): こんな風に思っていてくれたなんて知らなかったです。うれしいな。犬山さんは明るく気さくで愉快な一方で、すごく真面目で責任感が強くて繊細な人。本当は大丈夫じゃないのに、期待される役割を果たすために無理している部分も多いんじゃないでしょうか。

社会への強い課題意識があってすごく勉強しているし、自分の思いを言葉で伝えることを諦めていない。
「犬山総理大臣、長田報道官なんてどう?」と冗談で言ったりするんだけど、きっと犬山さんは繊細だから今みたいな封建的な政治体制の中じゃつらいかも。でも機が熟したらそんな未来もありなんじゃないかな?

――長田さんは長らく主に美容のライターとして第一線で活躍されています。人前でお話したり自分の名前を打ち出して活動されることは得意ですか?

長田: いえ、しゃべっているうちに言いたいことが散らかって、伝えることを諦めがちなので苦手な方です。
ライターとしては、長年裏方一筋。私の自我を入れず、いかにインタビュー対象の言葉を純度高く世の中に伝えるかが勝負だという職人意識があるため、仕事において自己表現することも避けてきたように思います。

特に、出版の世界に入った当初は週刊誌の編集部にいて。いちばん下っ端だったので雑用も含む膨大な仕事をこなすべく、「社会の駒として己を省みずがむしゃらに働くことがハードボイルドでかっこいい」と信じていた時期が長かったですね。
1人目の子どもを出産した後は、さらに自分のことは後回し。でも、2人目が生まれたときにワンオペではまわらなくなりました。ほんの些細なきっかけなのですが、大量の荷物やら子供を抱えて帰宅したある日、玄関で水をこぼしてしまった時に「もう私、だめだ」って立ち上がれなくなってしまったんです。
その時に気づいたんですよね、このままでは自分だけでなく大切な家族もろとも共倒れしてしまうと。

――そこからどう変わったのでしょうか?

長田: 忙しさのストレスで円形脱毛症になったり蕁麻疹が出たり、不調がダイレクトに身体にでていたので、ご飯を食べる、睡眠をとるといった基本的なことをちゃんと大切にやるようにしました。
寝なければ仕事は終わるけど、寝よう。ランチは適当に済ませることもできるけど仲間と時間を作って食べよう。自分を生かすために最低限やらなきゃいけないことを後回しにするのをやめました。

――自分はどうなってもいいと思いながらいろいろなことに打ち込んでいる人、案外多いと思います。

長田: もっと言うと、"自分を大事にできてない自分"を責めている人も多いのかも。でも、そういうときこそ立ち止まって、「自分のせいじゃないのでは」って思ってみてください。
社会や環境、色々な刷り込みのせいで、自分を大事にできないだけかもしれないから。

実は、職種を問わず、ミレニアル世代のみなさんって「遠慮してなかなか自分を出せない」「自分を後回しにしてしまいがち」という人が多いように思います。

――どういうことでしょう?

長田: 男女問わずかもしれませんが、バブルの成功体験がある世代と、「自分らしさ」をしっかり主張できる若手の間で板挟みになって割りを食っているように見えることがあって。ゆとりとか氷河期とか言われてしまう世代とも重なるのかな。

――そういう部分はあると思います。どちらの世代に対しても羨ましさもあり、どっちもの言い分も聞こうとした時に結局自分たちがどう振る舞っていいかわからなくなる。

長田: ミレニアルズより少し上の世代の私が思うのは、バブルの波にのってイケイケでやってきた人たちと、「古い価値観なんて捨てて新しいことやってやろうぜ」という人たち、その2つの世代をつなぐとても大切で繊細で、ちょっと面倒臭い役割を、担わされてしまっている。矛盾や不条理に削られてしまうことも多いと思うけれど、どうかもっと自信を持ってほしい……。

自信といっても「私って最高!イエーイ!」みたいな大げさなことではないし、無理をする必要もありません。
「板挟みになって損したり、気を遣っても報われなかったり。そういう目に会うのは自分のせいではなくて、時代のせいで社会のせい。自分は十分やってきたんだ!」って、下げ過ぎている自己評価を"マイナス"から"ニュートラル"に戻すだけでいい。
せっかく脂が乗ってくる時期なんだから、上の世代にも、下の世代にも遠慮するのはもったいないです。どっちの顔色も伺わず、もっと自分がどうしたいのかと向き合って思う通りにやってもいいんじゃないかな。

私も長らく、裏方として働いてきたから自分を隠す癖がどうしてもあります。でも、自己犠牲の裏方美学って、ある種、逃げなのかなとも思うのです。

――逃げ、ですか。

長田: 取材やイベントに呼んでもらっても、登壇相手にいい感じで話を振って魅力が引き立つようにして、自分は聞き役に徹しようとする癖がどうしても抜けないんですよね……。

インタビューで自分の美容に対するスタンスとちょっと違うことが載ってしまった時にも、ちょっとしたことだし訂正するのはえらそうかな?と思って流してしまったり。小さいことだと、名前を呼び間違えられてもわざわざ直さなかったり。

でも、そんな振る舞いを友人から叱られたんですよ。
「杏奈さんの言葉に救われて、杏奈さんの言葉だ!と思って真剣に読んでいる人がいるのだから、自分を都合の良いフリー素材みたいに扱わないほうがいい」と。
自分名義のアウトプットの中身を譲る、みたいなことも自分を大切にしていないことになるのだと反省しました。

人前でしゃべることにしても、「得意じゃない」って自分で決めつけてるけれど、チャレンジしなければいつまでたっても鍛錬されていかないんですよね。
尊敬している人たちだって、最初から喋れたわけじゃなく、努力の結果なはず。
後ろに引っ込み続けていたら鍛錬もできないじゃないですか。

――確かに、「自分を出すこと」には鍛錬も必要ですね。

長田: 私の著書『美容は自尊心の筋トレ』は多くのミレニアル世代が手に取ってくれています。
この本は美容を通して自分の自尊心を見つめ、高めようというテーマで書いたので、きっと「このままでいいのだろうか」と問題意識を持って読んでくれているんだろうなという手応えを感じられることが嬉しく、心強いです。

私はジレンマを抱えるミレニアル世代が健やかな自信を取り戻したとき、きっと社会はもっと良い方向に変わるはずだと信じています。
報われなさを感じたり、自分は無力だと思う瞬間がたくさんあったかもしれない。でもそれは、時代の流れや社会のシステムのなかで自信や力を奪われてきた結果であって、「あなた個人のせいではないんだよ」と言いたい。自分は悪くないのかもって、まずは凹んだ気持ちをフラットにしてほしい。
姉世代の一人として、エールを送ります。あなたの頑張りをちゃんと見守っているよ、と。

大学卒業後、芸能事務所のマネージャーとして俳優・アイドル・漫画家や作家などのマネージメントを行う。その後、未経験からフリーライターの道へ。
写真家。1991年、東京都生まれ。お酒とアニメと女の子をこの上なく愛している。 多摩美術大学卒後、作品制作をしながらも、フリーランスフォトグラファーとして、幅広く活動。 被写体の魅力を引き出すポートレートを得意とし、アーティスト写真や、様々なメディアでインタビュー撮影などをしている。
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