telling,の取材に応じたエッセイストの犬山紙子さん

憧れバトン

「これが私の性格だから」で片付けない。犬山紙子さんがカウンセリングを受けて気づいたこと。

誰しも人生で何人かはいる「あこがれた人」や「嫉妬する相手」。 「他人と比べない社会」を良しとする風潮の中で、それでも自分の中にある「羨ましい」「あの人みたいになれたら」の声に耳を傾けることで、次に頑張るべき課題や目標が見えてくるかもしれません。 ぱいぱいでか美さんからバトンをつなぎ、今回はエッセイストの犬山紙子さんが登場です。30歳前後に抱えていたもやもやを様々なアプローチから乗り越えた犬山さんのお話は金言だらけです。

●憧れバトン05-01

――ぱいぱいでか美さんの「憧れの人」として犬山さんのお名前が挙がりました。
以下、ぱいぱいでか美さんからのメッセージです。

“犬山さんに今更憧れてるって言うのちょっと照れすらありますが……もう、尊敬しかないです!実は!
ボブが似合うクールビューティーさも、ひょうきんすぎるところも、お洒落なところも、家にお邪魔しすぎな私に優しいところも(笑)大好きです!
でも一番憧れているのは、私に優しくしてくれるような身近な愛を、広い視野で社会に伝えているところ。何か声をあげればあり得ない方向から石を投げられるような世の中で、それでも愛の為に声を上げ石をキャッチし愛で返す人。影響力を独占せずに社会に還元する姿は本当にかっこいいです。
自分の漠然とした「売れたい」という願望の先の目的はこれなのかもなぁと気付かせてくれた方。またお邪魔します!”

早速ですが、犬山さんは「嫉妬」、しますか?

犬山: するする。すごくしますよ。でも、「嫉妬なんてしちゃだめだ!」と思わなくてもいいんじゃないでしょうか。人間なんだから当たり前。ただ、ネガティブな方向に加速すると、他人の不幸を願ってしまったり迂闊に悪口を言ってしまったりするから危険ですよね。
「あの人はこんな風に努力をしたからすごいんだ」と、相手が持つ「嫉妬されるほどの魅力」を分析し自分にフィードバックしていけるかどうかが分かれ道。ポジティブな方向に舵をとるんです。

――なぜ嫉妬をしてしまうのだと思いますか?

犬山: 多分、他者への嫉妬って「この人がなんで?私の方が頑張っているのに」の、この「私の方が頑張っているのに」に本心が集約されている。「私の方」があるから苦しい。「あの子も私も頑張っているし、その頑張りは別物である」と思いたい。
そうした自分の心の動き方の傾向をよく観察すること、他人のことなんて見えている部分しかわからないのだと理解することが大切だと思います。

telling,の取材に応じたエッセイストの犬山紙子さん

――自分の努力だけではどうにもならない恋愛や結婚について、焦るとつい、周りの人がうらやましく思えることもあります。

犬山: たとえば友人が結婚するのを知って「素敵な結婚相手つかまえていいなぁ」と噂話をした経験は誰にでもあるかもしれません。「ずるい」と反射的に思ってしまうこともあるかもしれません。でも、その「素敵」は私たちに見えている一部分でしかない。あなたが指している「素敵な」は「高収入」とか「高学歴」のような、ステレオタイプなものではないか?
「これがいい」「こうあるべき」といった社会が決めた軸に沿って良し悪しを判断してしまうと、嫉妬地獄へ陥ってしまう気がします。

私にとって最高の夫であるつるちゃん(劔樹人さん)も、結婚当時は世間が定義しているような「理想の結婚相手」に必ずしも当てはまってはいなかったかもしれないけど、自分の中で「私のことを尊重してくれている人」という確固たる軸があったので余計なことにはかき乱されませんでした。

――どのようにそうした気持ちを保っているのでしょうか?

犬山: 人生を長い目で見る視点を意識していますね。
ダニエル・カーネマンの『ファスト&スロー』という本に書いてある思考のロジックがあって。
ファスト思考とは直感的な思考のことで、ふっと沸く嫉妬の感情などはそちらに分類されるのですが、この思考の特徴は、衝動に駆られて突発的に動いてしまうこと。
一方のスロー思考は時間やコストのかかる論理的思考で、行動に移すまでに時間を要しますが、深く思考したり検討する過程を経ることができるとされています。

嫉妬の感情が沸いた時に、「あ、今ファスト思考になっている」と一度冷静になりスロー思考に切り替える。そうすると、「人と比べる先に実りのあることはない」「今は自分のことみじめに思えてしまうかもしれないけれど、こうやって頑張っていることは長い目でみると絶対良いことだ」って、自信をもてると思います。

telling,の取材に応じたエッセイストの犬山紙子さん

――たしかに短絡的な嫉妬の感情を無意識に積み重ねるとどんどん闇を抱えていってしまいますよね。

犬山: 闇を抱える自分を責めすぎないでほしいです。「抱えちゃうよね〜」って、闇を抱えた子どもの自分に対して、大人の、包み込むような自分がよしよししてあげる時間を作ってみるといいと思います。

――自分をよしよしする!素晴らしい考え方です。昔からそういう行動療法のようなことをされていたのですか?

犬山: 全然!(笑)。ここ4年くらいですかね。夫と結婚したことがきっかけです。
夫はあまりにも良いやつすぎるのに、彼が家に帰って性格の悪い妻が待ってるなんてめっちゃかわいそうじゃないですか。
夫婦生活を長く続けていく上で私がこのままの性格だと絶対に関係が悪くなると思い、プロの力を借りようとカウンセリング受けました。

――カウンセリングではどんなことを相談されたのですか?

犬山: 主にはすぐにイライラしてしまう怒りっぽい性格についてです。私は臨床心理士の資格を持っている方に話を聞きにいきました。
お腹が空いている時につい理不尽に怒ってしまうなど、自分の行動パターンが見えてきて、カウンセリングを通して、自分をよしよししてあげることなども学びました。

――立ち止まって自分を見つめ、現実的な改善の努力をしようとするのはなかなか勇気のいることだと思います

犬山: 私もずっといろんな場面で「私はこういう性格だから!」と思考停止をしていました。でも、そんなわけないんですよね。すぐに機嫌が悪くなったり、その頻度が異常に多かったり、それって大人として成熟していないってことなんです。子どもを持った人間として、このままでいてはならないと。
それに改善できた方が、私自身もラクに生きられるわけですから。

telling,の取材に応じたエッセイストの犬山紙子さん

――カウンセリングを受け、周りの人の反応は変わりましたか?

犬山: 直接友人から性格の変化などを指摘されることはありませんが、明らかに昔より他人から相談を受ける頻度が増えました。「あの頃言えなかったけど、実はずっとこういうことに悩んでたんだ」と言われ、「あぁ、信頼してくれるようになったんだな」と感じます。私も他人に心を開いて相談できるようになりましたし。
きっと昔は、相手の話をゆっくりと傾聴することができなかったんでしょうね。すぐにちゃちゃを入れたり否定してしまったり……。それが大人になって整ってきた感じかな。

――自尊心を上げるために工夫されていることもあるそうですね。

犬山: 「すれ違う人の良いところを片っぱしから褒める」というのを意識してやったりします。
「あの人、帽子が似合ってる!」「カバンのプリントがすてき!」そんな小さなことで大丈夫。
自分のことを愛するためには「自分を認める、褒めることのできる心」が必要です。心から褒めるってすごく難しいんですよね。だからまず、他人を、めちゃくちゃ褒める。いいところを見つける力をつける。そうすると他人や身近な人がどんどん美しく見えてくるんです。
他人と自分を比べるんじゃなくて、「この人はここが本当に素敵。美しい」という見方に変える。そうすると世界がぱーっと明るくなっていきます。

――照れたり遠慮したりせず、他人を褒めることで自分のことを褒めるのも上手くなると。

犬山: 女同士の「褒め」はマウントだ、なんてコラムを書いていた時期もありましたが、実は全然そうじゃない。素敵だって思ったら素直に口にするってすごく大切なことだと思います。
友人の美しいところを見つけていく作業はすごく楽しいし、「美しい」と感じる感性も育っていきます。その感性を今度は自分に向ける。自分の中にある美しさにも気付けて、自分を愛せるようになっていくのではないでしょうか。
“人間全員美人”これが私のポリシーです。

後編もお楽しみに!

現在肩書き無し。30歳の夏、港区での彼氏との同棲を解消、同時に8年マネージャーとして勤務した芸能事務所を退社する。ライター業ではお笑いやサブカルチャーに関するコラムをwebサイトに寄稿など。
写真家。1991年、東京都生まれ。お酒とアニメと女の子をこの上なく愛している。 多摩美術大学卒後、作品制作をしながらも、フリーランスフォトグラファーとして、幅広く活動。 被写体の魅力を引き出すポートレートを得意とし、アーティスト写真や、様々なメディアでインタビュー撮影などをしている。
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