夢眠ねむさん「気むずかしい店主でいてもいいかなと思う」
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●憧れバトン02-2
「嫉妬」のルーツは「てれび戦士」!?
――芸能界を引退し、現在は夢眠書店の店長をなさっています。もともと「本が好き」と公言されていましたが、編集者や作家など、「本に関わる仕事」がいろいろある中で「書店員」という道を選んだのはなぜですか?
ねむ: 決意したきっかけは、本屋大賞の授賞式を見に行ったことです。書店員さんが涙ながらに「この本は廃盤なんですけど、私は平積みにしたいんです!」と訴える姿をみて、「この人は著者でも編集者でもないのにどうしてここまで熱くなれるんだろう」と。その情熱に、地下アイドルを応援しているアイドルオタクから感じるのと同じ衝撃を受けて、次は“ここ”に携わりたいと思いました。
――アイドルオタクのような衝撃とは?
ねむ: アイドルを始める前、美大生だった頃からずっと「メイドやアイドル」と、対する「オタクの熱意」が、私の学んでいたメディアアートの研究テーマでした。
私、もともとはどちらかというとアイドルのような存在って、嫌いだったんです。
ちやほやされている華やかな芸能の世界に、子どものころから反発心がありました。
あっ、“嫉妬した人”・・・いました!人生初めての嫉妬は、NHK『天才てれびくん』のてれび戦士たち!(笑)
――てれび戦士ですか!?
ねむ: てれび戦士になりたかったんです、私。でも家が黒電話で、視聴者がプッシュボタン式電話で参加するゲームコーナーにさえも参加できなかった。
「その時点で振り落とされてるじゃん!電話の種類からもう、お前はこの世界(テレビ業界)には入ってこれないぞって言われているじゃん!」という気分になって(笑)
憧れのてれび戦士になりたいんだけど、応募する術もない……いや待てよ?本当はこんな電話応募からなんてなれないんじゃないの?全員子役なんじゃないの?って、気づいた時にはブチ切れていて、芸能人が全員嫌いになったんです(笑)
この瞬間に、アイドルとか、全ての“芸能っぽい存在”に対して振り切れた嫉妬をして、自分が前にでていくことに対して心を閉ざすようになったんですよね。
――転機はどこにあったんですか?
ねむ: 高校生の頃に遊びに行ったメイドカフェで見た音楽ユニットのパフォーマンスです。実際にアルバイトをしているメイドさんたちがステージで歌っている。「これは嘘じゃない!」って、応援したいと思いました。そこから閉ざしていた心がだんだんと開いていきました。
――そしてのちにご自身がメイドとして働くことになるんですね
ねむ: はい。活動を通して、自分の中の偏見をひっぺがしていくという作業をしていったような感覚です。「選ばれしものじゃなくても、可愛いフリフリの服を着ていいんだ」という気持ちなど、メイドを始めてから許せるようになった自我がありますね。
同時に、メイドのために本気でいろんなことを考えてくれるオタクたちの熱量にも、心から尊敬の気持ちと、興味を抱くようになりました。
――「尊敬」とはどういうことでしょうか
ねむ: 「ご主人様」たちが、なぜ女の子たちに贈り物をしたり、彼女たちをモチーフに創作をしたり、アイディアを出したりという情熱をここまで注げるのだろう?と。その「無償の愛」に興味があったんです。
アイドルも同じですよね。応援していても、株のように儲けが出たりなんていう直接的な利益はファンにはフィードバックされない。それでも応援してくれる。
これって、美術界でいうところの芸術家とパトロンの関係性に近いと思うんです。
自分の先見の明を信じて、惚れた芸術家たちにお金を惜しみなく使って。自分にはなにもなくても「私がこの文化の起爆剤になった」「僕がその人見つけた」という所に自身の価値を見出して、誇りにしている。
この美学と、本の売り上げが直接フィードバックされるわけでもない書店員さんの涙ながらの訴えが、重なったんです。
アイドル活動で体感したファンの熱量を、書店業へ生かす
――自身が支えられ、尊敬の気持ちを抱いていた「オタクのパワフルさ」のような可能性を書店業界にも感じたということでしょうか
ねむ: メイドやアイドルの仕事を通して、「この素晴らしい作品・人物を自分が守りたい」と思うファンの熱量を体感しました。
次は、自分が大好きな本や、本屋さんという場所に対して、自分自身がオタクとして情熱をただ注ぐだけではなく、自分なりにできること、つまり「本やそれをとりまく空間」に対して熱量を注いでくれる「オタク」を増やすために、書店オープンという形をとりました。
――夢眠書店を有料入場にしなかった理由はなぜですか?
ねむ: 芸能界を引退している自分自体に「価値」をつけてはいけないと思ったんです。
私は今、あくまでこの書店の店主という立ち位置。「私に会うこと」に対価が払われるようでは、自分が本来目指していた「本や本屋さんにお金が入って、その空間が盛り上がる」という目的は達成できないんですよね。お金の行き場所がかわってしまう。
「私が選んだ本が置いてある」ということに価値を感じてくれることは嬉しくはあるんですけど、それを打ち出しすぎてしまうと、「私のためにお金を払った人の空間」になってしまう。それは避けたかった。
――現在は男性ひとりでの来店を断っているのも同じような理由でしょうか。
ねむ: それもまた自分の作りたい書店のコンセプトを守るために決めたことです。
この「夢眠書店」は、ママたちがリラックスして本と触れることができるような場所にしたいと思っています。男性が同じ空間にいるとどうしても心からくつろげない人もいて、そういう方のために、今は完全予約制にするなどルールを設けています。
私、気難しい自営業の人でいたくて。書店のコンセプトに共感できない人にはご遠慮いただいていいかなって思ってるんです。
アイドル時代のファンの方に来ないでほしい、ということでは全くありません。ただ、アイドルとしては卒業公演で完結していると思っているので、これからは自分のルールは自分で決めようと。そのためにきれいに卒業の準備をしていたというのもあるので、「ガンコな店主」になってもいいのかなあと思いながら、今はやっています。
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書店員としての道を歩みだした夢眠ねむさん。「こんなの本屋じゃない」そう言われることもあるそうで……。
ラストの後編は、ねむさんが現在目指している「夢眠書店」のありかたについて、伺いました。