憧れバトン

はらだ有彩さんが考える「今日おしゃれしてるけどデート?」の呪縛から解放される方法とは

誰しも人生で何人かはいる「あこがれた人」や「嫉妬する相手」。「他人と比べない社会」を良しとする風潮の中で、それでも自分の中にある「羨ましい」「あの人みたいになれたら」の声に耳を傾けることで、次に頑張るべき課題や目標が見えてくるかもしれません。 ライターの長田杏奈さんが次に「憧れバトン」を手渡したのは、テキストレーターのはらだ有彩さん。 街行く素敵な女性を切り取り、想像を膨らませた著書『百女百様』のお話をうかがいながら、“女性と嫉妬”の関係についてお話しいただきました。

●憧れバトン07

前回の「憧れバトン」長田杏奈さんより、はらだ有彩さんへのメッセージはこちら

「お話しするたび見るたび作品に触れるたび、同じ時代に生まれてなんてラッキーなんだ!と、噛みしめ、打ち震え、踊りたい気持ちにさせる最高の生命体。未来から「大丈夫よくなる」って助っ人に来た先輩のように感じる時もある。歴戦の兵どもが不意を突かれて思わずポカーンと空を見上げるような、時空も空間も飛び越えた圧倒的に斜め上の放物線を描いて、呪縛や既成概念を消して見せる。私からは神事に見えるけれど、一人の生身の人間がやっていることなんだといつも驚きます。女性のための駆け込み寺的スペースを作るのが夢なのですが、もし叶ったらはりーさんに壁面いっぱいにフレスコ画を描いてほしい。」

――長田杏奈さんからのコメント、いかがですか?

はらだ有彩(以下、はらだ): “「大丈夫よくなる」って助っ人に来た先輩“という表現をしてくれるところがすごく長田さんっぽい!
長田さんって、たった今、目の前に生きている人の気持ちをすごく考えてくださる方で、「これはこういう決まりだから」を取っ払って、一旦話を聞いてくれるんです。
「そうはいっても」「今はそれどころじゃない」そんな声が世の中に溢れる中で「でも、今、つらいもんね」と受け入れてくれる。
それも、決して気休めではない。「どうせ解決できないでしょ!」という人たちに対して「できるとかできないとかじゃなくて、やるんだよ!」と力強く立っている。その優しさと気合いが素晴らしい方だと思います。

――さて、この連載は「嫉妬」「憧れ」をテーマにしています。はらださんは嫉妬、しますか?

はらだ: 私自身は「嫉妬」の感覚が全然わからないんです。それにそもそも、「嫉妬」というものはなぜ悪いものとされているんでしょうね。

ーーたしかに、知らず知らずのうちに「よくないもの」と定義してしまっていた気がします。

はらだ: 私の中で「嫉妬」は「渇望」と同じ引き出しの中に入っています。「もっとこうだったらいい“のに”」という気持ちだと思うのですが、それって素晴らしい向上心だと思いませんか。
「こうなりたい」と強く思うって、相当なパワーがあるということなのではないでしょうか。「こうなりたいのに、そうなれていない」状況に対して、まだ諦めていないということ。それってパワフルだなぁって。

――でも、どうしても「嫉妬」というと「してはならないもの」というイメージが社会にはあるような気がします。

はらだ: そうですね。本来なら「渇望」というシンプルなベクトルであるはずなんだけど、そういうイメージが社会にあるとすれば、何か負の要素が歴史上のどこかで付与されたということですよね。
「嫉妬」という字に「女偏」が割り当てられているのも気になるところです。
どこかで「(嫉妬とは)女のものらしいよ」ということにしたい人が存在してこの字が生まれ、しかも「嫉妬はよくないもの」とか言うものだから、「嫉妬は女特有の汚い感情」、とか、「女の敵は女」とかいう謎の言説が真実のような気がしてきてしまう。
どこかからのジャッジの声が、「渇望」という感情に絡んで今のような扱いになったように思います。

なので私は「嫉妬は悪いもの」という概念をすごく警戒するようにしています。
誰かの作ったイメージに騙されないぞ!って(笑)。

――はらださんが今回刊行した『百女百様(ひゃくじょひゃくよう)』は、街行く女性たちのファッションを取り上げて想像を膨らませたイラストエッセイです。クローズアップした女性たちに「憧れ」の感情はありますか?

はらだ: そうですね。私は街行く人に目を奪われることが多いんです。
たとえば昨年パリに行った時に、右が四角、左が丸のふちのメガネをかけたマダムがいて「めっちゃかっこいい!なにあれ!」となったり。街行く人は生きて生活しているわけだから、どんな格好でも生の装いで、それが新鮮なんです。

それなのに、雑誌などの世界では「浮かない、イタくないコーディネート」「30すぎたら足を出さないファッションを!」というような、一方的に装いをジャッジする見出しが目につくことがあります。
自由に装って生きている人が街には確かにいるのに、メディア上ではメディアが決めた特定の装いは「いないこと」「いてはいけないこと」になっている。そしてそんなメディアによって仕掛けられたリミッターに縛られている人もいる。
「こういうファッションはNG」「こうするのが正解」という常識が溢れていながらも、街の中を見回すと好きな格好で歩いている人がたくさんいる。そんな現実を書き残したくて、この本を書きました。

――女性とファッションの関係について、はらださんのお考えを教えてください。

はらだ: 女性は歴史上、「他人のために着飾る」ことと結び付けられがちでした。たとえば夫の財力を示すために着飾る役割を与えられたり、時代によって定められた「魅力的な女性像」をクリアするためにコルセットをつけるとか、ドレス以外の選択肢がなくてパンツスタイルは許されなかったとか、外部からの圧やジャッジによって装いを変えることを強要されてきた存在だと思うんです。
ファッションはその歴史の延長にありながら、娯楽としての側面も持っているから、「好きで着てるんでしょ」で片付けられがちになる。

現代社会でも同様で、マナーやルールが「女性性」をベースとしていたり、着るだけで「女性性」を付与される衣服(制服など)を、女性が「自分で選択した」ことになっているんだけど、実は無意識的に「ジャッジにさらされているから、選択せざるを得ない」という状況がまだまだある。それでもやっぱり、「好きで着ているのだから嫌ならやめればいい」と気軽に言われてしまうということがあるのです。

――いまだに実社会でも、「今日、おしゃれしてるけどデートなの?」なんて揶揄が職場で飛び交う現実があります。そうした言葉からの呪縛を乗り越える秘策はありますか?

はらだ: 「自分でルールを作ること」がひとつの策だと思います。
私は、自分の服装に毎日テーマとそれに合う曲をつけているんです。
たとえば「テーマ:じゅうたんのおばけ テーマ曲:ゲゲゲの鬼太郎」とか(笑)。
そういった混み入った設定をつけておくと、「なんかいつもと違うじゃん。デートでもするの?」なんて聞かれた時に「いえ、今日のテーマは“おばけ”ですね」と、「モテ」などの他人のジャッジとは別軸の存在でいられるようになります。
自分で自分の格好や暮らしにルールを作ることで、他人がルールを押し付けてきた時にも「そのルールは知りません」と一蹴できるのではないでしょうか。

――まずは自分の意識から武装してみると。社会に対してはどのようにアプローチすればよいと思いますか?

はらだ: 誰かが決めた「これはダメ」というジャッジの根拠のおぼつかなさにみんなで気づいていくことが大事ですよね。

私自身もお恥ずかしながら、真面目なビジネスシーンでサンダル履きの人を見かけて、ついギョッとしてしまった経験があります。
でも、その「こうじゃなきゃダメ」って、誰かがいつの間にか勝手に決めたことにすぎないんですよね。
「なぜマナー違反なの?」「なぜ相手が不快だと感じるだろうと言えるの?」を突き詰めていくと誰も答えられなくなる瞬間が出てくるはずなんです。
正解だって思っていることに実はなんの根拠もないかもしれない。それを「正しいこと」って押し付けてくる社会の方が間違っている可能性は十分ある。

――そうした社会に「NO」の声を挙げる勇気がない人はどうすればいいでしょうか。

はらだ: 日常生活の中で「NO」と言うのってすごく大変だし、向き不向きもありますよね。しかもなんで「NO」と言う方が消耗しないとアカンねん、という。「ダメ」だと思い込んでいる人に囲まれているときは、まずは自分が傷つかないようにしてほしい。直接発信する以外にもできることはあるし、無理をしないでほしい。でも「今なら言えるかも」と思った瞬間がある人はどんどん発信していく。もし発信を大々的に引き受けてくれた人を見かけたら、できる限り力になる。そうやって、安心できる空間の面積をじわじわ広げていくイメージです。

――ポジティブな「憧れ」の感情から『百女百様』は生まれていますが、作者のはらださんは燃え上がるような熱いメッセージをうちに込めているのですね。

はらだ: 『百女百様』の中では、装いに対する無遠慮なジャッジを無効化しているように感じた人にフォーカスを当てています。でも、個性的な格好であろうと、友達と同じ服装だろうと、ファッションに興味があろうとなかろうと、そんな格好の人も不快にならずに暮らせるのが本来の社会だと思います。
ファッションに興味がないだけで「女を捨てている」と言われる世界が変わるべきですよね。

ファッションだけでなく、さまざまな場面で女性にかかっているバイアスやしがらみを感じざるを得ない人が、あまり感じずに済んでいる人と全く同じように心地よく、何も心配せずに「明日何着ようかな」と悩みながら生きられるような社会を作っていく必要があると思っています。

『百女百様〜街で見かけた女性たち』

著者:はらだ有彩

発行:内外出版社
価格:1,650円(税込)

大学卒業後、芸能事務所のマネージャーとして俳優・アイドル・漫画家や作家などのマネージメントを行う。その後、未経験からフリーライターの道へ。
憧れバトン

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