ジェーン・スーさん「自分にご褒美を与えるためには、自尊感情が必要です」(前編)

2月に発売された『揉まれて、ゆるんで、癒されて』(朝日文庫)は、コラムニストのジェーン・スーさんが自ら足を運んだ数々のマッサージ、リラクゼーション店での体験をまとめた一冊。マッサージやリラクゼーションを通し、女性の仕事への向き合い方から「癒し」の幅広い効果効能まで、様々な考察がなされています。 今回は私たち悩めるミレニアル世代のかちかちになった心を、ジェーン・スーさんが言葉でほぐしてくださいました。

「自分にご褒美」は、人類の偉大な発明

――『揉まれて、ゆるんで、癒されて』、とても共感ばかりの一冊でした。私も疲れるとついついリラクゼーション系のお店に吸い込まれ、数千円のお金が飛んでいく日々。筋トレや糖質制限などでしっかりと自分を律している友人たちを見て罪悪感を抱いてしまうこともあるのですが……。

ジェーン・スー(以下、スー): もちろん筋トレなども体を整える意味においては大切な習慣だと思いますが、お金を払うことで他者にそのままの自分を受け入れてもらう、労ってもらうことの効能は、物理的な「疲れ」や「コリ」の解消とはまた別のところにあるように感じます。

「自分はなにもせず人がなんでもやってくれる」という、大人になるとなかなか経験できない時間を自分が稼いだお金で買うことについては、私はありだと思います。

――書籍の中にも「女にはお金で解決できる悩みもあるよ」というネイリストさんの言葉が登場します。

スー: くさくさしていた私を和ませようと、おもしろおかしく言ってくださったのだとは思うんですけどね。でも、その時ふっと、気持ちが軽くなりました。

人類が発明した素晴らしい言葉に「自分にご褒美」というのがありまして(笑)。その言葉に甘えてみてもいいのではないでしょうか。
とはいえ私自身もちゃんと「自分にご褒美」ができるようになったのは、自尊感情が高まってからです。

――自尊感情、ですか。

スー: 自尊感情が低いと、「私がこんなことをするのは分不相応だ」と、お金を使ったことに対する罪悪感を抱いてしまうことがある。

本の中でも書いていますが、私もウン十万円のマッサージ機を悩んだ末に購入したんです。ブランドバッグ並みの値段。こんなものを私が買ってもよいのだろうかと、当初は迷いました。でも結果としてこの機械、その後今に至るまでに十分元がとれたぐらい活用しています。

適度な自尊感情を持つことができていれば「今日は頑張った。私はこれぐらいしても大丈夫」と思えるような贅沢の仕方ができるようになります。

もちろんそれが依存症にならない程度に、が前提ですが。

――自分のためにお金を使うことに勇気がいる人もいます。「老後のことを考えて貯金しなきゃ!」と気を張り、リラクゼーションのように形として残らないものへの出費を無駄だと感じてしまう方についてはどう思われますか?

スー: 「将来への漠然とした不安」をお金を貯めていくことで解決できる人 はそれでいいと思います。貯金が趣味で、自分にお金を使わないことが自分の気分を良くさせる人もいらっしゃるでしょう。

ただ、節制することでどんどん気持ちがふさぎこんでいくとか、「周りの人はみんな楽しそうにしているのに自分は楽しくない」と思ってしまうようであれば、その貯金の3回に1回は自分を癒すほうにお金をまわしてみてもいいんじゃないかと思います。

――私は今30代前半なのですが、 20代半ばごろまでは「癒し」や「発散」といえば、友人と飲みに行ってとにかく騒ぐ!が通例だったのが、だんだん翌日に疲れも残るようになり、以前のようにはいかなくなってきました。

スー: 20代の頃より体力もなくなり内臓も弱くなっていっていきますからね。暴飲暴食って、簡単に言うと自傷行為なんですよね。そういうものが「ためらい傷」では済まなくなり、次の日の予定にダイレクトに響くようになっていく。自分の体力や精神力に合ったストレス発散術をもつのがいいと思います。

離れた友人も”鮭”のように戻ってくる

――体力面の問題もありますが、実は精神面でも「女友達との飲み会」の効力が弱まってきている実感があります。結婚、出産、キャリアアップ……ライフスタイルがそれぞれに変わり、かつては一緒に笑い合えていた仲間と噛み合わなくなる息苦しさをどう乗り越えればよいのでしょうか。

スー: 子どもがいたり、いなかったり、仕事がうまくいっていたりそうじゃなかったり。30歳前後からそれぞれの環境はどんどん変わって、話が合わなくなっていくことは当然あります。

私もその頃「あぁ、やっぱ子どもがいる子たちと全然話が合わないなぁ」とか「仕事辞めちゃって、会社員の友達と全然話すことがない」と思うことはありました。

でも、女の人って“鮭”みたいなもので、別の川へと泳いでいったり海に出ていったりしながらも、最終的にはみんな戻ってくるんですよ。

――また昔のように共通の会話で盛り上がれる日がくるのでしょうか?

スー: と、いうよりは、40代半ばぐらいになると、それぞれのフィールドで得た知見を共有し、お互いを称え合えるようになるんですよ。

子どものいない友人の介護に対する不安を、子育て経験のある仲間がアシストしたり、一方で不動産知識の豊富な友人が、家族持ちの友人のマンション購入検討に的確なアドバイスをしたり。非常に豊かな関係が築けるんです。

30歳前後で変わっていく人間関係に戸惑うこともあるけど、そんな時は意固地になってガチガチに関係を詰めるんじゃなくて、適度な距離をとりながら、連絡だけ途絶えないようにしておく、ぐらいの気持ちでいいと思います。

諦めるか悪あがきするか。正解はない

――そうした友人関係のことをはじめ、30代になると身の回りのことがとにかく若い頃のようにはいかなくなる。同じようにやっているはずなのにどうしてだろう?と、つい悩んでしまいます。

スー: 20代後半〜30代でもやもやしている方には「好きにやれ」としか言いようがないですね。好きにしかできないし、好きなことしか、もうどうせできない。諦めなよ、って。私は30代の頃の自分に、そう言いたい。

でも、私の場合は35歳ぐらいまでは色々と悪あがきをしていました。悪あがきをしたことではっきりわかったことがたくさんあったので、後悔はしていません 。

――諦めれば楽になるけれど、悪あがきができるうちは、それでも悪あがきした方がいいのでしょうか 。

スー: アラサー世代になると実感することになると思いますが、体力って、本当に有限なんですよ。42歳すぎたらマジでつらくなります。そこから「人間力」が落ちていくので。何を言ったかも覚えていないし(笑)。そこまでの間は、あがける人はあがく、それが苦手な人はやらなくていい。つまり、自分の好きなようにやってみていいと思います。やる方にもやらない方にも、正解はありません。

多様性の容認が大きなテーマとして掲げられている時代の中で、ロールモデルというのはないんですよ。そんな時代の中で「唯一の正解」を探すのは非常にばかげているので、自分が正解になる生き方をすればいいと思います。体力がなくなってから、後悔しないように。

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「ロールモデル無き時代」……。でも、自立していて、自分の言葉を持っていて、ウン十万円するマッサージ機を自分のために買うことができて(!)。スーさんこそ、私たちのロールモデルじゃないですか!そんな思いをぶつけてみたインタビューは次回へ続きます。

次回はこちら:ジェーン・スーさん「30代、女友達と徹底的に会話したことが、今の私をつくった」(中編)

『揉まれて、ゆるんで、癒されて 今夜もカネで解決だ』

著者:ジェーン・スー

出版社:朝日新聞出版

定価:682円(税込)

「いざ行かん、地上の楽園へ!」。大ざっぱだけど超絶技巧のアジア系マッサージから謎のセレブ客御用達のヘッドスパまで。もまれながら考えた、女性が働くこと、癒やされること。疲れた体と凹んだ心をグイッともみほぐす、マッサージ放浪記! 文庫オリジナルルポ収録。

大学卒業後、芸能事務所のマネージャーとして俳優・アイドル・漫画家や作家などのマネージメントを行う。その後、未経験からフリーライターの道へ。
写真家。1982年東京生まれ。東京造形大学卒業後、新聞社などでのアシスタントを経て2009年よりフリーランス。 コマーシャルフォトグラファーとしての仕事のかたわら、都市を主題とした写真作品の制作を続けている。