本という贅沢36

本当はこれも紹介したかった! 年末年始にオススメの6冊+α

毎週水曜日にお送りする、コラム「本という贅沢」。今年最後のコラムは特別編。書籍ライターの佐藤友美(さとゆみ)さんが、「本当はこれも紹介したかった!」を集めてくれました。年末年始の読書にぜひどうぞ。

●本という贅沢36

本当はこれも紹介したかった!年末年始にオススメの本

昔、「ヴァンテーヌ」という可愛いファッション誌があったんです。そこに「これも紹介したかった」という、本編ではボツになったコーディネートを紹介するリベンジコーナーがあって、私、それを毎月楽しみにしていました。

なので、やってみたかったんですよね。これ。
じゃん!(効果音入れてください)
「さとゆみの『本当はこれも紹介したかった!』年末年始にオススメの6冊+α――――!!!」

テーマに合わなくてとか、時期が合わなくてとか、泣く泣く紹介できなかった推し本を厳選しました!

文句なしに本年度NO.1の読書体験!『1秒でつかむ』

『1秒でつかむ』(高橋弘樹/ダイヤモンド社)

つい最近発売した本で、私も読んだのは昨日です。これが、もう、圧倒的すぎた。
2018年も宴たけなわですが、私の中の2018年ベスト書籍ランキング覆された感ありました。
最初はね、思ったの。『1秒でつかむ』ってタイトルなのに、520ページもあるってどういうことだよ。1秒でつかんでないじゃんって。でもこれ「1秒たりとも飽きさせない」って意味だった。さすが、あのテレビ東京で数々の人気番組を仕掛けた人の書いた本です。全ての演出が息もつかせぬ仕掛けだらけ。

最初のページをめくったが最後(書店さんのレジが混んでいたので、列に並びながら読み始めたんだけど)、もうそこから釘付けで、二宮金次郎ばりに家までも読みながら歩いて帰宅し、そのまま片手で家族のご飯だけ作って、私自身はお夕飯も食べすに深夜まで一気読みですよ。
ぜひ体験して。この圧倒的読書体験を実感してほしい。そしてこの本について、誰かと熱く語りたい! 募集してます。
(あ、この本は、kindleじゃなくて、ぜひ、紙の本で読んでください。理由は開いたらすぐわかると思います)

あのオバさんもあの小娘も、みんな、私 『マリコ、うまくいくよ』

『マリコ、うまくいくよ』(益田ミリ/新潮社)

30歳そこそこの女子が、「いやあ、私なんかもうオバさんですよ」と言った後に、その場に私(42歳)がいたことに気づいた時の「やばっ、ごめんなさい」って空気、
あれ、どうにかならないですかね。ものすっごく流れ弾にあたった感、あるんですよ。この場を借りて、telling,世代の皆さんに注意を促したいわ。

でも、一方で、あなたたちの気持ちもわかる。だって、私も私の同級生の友人たちもみんな、42歳なんて歳がリアルに自分の身に訪れるなんて、思ってなかったわけだよ。ほんとだよ。このコミックエッセイ、読んでほしいよ。ここに全部描かれているから。

社会人2年目、12年目、20年目。同じ職場で働く3人のマリコたち。どのマリコもあなただし、私でもあって、いちいちハッとする。そして涙腺が緩んできてからの、最後のエピソード……。参りました。

何年もかけて読む価値がある短い詩 『自分の感受性くらい』

『自分の感受性くらい』(茨木のり子/花神社)

ミレニアル世代が1000人以上集まったあるカンファレンスで、登壇者の一人が突然読み上げた詩が、この本の標題にもなっている「自分の感受性くらい」でした。
時間が押してたし、台風直撃で帰りの電車が心配だったし、「最後にこれだけ読ませて」と登壇者が言った時は「まだ続くんかい!」って空気が一瞬流れたけれど、彼女が朗読を始めた瞬間、会場全体がしーんとなった。

ぱさぱさに乾いてゆく心を/ひとのせいにはするな/みずから水やりを怠っておいて
から始まるこの詩は、
自分の感受性くらい/自分で守れ/ばかものよ
で、終わる。

次の日、すぐにこの詩集を手に入れた。短い詩ばかりだけれど、噛み締めて噛み締めて読んだから、読み終わるまでに何時間もかかったよ。それでもまだ速すぎるかもしれない。何年もかけて読むべき1冊かもしれない。

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熱く語りすぎて、文字数が足りなくなってきました……。ここからはちょっとスピーディに。

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「自己肯定感」は女子にとってのラスボスだと思う。『自分を好きになりたい』

『自分を好きになりたい 自己肯定感を上げるためにやってみたこと』(わたなべぽん/幻冬舎)

女子が抱えるほとんどの問題の根っこは自己肯定感に直結している、というのは私の持論です。つまり、自分を好きになることが、どんな問題でもラスボスだというわけ。
著者は「やめてみた。」などのわたなべぽんさん。自分に自信がなかった彼女が、昔の記憶と向き合いながら、少しずつ自分を大切にできるようになる過程が描かれています。時計を買うシーンで涙腺崩壊。

政治家は想像上の人物じゃない。『平成デモクラシー史』

『平成デモクラシー史』(清水真人/ちくま新書)

政治経済めっきりアレな私です。なのでこの本も、仕事の資料本じゃなければ絶対手を出さなかったのだけど、結果的に「今年最も読んでよかった」一冊でした。
政治家や官僚って顔が見えにくい。多くの人にとって、今の政治家は歴史上の人物(例えば坂本龍馬とか)以上に遠い存在になっちゃっていますよね。きっと。
でもこの本のように、生身の人として描かれると、一気に身近な「実在」の人になる。この国の政治家も政治方針も、私たちの思考と投票の先にある。それって本当は当たり前のことなんだけど、うっかり人ごとのように語ってしまう私たちが「覚醒」するために、ぴったりの本。

親についてそろそろ考えておきたい。『生きるとか死ぬとか父親とか』

『生きるとか死ぬとか父親とか』(ジェーン・スー/新潮社)

今年は、毎月のように友人の親御さんの訃報に触れた。幸い私の両親は健在だけれど、最近は、会うたび「これが最後になってもおかしくないんだよな」と思うようになってきた。友人たちは口を揃えて、「間に合ううちに、親と話しておいた方がいいよ」と、教えてくれていたのだけれど、この本を読むと、その気持ちが固まる。
母親以上に、父親と話をするのは難儀だよね。だけど、後回しになっているいろんなことを、そろそろ本当に聞くべき時期だと思ったよ。実家に帰る前に、読んでみてはどうでしょう。

番外編・2巻目出ますように…。『乙女文藝ハッカソン』

『乙女文藝ハッカソン』(山田しいた/講談社)

このコラムは書籍を紹介するコーナーなのですが、最後に番外編として、漫画を1冊。複数の技術やアイデアを組み合わせて新しいプロダクトやビジネスを生み出す手法=ハッカソンのように、複数で1冊の小説を完成させる設定が面白い、その名も『乙女文藝ハッカソン』。
本好きの人にはたまらない蘊蓄(うんちく)がてんこ盛りで最高です。山田しいたさんは、新人作家さん。新人作家さんの漫画って、1巻目が売れないと2巻目がなかなか出ないらしいのですが、続きがめっちゃ読みたいので、この場で応援です。

  • みなさんの年末年始が、本によって贅沢なものになりますように。
    さとゆみの書評コラム、来年もどうぞよろしくお願いします。また、2019年の水曜日に!

続きの記事<身も蓋もない。誰も言ってくれなかった“リアル”な夢の叶え方>はこちら

ライター・コラムニストとして活動。ファッション、ビューティからビジネスまで幅広いジャンルを担当する。自著に『女の運命は髪で変わる』『髪のこと、これで、ぜんぶ。』『書く仕事がしたい』など。
佐藤友美