本という贅沢。

「女子割」がきかなくなってからが女は勝負じゃ

毎週水曜日にお送りする、コラム「本という贅沢」。9月のテーマは「女子のためのビジネス書」。ミレニアル世代におすすめの一冊を、書籍ライターの佐藤友美(さとゆみ)さんが紹介します。

●本という贅沢。23

『フェミニスト・ファイト・クラブ』(ジェシカ・ベネット:著 岩田佳代子訳/海と月社)

突然ですが、私の母親、信子さんは、もうすぐ70歳になります。
なかなかよいお年頃なのですが、彼女は「シルバー世代」とか「お年寄り」と言われると、嫌な気持ちになると言います。自分はまだ若いので、シルバーと言われるのは心外なんだとか。
しかしその一方で、AIR DOのシルバー割や、映画館のシルバーチケットは臆面もなく使うわけだ。「北海道から東京まで1万円なの!」と言ったりしている。
「シルバー割は使うくせに、シルバーとは呼ばれたくないのか!」と、ツッコミどころ満載なのですが、まあ「あるある」だよね。本人もそのあたりは十分自覚しているでしょう。

で、
フェミニズム問題を真っ向から議論することに躊躇しちゃう感じって、この感覚に似てると思うんですよね。
これまで散々「女子割」使ってきたのに、結婚や出産、出世が絡んできたら、突然「男女平等」かよ。っていう、自分ツッコミみたいなものが、きっと心のどこかで働くんじゃないかなって。
「シルバー割」と真逆で、「女子割」は若い時に使いやすい。で、若い時にこれに甘んじすぎちゃうと、世の中の不平等さに気づくのが遅れる。「あれっ?」と思った時には、声を出しにくくなっている。「これに不満を感じているのは私だけ?」と不安になる。

例えばいま、国会図書館にいるんだけど、手元に『フェミニズムは、だれのもの』(Z会ペブル選書)という本があります。
ここに登場する女子大生のコメントにこんなものがあります。

Y美「男女平等という言葉、すごく嫌い。男性優位でいい。女の子だから重い荷物持たなくていいし、おごってもらえるのに、平等になったら困る(笑)」

Y美「女は家族を養う必要がないから、仕事なんか腰掛けでいいわけでしょ。会社が嫌だったら辞めちゃえばいい。でも男性はそうはいかなくて大変そう。女でよかった〜」

Y美「家事って労働なの? 家事を賃金に換算するなんて、生理的に受け付けられない。好きな人のためにやる家事を労働換算するなんて、どうなんだろう」

……正直、こういうのを読むと、心底イラッとします。
「女の敵は女」って、こういうのを言うんだろうなとも、思う。
でも一方で仕方ないとも思うんですよね。この女子大生Y美のように、女子であるメリットの方が多ければ、「フェミニズムガァーーー」とか、「男女平等ガァーーー」とか息巻いているオバサンたちは、うざったいんだろうなって。

だけど私たちはそのうち知るんですよね。
「女子割」がきかなくなったあとの現実を。

この女子大生だって、学生時代は
若い男 < 若い女
だった構図が、社会に出たあとに
若くもない女 < 若い男 < 若い女 < 若くない男
という構図に変化した時に初めて気づくんだよ!
世の中不平等! 男女平等大事じゃ!!! フェミニズムじゃーってなるってことを。

なぜ、「気づくんだよ!」と断言できるかというと、実はこのイラつく女子大生Y美が「私」だからです。
かれこれ20年前。「今どきの女子大生とフェミニズムの識者をぶつける」という企画で、まだ女子割使い放題だった女子大生の私が言い放った言葉なんですよ。

ああ、あの頃のY美(自分)に言いたい。
おごってもらったり、荷物持ったりしてもらって、喜んでる場合じゃないよ。おごってもらった金額どころじゃない生涯賃金格差あるんだぜ。
あと、「好きな人のためにやる家事は労働じゃない」だと? もうね、完全に労働だから。労働以外の何物でもないから!!!!! 

というわけで、telling,世代のみなさんも、そろそろ先取りしちゃった「女子割」がきかなくなっているのではないかと思うわけです。だんだん「あれ? これって不平等じゃない?」って気づき始める、なかなかよいお年頃だとお察しします。そんな妙齢のみなさまに。

女子同士でいがみ合ったり足を引っ張ったりしないために。
清く正しく、男性たちと、しなやかにファイトしていくために。
そしてまだ「女子割」がきいてる若い女の子たちをドツボにはまらせないために。
どうぞこの本をご活用くださいませ。

職場で男と戦うための本、というと、怖い本だと身構えちゃうのだけど、全編ユーモアたっぷり、皮肉たっぷりで描写されているので、ガハハと笑いながら読めると思います。
実際にパンチを繰り出すかどうかは別として「ああ、この状況に違和感を感じているのは私だけじゃないんだなあ」と気づくだけでも、すごく楽になると思う。もちろん、この本を参考に、実際パンチを繰り出すのもいいでしょう。その時は心から応援する!ファイト!

  • この本の著者、ジェシカ・ベネットさんがウェブ版「タイム」のコラムニストとして任された初仕事は、この連載で紹介した書籍『なぜ女は男のように自信をもてないのか』についてのコラムだったそう。この本も是非読んでみてください。
  • コラムはこちら

それではまた来週水曜日に。

ライター・コラムニストとして活動。ファッション、ビューティからビジネスまで幅広いジャンルを担当する。自著に『女の運命は髪で変わる』『髪のこと、これで、ぜんぶ。』『書く仕事がしたい』など。
佐藤友美