本という贅沢。22

あいつにムカつく理由が、私のほうにあったなんて

毎週水曜日にお送りする、コラム「本という贅沢」。9月のテーマは「女子のためのビジネス書」。ミレニアル世代におすすめの一冊を、書籍ライターの佐藤友美(さとゆみ)さんが紹介します。

●本という贅沢。22

『自分の小さな「箱」から脱出する方法』 (アービンジャー・インスティチュード:著 金森重樹:監修 冨永星:訳/大和書房)

私ごとですが、直近半年ほど、ひっそり人生最大のスランプに入っていました。
どれくらい参っていたかというと、仕事を辞めて田舎に帰ろうかなと思っていたくらいです。
厄年と大殺界と土星がどっかにいくやつ、全部一気にきたのかってくらいの暗黒の半年でした。

それがですね。
この本を読んだ前後で、スランプ、綺麗に抜けたんですよね。
ああ、私のうまくいってないヤツ、全部これのせいだったのか!! と気づいたら、突然歯車がまた回りだし、全部が一気に好転しだした、わけなんです。

まあ、ちょっと聞いてください。
順を追います。

はじまりは、とある人と、険悪になったことがきっかけでした。仮にAさんとします。

とにかく私の言うこと為すこと、いちいちつっかかってくるAさん。少しでもミスをしようものなら、自分のミスは棚に上げ、それをあげつらってくる。
比較的距離の近い人だったので、Aさんとの揉め事がほかの仕事や人間関係にも悪影響を及ぼします。

Aさんのせいで、常に余裕なし。誰と会ってもイライラ。友人に「最近、なんか怖いよ」と言われるくらい。
それを聞いた私は、「くそー、あいつのせいだ。Aさんのせいで、いろいろ上手くいかなくなった」と、よりカリカリし始めます。

そんな精神状態だと、他の仕事相手や友人にも喧嘩腰になります。ちょっと意見を否定されると、「私の方が絶対正しいのに!」と口調が強くなってしまいます。
カリカリしている性格の悪い自分が嫌で家に引きこもるようになります。飲み会を次々欠席。半年で5キロ太り、さらに自分が嫌いになっていきます。

ところが、ある人と仕事をするようになり、その状態が少しマシになってきました。このある人を、仮にBさんとします。私よりも10歳くらい年下の、ミレニアル世代。
Bさんと仕事をしている時は、リラックスできるし、意見も堂々と言える。たとえ「いや、違う案でいきましょう」と言われても、素直に納得できる。自分の性格さえ良くなったように思います。
どうしてBさんといる時だけは、素直になったり攻撃的でなくなるんだろうと思った私は、Bさんを観察してみることにしました。

気づいたのは、Bさんが、誰に対してもフラットなのです。まずは「なるほどー」と意見を受け止めてくれます。「どうしてそう思ったのですか?」と聞いてくれます。
「最近の自分、人に対して攻撃的だったかも……」と薄々思っていた私は、自分もBさんのように振舞ってみようと決めます。

試しに、すでにロクに口も聞けない状況になっていたAさんに、この手法を試してみた。
するとAさん、驚きながらも、自分の意見を話してくれるようになりました。今まで能無しにしか見えなかったAさんですが、素直に耳を傾けるとAさんの言っていることが一理あるどころか、自分の方が間違っていたのかもと思うようになります。

なんだ、コレ? なにが起こったんだ? このAさん、昨日までのAさんと本当に同じ人? 

と、思っていたところで、偶然この本に出会います。
ふおーーーー!!! これだーーーーー!!! 私が上手くいかなくなっていた理由、大殺界でもサターンリターンでもなく、これだーーー!! ってなります。

この本を読んだ今だからわかるのは、Aさんが別人になったのではないということ。変わったのは私の方。私が「箱」から出たので、Aさんも「箱」から出てくれたのだということ。
それから、そもそも私が「箱」から出られたのは、Bさんが「箱」から出ている人だったからだということ。

正直に告白すると、本を読み始めた時は、「この本、Aさんに読ませてやりたい」「Aさんみたいな自分勝手な人が、こういう本を読んで勉強すればいいのに!」って思いながら読んでいた私ですが(この本の主人公にそっくり)……、読み終わって思ったことは、「そんなふうに思っている私こそ読むべき本だった」に尽きます。

読む前と読んだ後の他人の見え方が一気に変わる本だなあと思います。

Aさんとの関係は、驚くほど良好になりました。
それが本一冊で起こってしまうなんて、すごい。
小学生みたいな感想ですみません。ほんとにすごいと思ったんだ!

  • 大ヒットしたので、いろんなシリーズが出ていますが、本家本元はこの緑の本。著者のアービンジャー・インスティチュートは人の名前ではなく、組織内にある人間関係の課題をコンサルや研修で解決している企業です。

それではまた来週水曜日に。

ライター・コラムニストとして活動。ファッション、ビューティからビジネスまで幅広いジャンルを担当する。自著に『女の運命は髪で変わる』『髪のこと、これで、ぜんぶ。』『書く仕事がしたい』など。
佐藤友美