料理とは作業にあらず。食材たちとの「プレイ」であり「ドラマ」である件
●本という贅沢99『カレンの台所』(滝沢カレン/サンクチュアリ出版)
私のまわりには、プロですかってレベルで料理上手な人が多い。だから「趣味は?」と聞かれ「料理です」と答えるのに、ものすごく躊躇する。でもSTAY HOME期間になってしみじみ思うのは、私、やっぱり、料理している時が一番楽しい。
といっても、別に美味しい料理や凝った食事が作れるわけじゃなくてですね、私が好きなのは、彼/彼女らとの「プレイ」だ。
たとえば今朝でいうと、まず、リサに挨拶して扉をあける。ちなみにリサは冷蔵庫の名前。昨年末自殺未遂していろんな方にご心配をかけたサチコから代替わりした。
リサの内部は私にとっては、大奥とか、大名屋敷みたいなイメージ。大奥ではいろんな年齢の子たちがきゃぴきゃぴおしゃべりしていて、たとえば今朝は、ブロッコリー娘と、がっつり目があった。
「ゆみさん、ゆみさん、先週間違って私たちのこと2袋も買いましたよね。一緒に買われてきたコはポトフに嫁入りしたそうですけど、私のこと、ちゃんと覚えていてくれていますか?」
みたいな感じです。
(さとゆみ)「んー、そうだな……。でも今朝は締め切り間に合ってないから、手をかけてあげらんないよ。夜まで待てない?」
(ブロッコリー娘)「ゆみさん、夜になったら『もっと華やかな女がいい』とか言うかもしれないじゃないですか。誰にも会えなくて枯れてしまうくらいなら、安い寝床でも十分です」
(さとゆみ)「そっかー、わかった。じゃ、伊藤ハムのハーフベーコン君とソテーでもするか」
(ブロッコリー娘)「伊藤ハムさんですか……。成城石井さんの7日間漬け込んだベーコンブロックさんも、まだフリーですよね。彼はダメ?」
(さとゆみ)「いやー、朝からあのイケメンはヘビーすぎるでしょ。あれ、ポルチーニちゃんとカルボナーラさせたいんだよね」
(ブロッコリー娘)「わかりました……。ポルチーニちゃんには勝てないです。私、ちゃんと、伊藤ハムさんのところでつとめあげてきます」
(さとゆみ)「あ、そういえば、長生村出身の葉玉ねぎっ子が、まだ1人残ってたよね。一緒に遊ぶ?」
(ブロッコリー娘)「わ、嬉しいです」
(さとゆみ)「よっしゃー、行ってこい! いいオイル使ってあげるから、いい仕事しろよ」
物心ついたときからずっとこんな感じなので、私、多かれ少なかれ、料理をしている人の頭の中って、こんなふうだと思っていた。
でも、ある時、友だちに「ゆみって、どうしていつもニヤニヤしながら料理してるの?」って聞かれて、脳内を実況中継したらドン引きされたんだよなー。
それ以来、これは自分一人の「プレイ」として、楽しむことにしていた。
そう、一人で楽しむことにしていたんだけどさっ!!!!
ここに!!!
ここに、いたじゃんっっ!!!!
私より、めっちゃ激しく「プレイ」している人!!!!
ちゃんといたじゃんっ!!!
って叫んだ料理本が、こちらになります。
では一例として、豚の生姜焼きにおける滝沢カレンさんのプレイぶりを披露していただきましょう。
スーパーを陣取る豚肉をまずは仲間にします。豚肉にはどんな姿であろうと美味しくいただけることが胸を張って言えますので、豚バラでもモモでも肩ロースだろうが細切れだろうが、本当に頭の回転がいい豚肉は変身上手に、私たちに手間をかけさせません。
あとは野菜室に居座りがちな玉ねぎを呼んで、クラスメイトにいたら嬉しい生姜が形を集めるだけです。少人数なのに爆発的な結果を出せる、まさにクラスの人気者たちの作品になりそうです。
という感じですよ。
あのとき、私を奇異なものを見るような目で見た、友人に言いたい!
ほら!! ほら! 滝沢カレンさんも! あんな美女も、プレイしてるよっ! しかも、私より100倍くらいぶっ飛んでるよ。なにせ物語がスーパーから始まってるよ!
でさ、カレンさんのプレイ、まあまあサディストなんだよね。
みりんは入浴剤を入れる程度に入れたら、ハチミツで潤いを少しあげ、さらにお砂糖を少ないからみんなで分けてね、ってくらいふりかまします。せっかく気持ちよく浸かってっていたのですが、ここからは出たくても出られなくなることを、まだあのメンバーは何も知りません。
ふりかまして軟禁で幽閉ですからね。多分、カレンさん、Sだと思うんだ。
冷蔵庫で冷えた身体を熱したフライパンにオリーブオイルを絵描きのように広げたら、一気にあったまった鉄板にドバっと天地分からなくさせます。
ガシャガシャかき回さずに、自力で姿に焼き目がつくギリギリまで私たちは助けません。
これだってなんか、想像できちゃう。フライパンをのぞきこんで
「ふふふ。まだまだいけるでしょ❤️。じわじわいくのもいいでしょー❤️まだ許してあげません❤️」
って、のたうつお肉を見守って美しく微笑む、ちょいS入ったカレンさんの姿が(ファンのみなさんすみませんすみませんすみません)。
ちなみに、付け合わせのキャベツは
千までいかなくても、500切りにして水に沈めておきましょう
らしい。腹筋痛い。最高かよ! 一冊読み終わって次の日起きたら、ちょっと筋肉痛になってたよね。
なにが言いたいかっていうと、料理はプレイだってことです。
プレイだし、ドラマだし、なんなら小旅行だ。
この本めちゃくちゃ売れているらしいから、そのうち、料理におけるさまざまなプレイスタイルが、市民権を得るだろう。
これからは堂々と、趣味は料理(プレイ)ですって言おうっと。
・・・・・・・・・・・・・・・
ここまでの文章で想像つくかもしれませんが、『カレンの台所』はレシピ本ですが、材料の分量も調理時間も(みんなに等しく理解できるようには)書かれていません。
このあたりは、『レシピを見ないで作れるようになりましょう』が先駆者でしたよね。
よろしければ、こちらもどうぞ。
・・・・・・・・・・・・・・・
それではまた来週水曜日に。
●佐藤友美さんの新刊『女は、髪と、生きていく』が発売中です!
『女は、髪と、生きていく』
著:佐藤友美
発行:幻冬舎
telling, の本の連載でもおなじみ、ヘアライターとして20年近く活躍されてきた佐藤友美さんの新刊が発売になりました。 ファッションより、メイクより、人生を変えるのは「髪」だった! 本当に似合う髪型を探すためのヒント満載の1冊です。
佐藤友美さんのコラム「本という贅沢」のバックナンバーはこちらです。
・デブには幸せデブと不幸デブがある。不幸なデブはここに全員集合整列敬礼!(テキーラ村上/KADOKAWA/『痩せない豚は幻想を捨てろ』)
・恋愛で自分を見失うタイプの皆さん。救世の書がココにありましたよ!(アミール・レイバン、レイチェル・ヘラー/プレジデント社/『異性の心を上手に透視する方法』)
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