本という贅沢81『女は、髪と、生きていく』(佐藤友美/幻冬舎)

人と比べないから楽になれる。自己肯定感クライシスに「髪型」でひとつの解を

毎週水曜日にお送りする、コラム「本という贅沢」。12月のテーマは「大掃除」。 今回は特別版。書籍ライターの佐藤友美(さとゆみ)さんの自著『女は、髪と、生きていく』を、自ら紹介してもらいます。「女性と自己肯定感」というミレニアル女子が抱える永遠のテーマについて、さとゆみさんが「髪」を通して伝えたかったこととは?

●本という贅沢81『女は、髪と、生きていく』(佐藤友美/幻冬舎)

『女は、髪と、生きていく』(佐藤友美/幻冬舎)

年末って、1年で女性が一番髪を切る時期なんですよ。他の月に比べて圧倒的に美容院に行く人の数が増える。きっと、新しい年を新しい髪で迎えたい。そんな気持ちになるんだろうな。

そんな「新しい気持ちで新しい年を迎えたい」人に、なりふり構わず今日は私の本を紹介させてほしい。宣伝かよって思った? 思ったよね(笑)。でも、ちょっと聞いてほしい。自意識をこじらせていた、私の話。それを取り払ってくれた髪の話。

かれこれ20年ほど前。ある有名なライターさんのアシスタントでファッション誌の仕事を始めたとき、初日の仕事はヘアアレンジの撮影だった。正直言って「髪のページか……やだな……」と思った。

2001年。私がライターになった年は、カリスマ美容師ブーム(って知ってる?)まっただ中で、撮影現場には、私の地味で真面目な人生の中では一度も出会ったことのない、チャラい見た目の美容師さんたちがたくさんいた。
「住む世界が違う――」
そう思ったのを覚えている。

キラキラのモデルさん、チャラチャラの美容師さん、ストイックなカメラマンさん。私の師匠のライターさんも、ものすごくおしゃれな方だった。「私だけ場違いだ」と、田舎に帰りたくなった。ちなみに田舎は北海道です。

だけど、何度も髪型の撮影現場に立ち会ううちに、あれ、髪って面白いかもって思うようになった。

美容師さんが、ちょっとモデルの分け目を変えるだけで、ちょっと前髪をいじるだけで、写真の仕上がりが全然変わる。魔法かよ。彼らが毛束をいじるたび、女の子たちの表情まで変わって見えた。
すごい。髪って、すごいかも。

衝撃を受けたのは、ダイエットの企画の時だった。1カ月で3キロやせた読者モデルさんを撮影したのだけれど、その差が写真では全然わからない。もちろん、修正でごまかすなんてご法度。

頭を抱える私たちを尻目に、ヘアメイクさんが、奇跡を起こした。ひょいっと、そのモデルの前髪の分け目を変えたのだ。何をやってもやせた感が出なかったそのモデルさん、一気にほっそりすっきり見えた。
すごい。髪って、すごいかも。

私が、髪にのめり込み始めたのは、この頃からだった。
今、考えると、HERMESを「ヘルメス」と読んで失笑を買った田舎者の私にとって、ファッション誌のヘアページは唯一の希望に感じられたんだと思う。

メイクやダイエットのページに比べて、ヘアには正解がない。二重を目指そうとか、小顔が命とか、そういうんじゃなくて、ショートならショートの素敵さがあるし、ロングにはロングの美しさがある。みんな違って、みんないい。誰かと比べなくていい。そんなヘアページの特性にも惹かれた。

しかも、チャラいと思っていた美容師さんたちは、「どうやったら女の子たちが可愛くなれるか」の企画のために、深夜何時まででも一緒に考えてくれる人たちばかりだった。

ヘアページでは髪を切ったりカラーをしたりするから、プロのモデルだけではなく、一般の読者が参加してくれるのも、私にとっては魅力だった。スタジオに入る前と、髪を切ってスタジオを出る時では、別人のように生まれかわる女の子たち。そのはじけるような笑顔を見るたび、いつもその両手を握ってぶんぶん振り回したい気持ちになった。良かったね!! ほんと良かったね!!

そうこうして、気づけば43歳。ずっと髪の持つ魅力に取り憑かれて走ってきた20年だったなと思う。

私が髪のことが好きで、髪の持つ力をいろんな人に知ってもらいたいな、と思う理由はたくさんあるのだけど、
でも、よくよく考えてみると、一番大きな理由は、髪が「自己肯定感」に直結していることではないかと思う。

このコラムでも、ずっと、「女子と自己肯定感」について考える本を紹介してきたけれど、
「自分を好きになること」
「自分に自信を持つこと」
「自己肯定感を持つこと」
は、現代に生きる女性にとってのラスボスだ。多くの女性が、ここに苦しんでいる。

で、髪は、この自己肯定感問題に、ひとつの解をくれると私は思っているのです。

どうして髪が自己肯定感問題に直結するのか。

これは20年近くヘアライターをやってきて知ったことなのだけれど、「髪型にはキャラがある」から。

おとなしい髪、活発な髪、色っぽい髪、清楚な髪……。
この髪のもつ「性格」をうまく使えば、自分の第一印象をコントロールすることができる。

詳しくは本にたっぷり書いたので、よければ見ていただけたら嬉しいのだけれど、本キャラ(本当の自分の性格)と髪キャラ(髪が持つキャラ)を一致させたら、生きるのがすっごく楽になる。

婚活アドバイザーの第一人者の方に、こんな話を聞いたことがある。
「結婚したいのに、なかなか結婚できない女性の共通点は、自己肯定感が低いことなんですよ。自分を肯定できないから、自分を好きだと言ってくれる男性のことも信用できないんです。だから一番大事なのは、自分を好きになることなんですよ」
と。

それを聞いた私は、ああ、なるほど! と思った。
素敵な髪型を手に入れた女性たちから、「彼氏ができました」とか「結婚しました」という報告をたくさん聞くのは、単に髪が可愛くなったからだけじゃないわけね。

彼女がその髪型を手に入れることで、自分を大切にしたり、好きになったりして、自己肯定感があがったから、「あなたのことが好きです」と言う彼の言葉を、素直に受け止められるようになったのか。そう気づいた。

自分と人を比べるのではなく、自己肯定感を持って、自分らしく生きていくこと。それは、本当の自由を獲得すること、ともいえる。
そのプロセスを経る過程で、私はたくさんの女性に、人と自分を比べることから
自由になってほしいと思う。
口で言うほど簡単じゃないのはわかってる。だから、この本を書きました。

よかったら、みてね。

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これまで、この本の取材を20回ほど受けたのですが、取材中に、この本に書かれた内容について話しながら、泣きだしてしまう女性があまりに多いことにびっくりしました。女子の自己肯定感クライシスは、本当に社会の課題なんだなと思います。誰かにとって、この本が何かの解決策になればうれしいです。

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それではまた来週水曜日に。

●さとゆみさんのワークショップ12月15日@築地で開催!
さとゆみさんの著書『女は、髪と、生きていく』(幻冬舎)出版にあわせ、ワークショップでは、「髪型」を手がかりに、「なりたい自分」について考えを深めます。
女性が対象。無料。要申し込み。【詳しくはこちら】



佐藤友美さんのコラム「本という贅沢」のバックナンバーはこちらです。

『何があっても「大丈夫。」と思えるようになる 自己肯定感の教科書』(中島輝/SBクリエイティブ)/「どうせ私なんか」と決別する。SNS時代の自己肯定感の高め方
『この世でいちばん美しいのはだれ?』(神崎恵/ダイヤモンド社)/女に生まれてよかったと大声で言っちゃいけない感じそろそろやめたい
『ブスの自信の持ち方』(山崎ナオコーラ/誠文堂新光社)/そろそろちゃんと考えたい。見た目とどう付き合っていくか問題

ライター・コラムニストとして活動。ファッション、ビューティからビジネスまで幅広いジャンルを担当する。自著に『女の運命は髪で変わる』『髪のこと、これで、ぜんぶ。』『書く仕事がしたい』など。