本という贅沢53『この世でいちばん美しいのはだれ?』

女に生まれてよかったと大声で言っちゃいけない感じそろそろやめたい

毎週水曜日にお送りする、コラム「本という贅沢」。5月のテーマは「美」。女性にとって「美」とは何なのか。美にまつわる本を、書籍ライターの佐藤友美(さとゆみ)さんが紹介します。

●本という贅沢53『この世でいちばん美しいのはだれ?』(神崎恵/ダイヤモンド社)

生まれ変わったら「ホテルの精」になりたいと公言している私ですが、もし、間違ってまた人間に生まれたら、絶対女がいい。100回転生するなら、99回までは女がいい。
来世では小さい頃からスカートを履きたい。ロングヘアにしていろんなアレンジしたいし、メイクもめっちゃ覚えて、コスプレもしたい。自分の女体を楽しみ尽くして、モテまくりたい。できれば子どもはバスケチームができるくらいほしい。パパが全員違えばなおいい。

女って、わりと楽しい(と、私は思う)。
ヒールを履くのも好きだし、メイクで顔が変わるのも好きだし、爪塗るとアガるし、ファッションだって男性服の5倍はバリエーションある。そもそも私、おっぱいが好きだし、丸っこい女体が好きだ。子どもを産めるのも楽しい。

ってこと、最近、ちょっと大声で言いにくくなっていませんか?

最近、よってたかってみんな、女は生きづらいという。
確かに、女でいるだけで大変なこともある。
って、そもそも私もそういうコラム、ここで書いたりしている。

真面目な話をすると、自由のカケラもなかった時代の女性は、生きづらいという認識すら持てなかっただろうから、私たち女性は、世界が広いということを知ったこのご時世にはじめて、ああ、これまで生きづらかったんだということに気づいたんだと思う。気づいてしまったからには、鈍感な時代に戻ることはできない。

だけど、

女を見た目や年齢で判断すべきじゃないよねという話と、可愛くなりたいとか若々しくいたいという女性が軽率だという話は別だと思う。

見た目にとらわれないことが大事、というけれど、見た目にとらわれないと決めつけることは、自分を見つめないと決めてしまうことでもある。それは自分自身の心を毀損してしまわないか?

女を武器にすることと自分を武器にすることは、違うのか? 同じなのか? 見た目を武器にすることは、頭脳を武器にすることや俊足を武器にすることと、違うのか? 同じなのか?

このへん、私もいま全然考えがまとまっていなくて、だからちょっとボールを放るだけ放ってしまうのだけれど(これ、めっちゃ危ないんだろうな)

とにかく、

「女は生きづらい」
という言葉が認知されればされるほど
「女はもっと女を楽しめる」
という気持ちまで一緒にしゅんと萎えることが、
いま、私にとって一番、息苦しい。
みんなはどうなんだろう。

さて、これほど「美」について語ることが難しい昨今、私にとってひとつの道筋を照らしてくれる先導者みたいな存在が、美容家・神崎恵さん、なんです。

この新作『この世でいちばん美しいのはだれ?』は、実は出版前から楽しみにしていました。
なぜなら、この本は神崎恵さんという稀代のタレント(本来の意味での)と、彼女を発掘した編集さんが、数年ぶりにタッグを組んだ作品だったし、多作の神崎さんの書籍の中でも、この本は多分彼女のマイルストーン的な立ち位置になるだろうと思っていたから。

それと、私自身がとにかく、神崎さんが好きだから。神崎さんのことは、美容家になられる前から存じ上げていたけれど、当時から彼女の周りだけ空気の密度が違った。大勢いるモデルさんたちの中でも彼女は「絶対に丁重に扱わなくちゃいけない」オーラがあった。

だから、知りたかったんですよね。
彼女は、いま、「美しさ」についてどう語るんだろう。

なんというか、この息苦しい2019年のはじまりを、彼女がどのように切り開いてくれるんだろうというのに、ちょっとすがりたい気持ちがあったからです。

はたして、この本の「はじめに」は、とてもとても深いものでした。

それまでただの悪役だと思っていた白雪姫の継母の気持ちが、今ではわかってしまうという言葉で始まる神崎さんの「美」へのからみあう複雑な思い。
女性が今の時代を生きることの苦しさと、女性が今の時代を生きやすくなる手段は、実は表裏一体であること。

黒か白かと決めつけることができるような、歯切れのいい単純な言葉ではないけれど、でも、だからこそ、じわっと染みるものがありました。

やっぱり、「美」とは、自分を大切に扱うことの先にある。
自分を大切に扱うと決める、その手段のひとつが、「美」であり「美容」なのだと。
それを確信させてもらいました。

あらためて神崎さんは、素晴らしい美容家さんだと思うし、みんなが言葉にできない想いを言葉に紡ぐことができる方なのだと感じました。


女に生まれてよかった。大変なこともあるけど、やっぱりよかった。自分を可愛がる手段をたくさん持ててよかった。
そう思える一冊です。

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この本の編集を担当されたのは、ダイヤモンド社の中野亜海さん。日本のファッション本、美容本のトレンドを牽引する編集さんです。本書も、他の本では決して見られない、構成の工夫が散りばめられていました。
中野さんに「どのように神崎さんと出会いベストセラーが生まれたか」について聞いた記事も是非ご覧ください。

【編集者・中野亜海さんに聞く、ヒットのつくり方】
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それではまた来週水曜日に。

年間10冊以上を担当する書籍のライターとして活動。ビジネス書から実用書まで幅広いジャンルを担当する。自著に『女の運命は髪で変わる』『道を継ぐ』など。