編集者・中野亜海さんに聞く、ヒットのつくり方
「ウキウキさせる言葉」を持っている、講師、38歳! 中野さん流著者の発掘法
2万部売れれば大ヒットと言われる女性実用本の中で、ベストセラーを連発している中野亜海さん。私、さとゆみは過去2冊、仕事をご一緒したことがあるのですが、とても明確な編集論を持って本づくりをなさっている方です。今回はそんな中野さんに、どんな職業の人にも仕事に活かせる「ヒットのつくり方」「自分の強みの生かし方」の極意を伺いました。
●中野亜海さんが手がけたおもな本
- 『暖かいのにおしゃれになれる』(山本あきこさん/9万5000部)
- 『毎朝、服に迷わない』(山本あきこさん/12万部)
- 『周囲がざわつく自分になる 必要なのはコスメではなくテクニック』(長井かおりさん/10万部)
- 『美しくなる判断がどんな時もできる』(長井かおりさん/5万部)
- 『読むだけで思わず二度見される美人になれる』(神崎恵さん/13万部)
――今日はずばり、「どうして中野さんの本は、全部面白いのか?」を聞きにきました。中野さんは、新人の著者さんを続々発掘して大ヒットさせていて、その目利き力がすごいと感じます。この人の本を作ろうと決めるポイントは?
中野 『読むだけで思わず二度見される美人になれる』の神崎恵さんは、初めてお会いしたときから、相手を面白がらせる話がとても上手でした。美容の知識が豊富なのはもちろんですが、「二度見される美人」とか「抱き心地がいい体」とか、それを伝える言葉が際立っていて面白い。しかもその言葉で人をウキウキさせることができる方だったんです。「こんなに人を楽しませる才能がある人は、きっと素晴らしい著者になる」とピンときました。
中野 『周囲がざわつく自分になる 必要なのはコスメではなくテクニック』の長井かおりさんは、あるランニングイベントで、「走っても落ちないメイクの方法」をレクチャーされていて。それがとても論理的だったので、この方も本が書けると感じました。
神崎さん、長井さん、そして『毎朝、服に迷わない』の山本あきこさん。3人に共通するのは、一般の方を相手にセミナーや講習をしていること。いろんな悩みを持つ一般の方たちを相手に解決法を教えている人は、本をつくりやすいと感じます。
それともう一つ。私、女性の著者さんは38歳が最強だと思っているんですよ。たとえば、山本さんは、「どんな女性でも絶対にオシャレになれる」と心の底から思っている方なのですが、それが本心かどうかは必ず読者に伝わります。一冊の本から人格がにじみ出るんですよね。
中野 そういった人格的な面が練られてきて、かつ実績や実力がたまってくるのが、38歳くらいだと思うんです。この時期に出す女性著者さんの本は説得力もあって、読者にも受け入れられやすい気がします。神崎さんも山本さんも長井さんも、最初にご一緒したのは38歳前後でした。
手渡す相手の顔を思い浮かべながらつくる
――中野さんの本は、文字で読ませる本が多いですよね。特に神崎さんの本は、メイク本なのにほぼ写真がなく、美容本の常識を覆した一冊でした。なぜ、あのような本を?
中野 私自身が、雑誌のメイクページがよく理解できないタイプだったんです。写真を見てぱっと理解できる女性もいるのでしょうが、写真よりも文章で解説されたほうが理解しやすい人もいる。だから一度、写真に頼らない本をつくってみようと。
そして、実用書を読む人は、決して「本を読みたいから読んでいる」わけじゃないということを意識しています。私を含め編集者は本をたくさん読む人が多いから、つい誰でも本が好きで本を読んでいると思いがちです。でも、読者の方々は「美人になりたいから」「センスよくなりたいから」という理由で、本を手にとってくれているんですよね。だから、「憧れ」や「素敵」で終わるのではなく、「誰でも必ず真似できる」ようにしたいと思っています。
――つい、つくり手の熱い思いをこめがちですが、読者視点を大事にしているんですね。
中野 ファッション誌では「目のキワにブラウンのシャドウをのせる」と書かれていても、意外とその理由は書かれていないことが多いんです。でも、私はメイクが苦手なので、その理由を知りたい。きっとそれは、メイクが苦手な別の方もそうなのではないでしょうか。「何のためにブラウンをのせるの?」がわからないと腑に落ちないし、その必要性がわからないと、メイクをする時にもうっかり忘れてしまったりします。そこをちゃんと説明してあげる。この書き方でちゃんと明日メイクできるかな? とメイクが苦手な友だちの顔を思い浮かべながらつくっています。
自分の「強み」に気づくとヒットに恵まれる
――中野さんの書籍はタイトルも個性的です。長井かおりさんの『必要なのはコスメではなくテクニック』もインパクトがありました。
中野 あのタイトルは、「降りてきた」感がありました(笑)。私の場合は、「服に迷わない」とか「暖かいのにおしゃれ」とか、読者メリットを全面に出すタイトルが多いと思います。表紙に「どんな自分になれるのか」の結論があると、読者の人たちも手にとってくれやすいかなあと。
『周囲がざわつく自分になる 必要なのはコスメではなくテクニック』
中野 タイトルは、著者さんとお茶会をして案出しすることが多いかな。原稿が全部上がってきた頃に、ケーキを食べながら「この本の特徴って何かなあ」と、おしゃべりするんです。ほかの編集さんよりも、タイトル決めのタイミングは遅いかもしれない。そこで、いろんなキーワードを出し合っていくんです。良い悪いを決めずに、とにかく思いついたら全部口に出す。タイトル案は、毎回、100〜200個くらい考えます。
中野 編集者は、自分の強みが生きるジャンルが何かに気づくと、ヒットに恵まれる気がします。私自身、4年前にダイヤモンド社に移籍したのをきっかけに、それまでに手がけて売れた本を思い返したら、「読んでテンションがあがる本」「すぐ役に立つ本」「お得な本」という共通点があることに気づいたんです。
それが私の強みかもと、その強みが生かせるファッションやメイクのジャンルで頑張るようになってから、結果も出やすくなりました。他ジャンルの本をつくるときも、自然と得意分野でうまくいった方法を応用するので、それが個性になるように感じます。
――まず強みに気づき、得意ジャンルをつくる。それを応用していくというのは、どんな仕事にも共通する話かもしれないですね!
中野さんの最新担当書籍『全身ユニクロ! 朝、マネするだけ』(著者:Hana・4月5日発売)365日全部ユニクロ。マネするだけでオシャレになれる、まさに「超お得」な本です。