本という贅沢62『ブスの自信の持ち方』(山崎ナオコーラ/誠文堂新光社)

そろそろちゃんと考えたい。見た目とどう付き合っていくか問題

毎週水曜日にお送りする、コラム「本という贅沢」。7月のテーマは「大人の女」。大人の女について考える本を、書籍ライターの佐藤友美(さとゆみ)さんが紹介します。

●本という贅沢62『ブスの自信の持ち方』(山崎ナオコーラ/誠文堂新光社)

『ブスの自信の持ち方』(山崎ナオコーラ/誠文堂新光社)

人を年齢で区切るわけではないけれど、telling,世代、つまり30歳前後の大人になったら、「自分や人の見た目」との付き合い方について、なんらかの暫定解を持っているといいのではないかと思う。
「見た目」をどのように考えるかの、自分なりの方針を持っていると、ずいぶん生きやすくなるのではないかと思うからだ。

私自身は、比較的早い時期に、自分や人の見た目について、どのような態度で考えるかの方針が決まった方だと思う。
というのも、なぜか美人に囲まれて生きる人生を送ってきたからだ。

名は体を表すというけれど、私は名前を聞かれるたびに「友達が美しいと書いて、友美(ゆみ)といいます」と答えてきたくらい、友達に美人が多い。

中でも、大学時代にテニスのペアを組んでいた友人は特に美しくて、飲屋街を歩いていると、ナンパをしたい男性たちがぞろぞろついてくるほどだった。
店に入ったら入ったで、どこかのテーブルから「乾杯させて」と男がやってきて、彼女がにっこり笑って乾杯したら、「ありがとう」といって、万札が置かれていることもよくあった。
卒業後はニューヨークに渡ったのだけれど、そこでもスカウトされて、雑誌のモデルをしていると聞いた。

私たちはよく一緒に試合に出ていたし、つるんで飲みに出かけていたし、合コンと言うほどでもないけれど男女混合の飲み会にもよく行っていた。

「友美は、どうしてそんな美人と一緒にいるの? 引き立て役になって辛くない?」と聞かれることもよくあったけど、私自身は、正直そんなことまったく考えもしなかった。
私は、彼女のテニスのプレースタイルがすごく好きだったし、本や映画の話で盛り上がるのも楽しかったし、彼女の人生論を聞くのも大好きだった。

顔も綺麗で、にこにこ笑っている彼女と話をしていると、それだけで眼福。私も幸せな気持ちになった。
私にとって、彼女が美人であることは、彼女の特徴のひとつであって、私は、彼女のいろんな面が好きだったし、彼女が美人であることも好きだった。

あるとき、彼女にこんなことを言われたことがある。
「わたしは友美が羨ましいと思うことがあるよ。だって、友美のことを好きな男って、みんな“本当に”友美が好きじゃん。でも、私のことを好きな男は、私が好きなのか、私の顔が好きなのか、よくわからなくなる」
めずらしく、沈んだ声だった。

この話を私が別の友達にしたとき、「え、その女、何様?」と言われたので、それ以来あまりこの話をしたことはない。
当事者である私は、彼女からこの言葉を言われた時、私を心から認めてくれてるんだなと思ったし、この一見(一聴?)、誤解を招くかもしれないような表現を使って話してくれたことも、すごく嬉しかった。私が、絶対に誤解しない人間だと、信用されてると感じたから。

一方で、私も、彼女の悩みを心から理解できたし、彼女にどんな言葉をかけてあげられるだろうと真剣に考えてきた。

就職してからは、テレビ業界とファッション誌業界で働いたので、女優さんやモデルさんと仕事する毎日が続いた。
その環境のおかげで、私は「自分や人の見た目」に関してどう考えるかの暫定的な見解を定めるのが比較的早かった。

それは、言葉にすると、こんなことだったと思う。

・美人だろうがブスだろうが、いいことも悪いこともある
・美人だろうがブスだろうが、好きになられることもフラれることもある

・美人もブスもその人の特徴のひとつであって全部ではない。

今回読んだ、この『ブスの自信の持ち方』は、20代前半から変更してこなかった私の「見た目に対する見解」を、大幅にアップデートしてくれ、しかも、より納得度の高い状態で、私の身体の中に落としてくれるものだった。

とくに、見た目の話を、ほかのものごとに例えたらどうなるのか、という思考実験の数々は素晴らしく、今まで、誰かに問われてもうまく答えられなかった
・ブスという言葉を使うのはよくないのか?
・見た目で人を判断してはいけないのか?
・ブスの本当の敵は誰なのか?
などが、みるみる書き明かされていくことが感動的だった。

具体的なところは、是非、ご自身で読んで体験してほしい。
私は今年、もっとも興奮しながら読んだ本だったし、中学校か高校の教科書になればいいと思ったし、このような考え方がスタンダードになればいいなと感じたくらいだったよ。

見た目にまつわる問題は、人間の尊厳の問題だし、社会の問題だし、
作家の筆の力はそれを変えていくことができるのかもしれないと思わされた体験でした。

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本文に、「『書評を書くときは、その人の過去作品を少なくとも3冊は読むべき』と言われたことがある」と書かれています。が、ごめんなさい。私自身は、山崎さんの書籍、こちらがお初です(汗)。
筆の力とは、書く力だけを指すのではなくむしろ、思考する力を指すのだと、強く感じました。
どうして今までこの方の本を読んでこなかったんだろうと悔しく思った反面、すでにファンの人よりも多くの初読にこれから出会えることが、この上なく幸せです。全冊読む。何から読み始めようかな。
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それではまた来週水曜日に。

続きの記事<はじめまして村野ミロさん。あなたがあの素敵な女性を作ったのですね>はこちら

年間10冊以上を担当する書籍のライターとして活動。ビジネス書から実用書まで幅広いジャンルを担当する。自著に『女の運命は髪で変わる』『道を継ぐ』など。