結婚観について語った山崎ナオコーラさん

私らしい結婚

山崎ナオコーラさん「私は“結婚おめでとう”って言いたくない」

ミレニアル世代の女性から多くの支持を集める小説家・エッセイストの山崎ナオコーラさん。7月10日に発売されたエッセイ『ブスの自信の持ち方』(誠文堂新光社)では、結婚について「『結婚してすごいですね』って、周りが持ち上げる必要、あるか?」と問題提起しています。私たちが「結婚」について感じるモヤモヤの正体を探っていく特集「私らしい結婚」。今回は山崎さんにお話をうかがいました。

●私らしい結婚

――『ブスの自信の持ち方』では結婚について「(結婚した人のことを)社会的に評価する必要はない」と書いていますね。ナオコーラさんは結婚なさっていますが、ご自身の時はどんなお気持ちだったんですか。

山崎ナオコーラさん(以下、山崎): 結婚したことを報告すると周囲からは「おめでとう」って言われがちですが、私は「おめでとうって言うな」って、つい心の中で思っちゃいました。それは、過剰な反応だというのはわかっているんですけど……。

――本当はどう言われたかったのでしょう?

山崎: 「責任重大だね」「甲斐性あるね」ですかね。私は容姿が悪く、収入の多さが長所でしたから、「これから頑張って稼いで、責任を持つぞ」という気持ちだったんです。

それに「おめでとう」には「価値のある相手を見つけたね」っていうニュアンスがあるような気がしてしまうんです。助けあって生きていきましょう、っていう話なのに。

結婚と社会的評価がごっちゃになることへの違和感

山崎: 元から、結婚という「プライベートなこと」と、社会的評価とがごっちゃにされてしまうことに違和感があったんです。

仕事で成功していたらそれだけで成功者なのに、離婚すると成功者から脱落したみたいに言われてしまう。社会活動と結婚は関係ないはずなのに。

結婚観について語った作家の山崎ナオコーラさん

――社会的な成功者が若くて美人な妻と付き合う「トロフィーワイフ」という言い方への違和感も示していらっしゃいますね。

山崎: きれいなのは奥さんの努力で、旦那さんとは関係ないのに。「価値ある人」と結婚することが良しとされることで、結婚に優劣が生まれてしまうように感じるんです。でも、結婚や離婚、あるいは独身であることに、他人からの評価も優劣も必要ないと思うんですよね。

結婚していると「結婚主義者」(結婚することがしないことよりも素晴らしいと思っていて、人は誰もが結婚するべきだと考えている人)ととられるのも嫌でした。特に女性の場合、結婚する人としない人が、周囲によって意識的に色分けされてしまいがちですよね。結婚している人が全員「結婚主義者」かというと、そうではない。

――色々思うことはあるけど、他に手段がないからとりあえず結婚した、という人も少なくないのかもしれません。

山崎: 最近は結婚していない人に「なんで結婚しないの?」と聞いてはいけない、というマナーが浸透してきたように感じます。結婚しない理由なんて、特にないと思いますし。同じように、私も結婚したことに理由はないんです。既婚者の多くは「流れで」って言うと思うんですよ。「幸せになれると思ったから」「結婚が良いと思ったから」っていう人はほぼいないんじゃないですかねえ。

誰かにとって不都合な制度なら変更すべきでは?

――私の既婚者の友人は「結婚したけど、結婚制度や夫婦同姓に賛成しているわけではない」と話していました。ナオコーラさんも、今の結婚制度には疑問をお持ちですか?

山崎: はい。これまでもエッセイの中で結婚制度に懐疑的な意見を書いてきたので、結婚したというと「改宗したんですか?」と聞かれるんですけど、そうではないです。そこは否定したい。今でも、結婚制度をそのまま肯定してよいのかについては疑問をもっています。

たとえば、なんで同性婚はだめなのか、2人組じゃないとだめなのか……とりあえず、自分たちの場合はしっくりきているけど、誰かにとって不都合なものが制度としてあるのは良い状況ではないんと思うんです。

――ナオコーラさんが、あえて、法律婚をしたのはなぜでしょう?

山崎: そうですねえ……、子どもを望んでいたからですかねえ……。私たちの場合に限って言えば、結婚した方がやりやすいように感じられました。ただ、法律婚はしているけど、結婚制度を肯定しているという気持ちではないです。

取材に応じた山崎ナオコーラさん

――では、ナオコーラさんにとって理想の結婚とはどういう形でしょうか?

山崎: したい人ができて、したくない人がしないでいられる社会が理想だと思います。まずは同性婚ができるように変わったほうがいい。それから、今以上に「しない人生も素晴らしい」という価値観が浸透してほしい。それは文化をつくる職業の務めなのかな、と思うので私も頑張りたいです。

●山崎ナオコーラさんプロフィール
1978年、福岡県生まれ。2004年、『人のセックスを笑うな』でデビュー。小説『可愛い世の中』『趣味で腹いっぱい』のほか、エッセイ集『指先からソーダ』『母ではなく親になる』『ブスの自信の持ち方』がある。目標は「誰にでもわかる言葉で、誰にも書けない文章を書きたい」。

ブスの自信の持ち方

山崎ナオコーラ

誠文堂新光社

telling,の妹媒体?「かがみよかがみ」編集長。telling,に立ち上げからかかわる初期メン。2009年朝日新聞入社。「全ての人を満足させようと思ったら、一人も熱狂させられない」という感じで生きていこうと思っています。
写真家。1982年東京生まれ。東京造形大学卒業後、新聞社などでのアシスタントを経て2009年よりフリーランス。 コマーシャルフォトグラファーとしての仕事のかたわら、都市を主題とした写真作品の制作を続けている。
私らしい“結婚”