私らしい“結婚”

生きづらさの原因は、制度の古さ?『生涯未婚時代』著者に聞く結婚の現実

「事実婚」や「契約結婚」など、今まで馴染みが少なかった結婚のスタイルをよく聞くようになりました。個人がが生き方や働き方を選べるようになり、結婚生活のありかたも多様化しています。家庭社会学の永田夏来先生に結婚制度についてお話を聞きました。

●私らしい“結婚”

実は画一的な結婚制度

――telling,では「契約結婚」や「事実婚」「ポリアモリー」「オープンマリッジ」など、色々なカップルが紹介されています。このようなパートナーシップの多様化についてどうお考えですか?

永田:「契約結婚」と「事実婚」は一対一のカップル関係をどう位置づけるかという話、「ポリアモリー」と「オープンマリッジ」は性愛的価値観の多様性の話と分けて考えてみるとわかりやすくなるかと思います。

性愛の多様性が一般化しつつあるので、結婚の形も多様化しているように見えますが、現在日本では、制度上の位置付けが明確な婚姻関係は実は一種類しかありません。皆さんが知っているように、婚姻届けを出して戸籍を作り直し、どちらかの苗字を変えるという、「法律婚」ですね。

――「事実婚」は、結婚ではないんですか?

永田:「事実婚」は、「婚」という名前はついていますが、同居や本人の了承などの実態を持つカップルを夫婦同然とみなすというものです。その判断は自治体に任されていますから、国が制度化している「法律婚」とは仕組みの水準が違うということになります。

一般的に「事実婚」を実践している方は、カップルで同一世帯にし、世帯主との続き柄を「妻(未届)」あるいは「夫(未届)」と住民票に記載するという形を選んでいる方が多いようです。

「事実婚」としての届出用紙等がある訳ではないので、こうした記載変更が窓口で断られることも以前は少なくなかったと聞きます。最近そういうトラブルはあまり聞かなくなりましたので、自治体の理解もだいぶ進んだなとは思います。

――法律婚で結婚した夫婦と、ほかのカップルの違いはなんですか?

永田:お金に関することが大きいですね。例えば夫婦のどちらかが亡くなって遺産を相続する場合、「法律婚」をしていると相続人としての立場が強く守られます。

税制の面でも基礎控除が受けられるといったメリットがあります。住宅ローンも共有名義にする場合は、法律婚の夫婦であることが前提とされることが多いようです。また、生まれた子どもは嫡出子となり、夫婦共同で親権を持つことができます。

ところが、「事実婚」は夫婦や親子としての権利が「法律婚」のように守られてはいません。例えば夫が亡くなってしまった場合、遺言状などをしっかり残しておかないと、妻を飛ばして夫の父や母が相続の面で有利になる可能性があります。

子どもが生まれた場合も、各種手続きを経ないと未婚の母と同じ扱いになります。こうした事実に違和感を持つ人も多いのではないでしょうか。

――正直、かなり違和感があります。法律婚か、それ以外かで、両極端な気がします。

永田:日本の婚姻制度は他の国に比べても画一的だなと思います。たとえばフランスにはPACS(パックス)という制度があって「別れる時はどちらか一方の申し立てで解消できる」「パートナー間の税制上の優遇」という関係性が法的に認められています。

嫡出子と非嫡出子の区別は廃止されているので、PACSで生まれたことを理由に子どもが不利益を受けるようなこともありません。

生き方が変わってきているのに、制度が追い付いていない

――実際の世の中は、恋愛や結婚についての考え方・価値観が変わってきていますよね。

永田:そうなんです。1960年代前半はまだ見合い結婚が多く、二人でお茶をしていたら周りからあの人たちは結婚をするんだろうと思われる、そんな時代だったと聞きます。結婚前に性交渉するなんてもってのほかで、結婚前には手をつなぐ程度のお付き合いだったのではないでしょうか。

それが90年代中盤になると、大きく変わり始めます。働き方や生き方の自由度が増し、恋愛・結婚ももっと自由でいいのでは?という意見が出てきたのです。婚前交渉が必ずしも結婚に結びつく訳ではないという声が多くなりました。

出典:NHK放送文化研究所 放送研究と調査2014年7月号「日本人の意識・40年の軌跡(1)」P17より

https://www.nhk.or.jp/bunken/summary/research/report/2014_07/20140701.pdf

さらに20年が経った今、恋愛した相手と必ず結婚しなくてはならないという意見の方はかなりの少数派になったのではないでしょうか。婚前交渉についても、抵抗がない人が増えました。妊娠先行型結婚(いわゆる「おめでた婚」)で生まれたと見られるケースが第一子出生のうち4分の1になったという数字にも現れています。

出典:厚生労働省 平成22年度「出生に関する統計」の概況 人口動態統計特殊報告

(出典元のリンク)

【取材後記】
結婚や仕事、人生観が多様化しており、カップルの在り方も一つではない。価値観は人それぞれなのに、日本では、法律で決められた戸籍に入るたった一つの方法でしか正式な結婚と認められない不自由さを感じます。窮屈さを開放し、堂々と心地良い生き方をするために、私たちが考えることは何でしょうか。第2回に続きます。

  • ●永田夏来(ながた・なつき)先生 プロフィール
  • 長崎県出身。2004年に早稲田大学にて博士(人間科学)を取得後、関東・関西の各大学で非常勤講師を務める。現職は兵庫教育大学大学院学校教育研究科講師。専門は家族社会学。
東京生まれ。千葉育ち。理学療法士として医療現場で10数年以上働いたのち、フリーライターとして活動。WEBメディアを中心に、医療、ライフスタイル、恋愛婚活、エンタメ記事を執筆。
写真家。1982年東京生まれ。東京造形大学卒業後、新聞社などでのアシスタントを経て2009年よりフリーランス。 コマーシャルフォトグラファーとしての仕事のかたわら、都市を主題とした写真作品の制作を続けている。
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