バツ3、現在事実婚の弁護士に聞く「法律婚と事実婚ってどこが違うの?」

今年7月、はあちゅうさんがAV男優のしみけんさんとの事実婚を公表したことで話題となりました。しかし、事実婚っていったいどういうもの?法律婚と比べてデメリットはないの?と疑問に思っている方もいるのではないでしょうか。そこで、これまで3度の結婚と離婚を経験し、現在事実婚をしている原口未緒弁護士(43)に、事実婚について教えていただきました。

●バツ3、現在事実婚の離婚弁護士〈前編〉

事実婚に手続きはない

――はあちゅうさんがAV男優のしみけんさんと結婚を公表したことが話題となりました。

原口さん(以下、原口) 別のメディアで取材を受けて彼女の事実婚を知ったのですが、相手が相手だけによく公表されたなぁと思いました。SNSでもかなり話題になっていたようで、多くの人に事実婚という制度を知ってもらえる機会になり良かったと思います。これまでも芸能人などで事実婚の方はいましたが、それほど話題にはならなかったので時代が変わってきたのかなと。

はあちゅうさんの影響なのか、最近、事実婚の相談が2~3件あったんですよ。「事実婚を考えているんですけど、どうしたらいいですか?」って。事実婚は法律婚と違って「婚姻届を提出する」といった手続きはないので、「特にやることはないですよ」ってお伝えしただけなんですけどね。

――では、そもそも事実婚って何をもってそういうのでしょう?

原口: 特に何もないんです。はあちゅうさんは住民票の続柄欄に「妻(未届)」と記入して提出したようですが、これも必須ではありません。実際、私はパートナーと一緒に住んでいますが、お互いが世帯主として登録しているので別世帯。住民票を提出すると「結婚した」という実感が湧くので、初婚の人にはいいかもしれませんね。

また、彼女はしみけんさんのことを「旦那」と言っていましたが、私はパートナーのことは「旦那さんみたいな人」と言っています。このあたりの認識や呼び方も夫婦によってさまざまだと思います。

法律婚との違いは、パートナーに財産の相続権がないこと

結婚後の生活に関しては、勤め先にもよりますが、基本的には扶養控除も受けられますし、健康保険にも加入できます。法律上の結婚と違うところがあるとすれば、パートナーに財産の相続権がないくらいです。ただし、これも遺言を残しておけば問題ありません。

ちなみに裁判では、法律婚をしていなかった場合、家庭の財布が一つだと事実婚だと認定されることが多いです。もちろん、家庭内の財布が別々の夫婦もいますので、あとは気持ちの問題ですね。お互いの両親に会っているか、友人にはどのように紹介していたのか、などが判断材料になります。ただ、一方が事実婚だと思っていて、もう一方は同棲だと思っていた、なんてケースはほとんどないと思いますよ。

「事実婚で生まれてくる子は大丈夫なのか」

――法律婚も、事実婚も制度面ではほとんど差はないんですね。それでも相談にくる方がいるということは、やはり皆さん事実婚に対して不安があるのでしょうか。

原口: そうですね。相談に来られた方の一人は、事実婚を考えている娘さんのお父さんでした。「妊娠中の娘が事実婚をすると言っているけど大丈夫なのか」と。やはりお父さん世代には馴染みがなく、不安があるのでしょう。私の父も同じように「子どもは大丈夫か」と心配していました。

子どもに関しては、父親に認知さえしてもらえれば普段の生活では何も問題ありません。ですが、法律の世界では戸籍上で夫婦関係にある男女の子どもは「嫡出子」、それ以外の子どもは「非嫡出子」と言われます。戸籍上の続柄表記も、以前は、前者は「長男」「長女」、後者は「男」「女」と書かれましたが、2004年に法改正され、どちらも「長男」「長女」と書かれるようになりました。相続財産についても、以前は非摘出子は嫡出子の1/2でしたが、こちらも2013年に法改正され、現在は同等となっています。

3回の離婚を経て、事実婚を選んだ理由

――現在のパートナーとは、なぜ事実婚を選んだのでしょうか。

原口: 今まで3回離婚しているので、もう離婚はしたくないなと。それなら、そもそも結婚しなければいいのでは、と思ったんです。特に3度目の離婚の際は、元夫の姓で個人事務所を構えていたので、パスポートや銀行口座の名義変更など個人の手続きに加え、仕事関係の手続きもあって、とにかく大変で。事務所の看板やら、何から何まで変えて、すべて終えるのに数カ月かかりました。もう名前は変えたくない、と思いました。

はあちゅうさんもそうですが、収入面で自立している女性は籍を入れるメリットがあまりないかもしれませんね。

出産の際、手術の同意書のサインは法律上の親族でないとだめだった

――逆にデメリットを感じることはないのでしょうか。

原口: 出産の際に少し苦労しました。私は緊急帝王切開になったのですが、「手術の同意書のサインは法律上の親族のみ」と言われて。想定外で、パートナーが慌てて私の親に連絡したみたいです。また、出産後に息子がNICU(新生児集中治療室)に入ったのですが、それもパートナーだけでは入室できず、私の母が「夫です」と説明して一緒に入れてもらったとか。最近はお産のトラブルも多いので、病院側もセンシティブになっているのかもしれませんね。

あとは家を探す際に、年配の大家さんから「なぜ籍を入れてないの?」と聞かれました。最終的には理解してもらいましたが、やはり年配の方からすると不思議なんでしょうね。

でも、それ以外では何も不自由していません。現在息子は2歳ですが、保育園でもパートナーのことは理解してもらえています。最近は同性婚なども話題になっていますし、多様性が認められてきたのかな、と感じます。

1990年生まれ。早稲田大学文化構想学部卒。新聞記者として勤務したのち、中古車メディアの編集として特集制作などの経験を積む。結婚を機に名古屋に移住し、現在はフリーランスとして活動中。趣味は旅行。
写真家。1982年東京生まれ。東京造形大学卒業後、新聞社などでのアシスタントを経て2009年よりフリーランス。 コマーシャルフォトグラファーとしての仕事のかたわら、都市を主題とした写真作品の制作を続けている。
事実婚という選択