本という贅沢91『やってもやっても終わらない名もなき家事に名前をつけたらその多さに驚いた。』(梅田悟司/サンマーク出版)

在宅やリモートにほとほと参った私たちがパートナーにキレる前に読みたい本

毎週水曜日にお送りする、コラム「本という贅沢」。3月のテーマは「女性を元気づける本」。新型コロナウイルスへの対策のため、在宅勤務やリモートワークを選ぶ方も多いのでは。しかし、夫婦やカップルの間からは今なぜか、悲鳴の声が聞こえてくるといいます。そこには距離が縮まったからこそ見えてしまった「仕事」や「家事」をめぐる矛盾があって――書籍ライターの佐藤友美(さとゆみ)さんが紹介します。

●本という贅沢91『やってもやっても終わらない名もなき家事に名前をつけたらその多さに驚いた。』(梅田悟司/サンマーク出版)

『やってもやっても終わらない名もなき家事に名前をつけたらその多さに驚いた。』(梅田悟司/サンマーク出版)

もうみんな薄々気づいていると思うから言っちゃうけど、令和2年は多分、離婚が増えるよね。
別れる夫婦も、別れるカップルもおそらく多くなるよね。

だって、みんな超いきづまってる!!!!!
行き詰まってるし、息つまってる!

みなさん、心頭滅却して耳をすましてください。聞こえますかー。聞こえますかー。
リモートワークで、在宅勤務で、急遽ひとつの家に朝から晩まで一緒にいることになった男女の悲鳴を。
わたしには聞こえる。
っていうか、TLでもDMでも、めっちゃ届いてる。男と女の阿鼻叫喚。

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えっと、順を追って話します。
ちょっとしためぐりあわせで、私、今週と来週の2週間限定で、人生20年ぶりの一人暮らしをすることになったわけです。
なので「誰かうちに遊びにこない?」「誰かご飯いかない?」とSNSにアップしたところ、今日はおいらの誕生日か?ってくらいに、わんさかメッセが届いた。
聞くとみんな、パートナーとの生活にいきづまっているという。

「今日も、彼が在宅勤務。朝ごはんを作ったら、すぐ昼ごはんのこと考えてる……。洗い物しなくていい店でご飯食べたい」(♀・未婚・32歳)

「『こうやってお互いの顔を見ながら仕事するなんて新鮮だね〜♡』と言えたのは最初の2日だけ。今は毎日喧嘩。息抜きに飲みに行きたい」(♂・未婚・35歳)

「夫の会社でしばらく飲み会が禁止されて、毎日直帰してくる。無理」(♀・既婚・33歳)

「3分ごとに『パパ〜』とまとわりつく小1の子ども。『仕事にならないから出社する』と言ったら妻にブチ切れられた」(♂・既婚・37歳)

これぞTHEコロナクライシス。突然降って湧いてきたこの濃密な時間と距離に、男も女もほとほと参ってるよね。
「(面白いから)もっと話を聞かせて」と言ったら、あっちからもこっちからも(なんなら夫からも妻からも別々に)わんさかどっさり膿が出てきて、ああ令和2年は離婚が増えるわ、これ。と確信するにいたった次第です。

彼女/彼の話を聞いていると、たいてい、揉め事や苛立ちの原因になっているのは、
①パートナーの仕事スタンスをはじめて見て感じた失望 
ないしは
②家事まわり全般
だなと思う。

①に関しては、もう仕方ないよね。そういう人だったというわけだから。やっぱり2人だけで愛を育んでいると、相手を相対的に見られないことってあるよね。結婚前の人だったら、間に合ってよかったよねとしか言いようがない。

②のほうは、聞けば聞くほど根が深い。多くの人がここで怒ったりイラついたりしている。
このケースの場合、たいてい、これまで主に一方がやっていた家事に関して、「同条件(在宅)になったにもかかわらず、相変わらず自分ばかりが家事を担当することに対する苛立ち」に揉め事の発端がある。
前提条件が変わると、これまで無自覚にこなしていた、あれやこれやの家事が
「あれ? どうして私ばかり、やっているんだろう」
「なぜ、あの人はやらないんだろう」
となりやすいんだろう。

ここに、令和2年離婚増加(多分)問題の根っこがある。もともとのジェンダー問題がここにきて可視化されたケースも多いので、なかなか根は深い。

で、まあそんな非常事態にこそ、心を落ち着ける良書の紹介だよなと、出版業界の私なんかはポジショントークしたいわけです。
ずばり、私がこんなときにおすすめしたいのは、『やってもやっても終わらない名もなき家事に名前をつけたらその多さに驚いた。』です。

この本は、料理・洗濯・掃除・買い物に分類されない、でも確実に発生して時間を食っていく「名もなき家事」に名前を与え、それを毎日やっている自分を労ってあげよう、ないしは、それを毎日やっている自分をパートナーに認識せしめて感謝させよう、という本です。
たとえばタッパーのフタと容器を正しく組み合わせる家事(タッパー神経衰弱)。
ある。わかりみが深いし、なんなら昨日もやっていた。
所要時間は3分、やれやれ度は65%。

この本のいいところは、「どうせやらなきゃいけないなら、くすっと笑ってしまおう。そして自分を褒めてあげよう」という部分だなって思う。
コロナクライシスで、倒壊寸前の社会と家庭に、いま一番足りていない栄養素が、ここにある。そして令和2年離婚増加(多分)問題を解決する糸口も、多分ここにちょっとある。

まあ、自分ばかりが家事に追われていて、相手の無能ぶりに頭にきているときは、この本の帯にあるコピー「家事なんて無限にある。完璧じゃなくていいじゃないか!」自体が、イラっとくる可能性はある。
それでも。
こうやって、誰かの苛立ちを見える化して、笑って、それを担ってくれる人に感謝して、分け合って……ってできたら、ひょっとしたら、明日の在宅勤務は、もうちょっとマシなものになるかもしれないですね。

なるといいな。
みんな、できれば、仲良くやっていこうね。
できなければ、うちに遊びにきてね。

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社会が否応なく変化を迫られているこの数週間。なにかと制限の多い日々だけど、個人的には悪いことばかりじゃないな、と思います。
家に子どもがいるとどれくらい仕事ができないものか。
家にはどれほどまでに名もなき家事があふれているのか。
それを「リアルに」知った人たちが、会社に戻ったらきっと、社会は変わると思う。
私は実は、コロナショックのあとの世界に、ちょっと期待をしています。

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それではまた来週水曜日に。

佐藤友美さんのコラム「本という贅沢」のバックナンバーはこちらです。

恋愛で自分を見失うタイプの皆さん。救世の書がココにありましたよ!アミール・レイバン、レイチェル・ヘラー/プレジデント社/『異性の心を上手に透視する方法』
・人と比べないから楽になれる。自己肯定感クライシスに「髪型」でひとつの解を(佐藤友美/幻冬舎/『女は、髪と、生きていく』)

・「どうせ私なんか」と決別する。SNS時代の自己肯定感の高め方(中島輝/SBクリエイティブ/『何があっても「大丈夫。」と思えるようになる 自己肯定感の教科書』)

ライター・コラムニストとして活動。ファッション、ビューティからビジネスまで幅広いジャンルを担当する。自著に『女の運命は髪で変わる』『髪のこと、これで、ぜんぶ。』『書く仕事がしたい』など。

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