大ヒット本『妻のトリセツ』を女が読むと、こう思う
●本という贅沢43『妻のトリセツ』(黒川伊保子/講談社+α新書)
非常によくおモテになるイケメンと、馬刺しの美味しい小料理屋でしっぽりお食事をしていた時、彼はその綺麗な顔を歪ませて、こう言いました。
「さとゆみ、オレ、最近、女子を理解するのって永遠に無理なんじゃないかって思ったんよ」
彼は心理学に通じていて、女性顧客の心理を説いた著作もある人です。あらあらどうしたの、と聞くと、『妻のトリセツ』を読んだという。
「男って、“言ってることとやってること”が違うやん。
でも、あの本を読むとさ、
女って、“言ってることと思ってること”が違うって話やん。
それって、もう、どうすればいいんかわからんくない?」
久しぶりに会う彼は、ちょっとだけ元気がないように見えました。
さて。
それはそれとして、彼が言っていた、
「女は“言ってることと思ってること”が違う」
ですが、私たち、女からすると、
「え、むしろ、“言ってることと思ってること”が同じ人っているの?」
って、話ですよね。
私ら女子は呼吸をするくらい無意識に「思ってもいないこと」を口にして生きているから。
ここで、男女はすれ違う。めっちゃ、すれ違う。
この男の脳と女の脳の違いによるすれ違いを、「男性に向けて」、ちゃんと理解できるように書いてくれているのが、この『妻のトリセツ』です。
巷では、日々の妻との小競り合いで削ぎ落とされる夫のHPをセーブする「救命の本」なんて呼ばれているそうですね(にっこり)。
ただね、私、この『妻のトリセツ』。
男性向けの書籍ではあるけれど、女である私たちのほうこそ、読んだほうがいい本だなって思ったんですよね。
というのも、これを読めば、
①「え、夫(彼氏)!ここまで手取り足取り説明されないと、私の言っていること、わかんないの?」と気づくから。
②で、これに気づけば、夫に(彼氏に)過大な期待をするのは無理だってことがわかるから。
③というか、まったく思考回路が違う彼らに、私たちは無理ゲーを迫っていたことにも気づくはず。
④そうしたら、腹立つどころか、わ、ごめんねくらい、言いたくなる(場合もある)かもしれない。
⑤ごめんねは言いたくないにしても、イライラの原因がわかればストレスが減って心が(多少)穏やかになるはず。
というわけで、夫(彼氏)の言動に、いちいち小さく「ちっ」って思う女性に、おすすめの一冊です。
って、今回なんだか私、上から目線で「みなさん、知っておいたほうがよくってよ」みたいな書き方しましたが、これには理由がありまして。
私、実は数年前、この本に書かれているようなことを、体験的に悟ったんですよね。
何があったかというと、男子を産んで、7年ばかり、育てました。
産んで育てたといっても、たかだか、「n=1」の話なので、子育てに関して人様にアドバイスしようなんて厚かましいことは思いません。
だけど、たった、ひとつだけ。これだけは、男の子の子育て経験者として、みなさんに知ってほしいことがある。
「男子は、何も、考えていない」です。
「男子は、本当に、何も、考えていない、生き物」です。
大事なことなので二度言いました。
私も男子を産むまでまったく気づかなかったことが悔やまれるのですが、もうこれ、腰砕けになるほど、本当なんです。
彼ら相手に駆け引きするのは時間の無駄だし(裏の意味なんか読み取れない)、彼ら相手に察してほしいと思うのは時間の無駄です(発していない言葉は届かない)。
このあたり、2歳にもなれば、お互いに顔色うかがって、本心を探り合う同学年の女子たちとは全然違う。3歳にもなれば、人気のパパの前でわざと転んで色目を使うくらいのことをやる女子たちとは全然違う。
もちろん男女同権には賛成だよ。
でも、どこまでいっても、男と女は、違う生きものだから。
その違いを理解するところから、彼との喧嘩も家庭内不和もジェンダー論争も戦争も、防げたりするんじゃないかなと、道徳の教科書のようなことを言って終わります。
- 書籍ライターとしては、この本のクレジットのあり方が面白いと思いました。黒川伊保子さんのクレジットが(著者ではなく)「編著者」で、ライターの坂口ちづさんのクレジットが「取材・原稿」。書籍ライターがゴーストライターと呼ばれていた時代から考えると、時代は変わってきているんだなあと感じます。
それではまた来週水曜日に。