本という贅沢41『愛がなんだ』

コツコツ築いた、なけなしの自信を粉砕する。汝の名は、恋。

毎週水曜日にお送りする、コラム「本という贅沢」。2月のテーマは「女であるということ」。書籍ライターの佐藤友美(さとゆみ)さんが紹介します。

●本という贅沢41『愛がなんだ』(角田光代/角川文庫)

『愛がなんだ』(角田光代/角川文庫)

久しぶりに、こんなに痛い本を読んだ。まあ、ちょっと聞いてほしい。

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上司にちょっと褒められた。
取引先で感謝された。
友達に、その服かわいいねって言われた。
自撮りが盛れた。

そんなささいな出来事を、大事に大事にかき集めて、私たちはなんとか「自信みたいなもの」を、維持している。

その「自信みたいなもの」は、小さなカケラの寄せ集めだから、ほんの少し失敗したらすぐに吹き飛ぶ。
ちょっと調子にのって先輩に偉そうな口きいちゃったかもって思っただけで、はかなく点滅してしまうくらいのもんだ。

そんな、そもそも存在が自体危うい「自信みたいなもの」が、もう瀕死の状態になるのが、恋してる時、だよね。

あれ、“女子の自信防衛本部"からすると、レッドレベルの危険な時期でしょ。
片思いならもちろん、両思いであってすら、この時期、我々女子がやることなすこと考えることは、だいたい、痛い。痛すぎる。

どれくらい痛いかというと、

彼から24時間LINEの返信がこないとき。
友達の彼氏なら「忙しいんじゃない?」って思うくせに、自分の彼なら、「嫌われたんじゃないか」とか、「むしろ死んだんじゃないか」とか、なる。
落ち着け、私ら。彼は生きてる。

かと思えば、
「セックス終わったら、家に帰ってと言われた」と女友達から聞いたら、「それ、セフレ扱いやん」って思うくせに、
自分が言われたら、
「いや、彼、仕事が忙しくて、一人でゆっくり眠りたいんだと思う」とか、なる。
目覚めろ、私ら。現実を見るのだ。

誰もが経験したであろう(したよね?)、そんな痛すぎるあれこれを、これでもかと見せつけてくれる本が、この『愛がなんだ』です。

ちょっと、う、ってなるよ。

マモちゃんに狂うほど片思いしているテルコ。
マモちゃん以外、全部どうでもよくなってしまい、仕事も友達も躊躇なく手離すテルコ。
その痛い様子を、最初は、多少の余裕をもって読むわけですよ。

いやー、さすがにここまではやらないでしょ。
って。

ところがどっこい、ですね。
読んでいるうちに、ホラーのように、ひしひしとくるんだな、これが。

さすがにここまではやらないでしょ(笑)。

いや、やるかも……(苦笑)。

やってしまうかもしれない(汗)。

いや、むしろやったな……(涙)。


過去の犯罪をひとつひとつ、暴かれるような気持ちで一気に読みましたよ。
テルコの激しい「恋」が、歪んだ「愛」に変わるところまで。

いやー、女っていったい何なんでしょう。
どうして、こんな風に、恋に自分を失ってしまうのでしょう。

って、人ごとのように書いてるけど、恋をしたらどうせまたダメなんだ。
私もあなたもテルコになる。

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この小説がお口に合う人は、振る人と振られる人が目まぐるしく入れ替わる、同じく角田光代さんの『くまちゃん』もおすすめ。

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それではまた来週水曜日に。

続きの記事<知ることは、愛すること。こんなん知ったら愛するしかないじゃんか。>はこちら

年間10冊以上を担当する書籍のライターとして活動。ビジネス書から実用書まで幅広いジャンルを担当する。自著に『女の運命は髪で変わる』『道を継ぐ』など。