本という贅沢87『しらふで生きる』(町田康/幻冬舎)

そろそろ本腰入れて考えたい。恋に仕事に人生に、お酒は敵かはたして味方か

毎週水曜日にお送りする、書籍ライターの佐藤友美(さとゆみ)さんによるコラム「本という贅沢」。1月のテーマは「整える」。年末年始、ついつい飲み過ぎたという方も、もう落ち着いてきた時期でしょうか。果たして、お酒は人生の敵なのか、味方なのか。今回は、町田康さんの新著『しらふで生きる』(幻冬舎)を通して、お酒との付き合い方について考えてみます。

●本という贅沢87『しらふで生きる』(町田康/幻冬舎)

『しらふで生きる』(町田康/幻冬舎)

先日ライター講座の受講生に、「さとゆみさんが、インタビューで必ず聞く質問はありますか?」と聞かれた。もちろんそんなものはないので「ない」と即答したのだけれど、家に帰ってから、あ、待てよって思った。

仕事で毎回聞く質問はないけれど、そういえば該当者には百発百中聞いている質問がある。
「あの〜、しらふでどうやって恋に落ちるんですか?」
という質問です。

お酒が飲めない(飲まない)という人と飲み会で会うと、必ずこの質問をしてる。たぶんもう100回以上は聞いてる。

例えば友人(♂)に、お酒を飲んだ女性とキスするだけで救急車で運ばれる分解酵素ゼロの人がいる。もしわたしが彼と付き合うようになったらどのように恋を育めば良いのか見当もつかない。

そういう話をすると別の下戸の友人(♂)は、「でもさとゆみだって高校生の時はしらふで恋愛してたやろ?」という。

そうか、してたような気もする。たぶんしてたんだろうな。四半世紀前過ぎて記憶の引き出しが4次元ポケット。

酒が夜更けすぎに恋へと変わり、円山町やら五反田やらでsilent nightするものだと信じていた私は、決して深酒をしない美女に指摘されてハッとする。「それ、恋ですかね? 性欲じゃなくて?」

え、そうなの? 

彼女は、醜態を晒したくないから、好きな人(好きになりそうな人)の前ではお酒を飲まないのだそうだ。隣の美女も「しらふで落ちる恋じゃないと継続しない」と言う。え、そうなの? 私40年以上も恋の定義間違って生きてたの? アイデンティティが崩壊する音が聞こえる。ガラガラガラコロ。

うむ。いいや、仕切り直そう。

百歩譲って(どこから目線)、酒がなくても恋ができるとしよう。

じゃあ、仕事はどうだ。酒がなくて原稿が書けるか?隅々までスポットライトがあたったクリアな視界で自分を晒す原稿なんて書ける気がしない。酒なしでどうやって底に潜るの? 自慢じゃないけど私のtelling,の半分は酒でできている。

もういっちょ。酒がなくて人生の悲しみは癒せるのか?忘れたいことは?寝れない夜は?泣きたい時は?酒なしでどうやって泣くの?

そこんとこどうよ、ってときに、これですよね。
『しらふで生きる』。

これわたし最初、新聞広告で見たんですよね。自分の著書と並んでた全五段のやつ。広告の文面を見て、もう圧倒的にこっちの本に惹かれてその場でポチっとな。

30年間毎日飲み続けた天才作家が断酒したとき、いったい何が起こったか……ってやつ。

これが『禁煙セラピー』みたいな本なら受けて立とうじゃないか、的な謎の闘争心を持ってページを開いたんだけど……なんかちょっとそういうやつじゃなかったよね、コレ。

なんというか、最初の方はシェイクスピアの漫才みたいだった。あるいは、サルトルの落語みたいだった。

振り上げた拳の持っていきどころに困る、ただひたすらに面白い文章だけが続く。読んでるだけで酔いそうだ。だがしかし、わたしは楽しい気分になりたくてこの本を読んだわけじゃないのだ。示してもらおうではないか、帯にも新聞広告にも大々的に掲載されている禁酒の効用とやらを!(どこから目線)

というわけで、当初の目的を忘れそうになるほど爆笑しながら読み進めると、やっとたどり着きました。

実際に断酒してから起こった変化。目次で言うとその名も「酒を断った私の精神的変化」は、単行本の163ページから始まる。
これkindleでいうと74%のとこなんですけど!後半!めっちゃ後半!

あー、でもなあ、この残りの26%、良かったなあ。

そうかー、しらふの原稿はそうなるかあー。
そうかー、しらふでそうやって人生の悲しみを受け止めるのかー。

なんか、思った以上にしみた。たぶん軽く二日酔いだったからだと思う。
わたしは素直なので、すぐに断酒したよ。もうかれこれ60時間も飲んでない。今月の最高記録。

今日の昼間はちゃんと人生と向き合って、アルコール臭のしない涙を流してきたよ。
出張先での会食のお誘いも断って、このtelling,も久しぶりにしらふで書いたよ。

しらふも悪くないかも。

そう思いながらホテルでシャワー浴びてたら、会食から戻ってきたほろ酔いの仲間が、「原稿おつかれー」と、ワインボトル片手に突撃してきた。

……

ふりだしに戻る。


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次回、『しらふで生きる』にしようと思うんですけど、telling,読者には渋すぎますかね?と聞いたら、

「しらふで生きる、ちょうど私も広告で見て猛烈に読みたいと思っていたところでした(アル中気味なので‥)」

と返信してくれた担当編集さんと今度飲みに行きたい。赤字はいつも端正なのに、アル中気味ってカッコよくないすか。
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それではまた来週水曜日に。

佐藤友美さんのコラム「本という贅沢」のバックナンバーはこちらです。

・理想でメシは食えない。理想と現実の折り合いをつけてなんとかやってい文字数(寿木けい/小学館/『いつものごはんは、きほんの10品あればいい』)
・人と比べないから楽になれる。自己肯定感クライシスに「髪型」でひとつの解を(佐藤友美/幻冬舎/『女は、髪と、生きていく』)

・「どうせ私なんか」と決別する。SNS時代の自己肯定感の高め方(中島輝/SBクリエイティブ/『何があっても「大丈夫。」と思えるようになる 自己肯定感の教科書』)

年間10冊以上を担当する書籍のライターとして活動。ビジネス書から実用書まで幅広いジャンルを担当する。自著に『女の運命は髪で変わる』『道を継ぐ』など。