本という贅沢86『痩せない豚は幻想を捨てろ』(テキーラ村上/KADOKAWA)

デブには幸せデブと不幸デブがある。不幸なデブはここに全員集合整列敬礼!

毎週水曜日にお送りする、コラム「本という贅沢」。1月のテーマは「整える」。新年の抱負として、今年こそ生活習慣を整えようと、ダイエットを誓った人も多いのでは? 今回は、発売直後から話題沸騰のダイエット本、『痩せない豚は幻想を捨てろ』を、書籍ライターの佐藤友美(さとゆみ)さんが紹介します。

●本という贅沢86『痩せない豚は幻想を捨てろ』(テキーラ村上/KADOKAWA)

忘れもしない、昨年の9月のことだよ。
美味しいフォワグラを食べていたら、隣の席にいた非常によくおモテになる鬼畜が、突然私のウエストをつまんできた。

この美男の鬼畜(以下、字面がきついので、キチクとする)とは20年来の友人だ。
芯から女好きで、「女は女であるだけで美しい」とその綺麗な顔で言うものだから、半径1メートル以内に入った女は9割方惚れる。
キチクは、すごく優しくて女性を差別しない。据え膳に対して等しく礼儀正しいイイ男だ。キチクというよりむしろジェントルかもしれない。

そんな、見境なく女を愛でるキチクなのだけれど、その彼が「どう頑張っても無理な女」が私だという。私もキチクだけはなぜか受け付けない。
そんなこんなで、私たちはそんじょそこらにはない固い友情で結ばれている。私にとって彼は何でも相談できるゲイの友人のような存在だし、彼はいつも私を「唯一の女友達」と人に紹介する。

で、キチクと1年ぶりに会ったときのことだよ。
彼は、フォワグラを頬張る私の横顔をしみじみ見て、「ゆみ、太りすぎでしょ。いま何キロ?」と飛ばしてきた。
「ん?体重のこと?しばらく計ってないからわからない」
彼が私のウエストを、長い指でつまんできたのはその直後だ。
「いや、この肉、ダメだよ。すごくだらしなく見える」
「え、べつに、いいじゃん。ふかふかで気持ちよくない?」
私は、その手を払って再びフォワグラに集中する。

私はそもそも、「女は細くあるべき」という風潮が大嫌いだ。女なんて丸くてやわらかいほうが気持ちいいにきまってる(と思いたい)。過剰なダイエットなんかするべきじゃない(と信じている)。体を壊さない程度の小デブが可愛い(と願いたい)。

と、主張したのだけれど、彼はがんとして頷かない。
「いや、これ、そういうレベルの増え方じゃない。今日帰ったらすぐに体重計乗れ」。
そして、続けて言われた。
「これ以上太ると、ゆみ、自己肯定感下がるよ」

体型のことだけを言われたのだったら、気にしなかったと思う。だけど、自己肯定感という言葉がちょっとちくりときた。

家に戻って体重計を引っ張り出してきたよね。うっすらホコリかぶってるやつ。
乗ってまあ、びっくり。
この1年でざっと10キロ太ってた。10キロといったら2歳児1人分だよね。どうりで体が重いと思った。私、身長は154センチなのだけれど、このとき体重が65キロ、体脂肪率が35パーセントを軽く超えていた。この急激な増え方、人間ドックだと個別指導入るレベルだ。

最近、私の服が縮んだのはクリーニング屋さんを変えたからかと思っていたけれど、あれ服が縮んだんじゃなくて、自分がふくらんでいたのか。

キチクが言っていた「自己肯定感が下がるよ」という言葉を思い出す。
たしかに最近、10キロ太ったことに気づかないくらい、自分のことが完全に後回しになっていた。

自分の体の変化に無頓着でいるというのは、自分を粗末に扱っていることと同義なのかもしれない。体重の話だけではない。気づけば、部屋もクローゼットも、肌も髪も体も荒れている。そりゃ、幸せも逃げる。

心を入れ替えて、痩せることにした。

最初の5キロまでは、『月曜断食』(著・関口賢/文藝春秋)を読んで落とした。そこからぴくりとも数字が動かなくなったとき、私がその読書審美眼において最も信頼しているつっつーが、「この本がすごく良かった。私もすぐに2キロ落ちた」と紹介してくれた。

しかし、すごいタイトルだな、これ。
『痩せない豚は幻想を捨てろ』。

で、豚は粛々と読みました。ぶひぶひ。
これ、アレですかね。このテキーラ村上さんって人は、私の知り合いでしたっけね。どうしてこんなに豚の脳内を知っていますかね?
サプリも補正下着も食べた後にのんだら帳消しになるやつも、あれもこれも全部持ってるんですけれど私、テキ村さんにそれ、伝えましたっけ?
ってくらい、

幻想的な豚は、私でした。

テキ村さんは言う。

幸せなデブを否定はしない。幸せなデブは最高だ。
でもお前が不幸なデブなら、生まれ変われ。
デブはマインドである。
不幸なデブは、みんなマインドが間違っている。

そうか。
そういえば、私、太っている自分が好きだと思い込んでいた。
過去におっぱい星人と付き合っていたとき、私は頑張って10キロ増やしてこの上なく幸せなデブになったのだけれど、今の私は、そうじゃない。
栄光のゴールに向かって太ったわけではないのだ。ずるずるモードで10キロもたくわえたのだ。自分に不感症。だから心も疲れていたのか。そんな不幸なデブは卒業してやる。

テキ村さんのダイエットのメソッドには、これをやれば即痩せるというウルトラCは皆無です。
というか、まず「そんなウルトラCがあったらお前らがまだ豚のわけないだろ」と投げ飛ばされます。はい、その通りです。ぶひぶひ。心を入れ替えます。

まだ読んでから4日しか経っていないのに、停滞していた体重が1キロ落ちた。体脂肪率はさらに大きく、するっと落ちた。

春がくるまえに、不幸なデブ(私)は、幸せな小デブになりますよ。
不幸なデブのみなさんは、ご一緒にどうでしょう。

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この本、本文のデザインが凄まじい。これきっと……と思ったら、やはり。杉山健太郎さんのお名前。私が過去もっとも面白いと思ったビジネス書『1秒でつかむ』や、私もお手伝いさせていただいた『僕らはSNSでモノを買う』などを担当しているデザイナーさん。この方のデザインのおかげで、もともとテンポのいい文章が、ジェットコースターに乗っているような感覚で楽しめます。

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それではまた来週水曜日に。

佐藤友美さんのコラム「本という贅沢」のバックナンバーはこちらです。

・人と比べないから楽になれる。自己肯定感クライシスに「髪型」でひとつの解を(佐藤友美/幻冬舎/『女は、髪と、生きていく』)
・「どうせ私なんか」と決別する。SNS時代の自己肯定感の高め方(中島輝/SBクリエイティブ/『何があっても「大丈夫。」と思えるようになる 自己肯定感の教科書』)
・残酷で美しい。この世界の愛し方を教えてくれる本(ブレイディみかこ/新潮社/『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』)

年間10冊以上を担当する書籍のライターとして活動。ビジネス書から実用書まで幅広いジャンルを担当する。自著に『女の運命は髪で変わる』『道を継ぐ』など。